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第六章 四種族大戦編
王達の決定
しおりを挟む「さて、奴らが動き出した。軍を率いての移動だ、恐らく五日はかかるだろう」
西の砦で軍議が開かれている。
決戦の場までは、朝に出れば正午には着く。いよいよだ、準備をしておく必要がある。
「決戦の地は山間である事は話したな。軍を横に広げてぶつかる程の幅はない、二部隊ごとに当たることになるだろう」
「そうだね、先鋒二隊が押せば次の部隊が出てくるょ、逆も然りだけどね」
力攻めになりそうだ。
そこを突破されればこの砦を攻められる事になる、断じて押し負ける訳にはいかない。
王国軍が二部隊、仙族と王国軍の混合で一部隊、そして仙族隊と龍族隊。全て二万人づつの五部隊で約十万人の大部隊だ。
里長が挙手で発言を求める。
「まずは儂らに任せては貰えぬか?」
仙族と王国の皆が驚きの表情で里長を見ている。無理もない、龍族は戦から降りた民族だ。
「元の龍国におっても戦は無かったであろう。しかし、鬼族を牽制しながら暮らすのと、何の憂いも無く暮らすのとでは全く意味が異なる。儂らは千年の平穏を仙族に与えてもらった。今こそ、その恩を返す時である」
仙王は里長が話し終えると同時に口を開いた。
「待て待て龍王よ、君はこちらの大将格であり客将だ。先鋒隊で出るなど賛同出来ん」
「仙王よ、儂は永く生きておる。それは同族の犠牲の上にだ。儂らが奴らを蹴散らせば我が同族は勿論、大恩ある仙族や人族を守る事に繋がる。今回参戦した二万の龍族達は儂の志に賛同した者達を選抜してきた。皆同じ想いだ、汲んでやってはくれぬか? 当然そやつらを亡くすつもりは毛頭ないがの」
仙王は腕を組み目を閉じて考え込む。
「ならば我も出る。仙龍二隊で奴らを叩くぞ」
それを遮ったのは二人の王だ。
「ちょっとラファちゃん! そんな事させるわけないじゃない!」
「そうだ! ラファさんを前線に出すくらいなら、ちゃんボク達が出る!」
「黙れ!」
仙王の一喝で場が静まり返った。
「我は人族を他種族の抑えの為だけに創った。レオナードとシャルロットは快く仙人に退化することを受け入れてくれた。そして我は増え続ける人族を、肉の壁くらいにしか思っておらなんだ。我は今まで口を出すだけで何もしておらん。初代魔王アスタロスに言われたのだ。『臆病者のラファエロ』だとな。確かにその通りだ。無駄に永く生きている訳では無い、龍王が前線に出ると言うなら我も出る。見ておれ、我は強い。良いなティモシー?」
「当たり前だ。お前を守れるのは俺だけだ」
仙王の一喝だ。
二人の王は勿論、仙神国、王国の上層は何も言えない。
仙王は、仙族による人族差別の撤廃に取り組んでいると言っていた。自分の作った規律と思想のせいで多くの悲しみを生んだと心を病んでいた。思う所があるのかも知れない。
「これは何を言っても聞かないょね……分かったょ、ウチも行く」
「なら、ちゃんボクもだね。SSSパーティーで敵さんを蹂躙してやろうじゃないの」
「そんな! 皆様落ち着いてください!」
王国の上層部がバタバタと立ち上がり必死に止めようとする。それはそうだろう。
「おい、二人供……ウェザブール王国には君らが必要だ。二人はこの軍の総大将だ、残れ」
「はぁ? 自分は前線で暴れるクセにウチらにはお預けするの?」
「そうだ、ちゃんボク達も城で窮屈な生活を強いられてるんだ、それはラファさんが押し付けた事だよ?」
自分が言い出した事だ、仙王は困った顔をしている。王都の幹部も王二人をなだめているが平行線だ。
――とんでもない事になってきたな……。
「皆落ち着け、我も意地でこんな事を言い出した訳では無い。人族の軍よりも我々の軍が強いのは分かるだろう。我が軍最強の二隊で一気に叩いてやろうと言う話だ」
確かにその方が被害は少ないだろう。どう考えても人族より始祖四種族の方が強い。
ユーゴは挙手して自分の意見を述べた。
「勿論オレ達も龍族軍で前線に行きます。間違いなく、マモンやアレクサンド達も前線に出て来るでしょう。奴らは暇つぶしでここまで事を大きくしてきた、後ろで大人しく構えているなんて考えられない」
「そうだな、それは間違いないだろう。だとすれば人族軍を先鋒隊に置けば、いたずらに犠牲を増やすだけだ。龍王の申し出で我の考えを修正しただけに過ぎん」
仙王と龍王、二人の国王の決定だ。 部下達が何を言っても覆る事は無い。
「次に宝玉を誰が持つかについてだ。今は我とユーゴが持っている、これをどうするかだ」
レイが手を挙げた。
「その事だが、封玉は……あぁ、宝玉で合わせようか。あれは異空間に入っていようとも死者と共に消える様な代物では無い。其方らは契約と呼んでいるが、それで相手に飛ぶ事はあろうがな」
「……なるほど。ではユーゴ、我が長男ライアンと契約してくれんか? こいつを前線に出す気はない」
「お待ちください父上! 私も行きます! 事の発端は我が息子のアレクサンドなんです!」
「黙れ、お前は戦闘向きでは無い。後ろで指揮を取ってこそ光る。それにアレクサンドの事は断じてお前の責任では無い」
「しかし……分かりました。確かに前線で私が役に立つ絵は見えない……」
「良し、では話を纏めよう」
仙王が軍の編成と大まかな作戦を纏める。
「仙族軍二万、龍族軍二万が最前線に出る。間違いなく向こうも精鋭で来るだろう。被害は必ず出る。怪我人はすぐに後方に下げ治療する。聯気による治療術を多くの物が習得している。無理せず負傷したらすぐに引くように皆には伝えておいてくれ。負傷兵と入れ替わり、後方の軍から補充する。奴らは減る一方だが、こちらの軍は減らん。持久戦となれば必ず我々が勝つ」
里長や仙王達、大戦を生き抜いてきた人達が本気で戦う。どんな能力を持っているのかも知らない。勿論敵の能力も知らない。
向こうにも原初の魔族や鬼族がいる。しかも新たな戦闘法を習得していると見て間違いない。
「じゃ、小型通信機を各軍に二つづつ渡しとくょ」
「では戦場に向かう時期は追って伝える。恐らく四、五日後だ。それまで英気を養ってくれ、解散!」
決戦の日は近い。
前線で大暴れしてやる、誰も死なせない。
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