上 下
225 / 241
第六章 四種族大戦編

王達の決定

しおりを挟む

「さて、奴らが動き出した。軍を率いての移動だ、恐らく五日はかかるだろう」

 西の砦で軍議が開かれている。
 決戦の場までは、朝に出れば正午には着く。いよいよだ、準備をしておく必要がある。

「決戦の地は山間である事は話したな。軍を横に広げてぶつかる程の幅はない、二部隊ごとに当たることになるだろう」
「そうだね、先鋒二隊が押せば次の部隊が出てくるょ、逆も然りだけどね」

 力攻めになりそうだ。
 そこを突破されればこの砦を攻められる事になる、断じて押し負ける訳にはいかない。

 王国軍が二部隊、仙族と王国軍の混合で一部隊、そして仙族隊と龍族隊。全て二万人づつの五部隊で約十万人の大部隊だ。

 里長が挙手で発言を求める。

「まずは儂らに任せては貰えぬか?」

 仙族と王国の皆が驚きの表情で里長を見ている。無理もない、龍族は戦から降りた民族だ。

「元の龍国におっても戦は無かったであろう。しかし、鬼族を牽制しながら暮らすのと、何の憂いも無く暮らすのとでは全く意味が異なる。儂らは千年の平穏を仙族に与えてもらった。今こそ、その恩を返す時である」

 仙王は里長が話し終えると同時に口を開いた。

「待て待て龍王よ、君はこちらの大将格であり客将だ。先鋒隊で出るなど賛同出来ん」

「仙王よ、儂は永く生きておる。それは同族の犠牲の上にだ。儂らが奴らを蹴散らせば我が同族は勿論、大恩ある仙族や人族を守る事に繋がる。今回参戦した二万の龍族達は儂の志に賛同した者達を選抜してきた。皆同じ想いだ、汲んでやってはくれぬか? 当然そやつらを亡くすつもりは毛頭ないがの」

 仙王は腕を組み目を閉じて考え込む。

「ならば我も出る。仙龍二隊で奴らを叩くぞ」

 それを遮ったのは二人の王だ。

「ちょっとラファちゃん! そんな事させるわけないじゃない!」
「そうだ! ラファさんを前線に出すくらいなら、ちゃんボク達が出る!」
 
「黙れ!」

 仙王の一喝で場が静まり返った。

「我は人族を他種族の抑えの為だけに創った。レオナードとシャルロットは快く仙人せんじんに退化することを受け入れてくれた。そして我は増え続ける人族を、肉の壁くらいにしか思っておらなんだ。我は今まで口を出すだけで何もしておらん。初代魔王アスタロスに言われたのだ。『臆病者のラファエロ』だとな。確かにその通りだ。無駄に永く生きている訳では無い、龍王が前線に出ると言うなら我も出る。見ておれ、我は強い。良いなティモシー?」
「当たり前だ。お前を守れるのは俺だけだ」

 仙王の一喝だ。
 二人の王は勿論、仙神国、王国の上層は何も言えない。

 仙王は、仙族による人族差別の撤廃に取り組んでいると言っていた。自分の作った規律と思想のせいで多くの悲しみを生んだと心を病んでいた。思う所があるのかも知れない。

「これは何を言っても聞かないょね……分かったょ、ウチも行く」
「なら、ちゃんボクもだね。SSSパーティーで敵さんを蹂躙リンジュウしてやろうじゃないの」

「そんな! 皆様落ち着いてください!」
 
 王国の上層部がバタバタと立ち上がり必死に止めようとする。それはそうだろう。

「おい、二人供……ウェザブール王国には君らが必要だ。二人はこの軍の総大将だ、残れ」
 
「はぁ? 自分は前線で暴れるクセにウチらにはお預けするの?」
「そうだ、ちゃんボク達もローシーで窮屈な生活を強いられてるんだ、それはラファさんが押し付けた事だよ?」

 自分が言い出した事だ、仙王は困った顔をしている。王都の幹部も王二人をなだめているが平行線だ。

 ――とんでもない事になってきたな……。

「皆落ち着け、我も意地でこんな事を言い出した訳では無い。人族の軍よりも我々の軍が強いのは分かるだろう。我が軍最強の二隊で一気に叩いてやろうと言う話だ」

 確かにその方が被害は少ないだろう。どう考えても人族より始祖四種族の方が強い。

 ユーゴは挙手して自分の意見を述べた。

「勿論オレ達も龍族軍で前線に行きます。間違いなく、マモンやアレクサンド達も前線に出て来るでしょう。奴らは暇つぶしでここまで事を大きくしてきた、後ろで大人しく構えているなんて考えられない」

「そうだな、それは間違いないだろう。だとすれば人族軍を先鋒隊に置けば、いたずらに犠牲を増やすだけだ。龍王の申し出で我の考えを修正しただけに過ぎん」

 仙王と龍王、二人の国王の決定だ。 部下達が何を言っても覆る事は無い。

「次に宝玉を誰が持つかについてだ。今は我とユーゴが持っている、これをどうするかだ」

 レイが手を挙げた。

「その事だが、封玉は……あぁ、宝玉で合わせようか。あれは異空間に入っていようとも死者と共に消える様な代物では無い。其方そなたらは契約と呼んでいるが、それで相手に飛ぶ事はあろうがな」

「……なるほど。ではユーゴ、我が長男ライアンと契約してくれんか? こいつを前線に出す気はない」
「お待ちください父上! 私も行きます! 事の発端は我が息子のアレクサンドなんです!」
「黙れ、お前は戦闘向きでは無い。後ろで指揮を取ってこそ光る。それにアレクサンドの事は断じてお前の責任では無い」
「しかし……分かりました。確かに前線で私が役に立つ絵は見えない……」
 
「良し、では話を纏めよう」

 仙王が軍の編成と大まかな作戦を纏める。

「仙族軍二万、龍族軍二万が最前線に出る。間違いなく向こうも精鋭で来るだろう。被害は必ず出る。怪我人はすぐに後方に下げ治療する。聯気れんきによる治療術を多くの物が習得している。無理せず負傷したらすぐに引くように皆には伝えておいてくれ。負傷兵と入れ替わり、後方の軍から補充する。奴らは減る一方だが、こちらの軍は減らん。持久戦となれば必ず我々が勝つ」

 里長や仙王達、大戦を生き抜いてきた人達が本気で戦う。どんな能力を持っているのかも知らない。勿論敵の能力も知らない。
 向こうにも原初の魔族や鬼族がいる。しかも新たな戦闘法を習得していると見て間違いない。

「じゃ、小型通信機を各軍に二つづつ渡しとくょ」

「では戦場に向かう時期は追って伝える。恐らく四、五日後だ。それまで英気を養ってくれ、解散!」

 決戦の日は近い。
 前線で大暴れしてやる、誰も死なせない。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学
ファンタジー
 馬鹿の巻き添えで異世界へ、召喚した神様は予定外だと魔法も授けずにテイマー神に丸投げ。テイマー神もやる気無しで、最低限のことを伝えて地上に降ろされた。  テイマーとしての能力は最低の1だが、頼りは二柱の神の加護だけと思ったら、テイマーの能力にも加護が付いていた。  無責任に放り出された俺は、何時か帰れることを願って生き延びることに専念することに。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?

江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】 ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる! ※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。  カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過! ※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪ ※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...