上 下
205 / 241
第五章 四種族対立編

鬼族を探せ

しおりを挟む
 
 ユーゴ達四人はすぐ街に鬼族を探しに出かけた。

「鬼族を見かける事なんてかなり稀だもんな」
「あぁ、前回いつ見たかも忘れたよ」
「一番可能性があるのはギルドだろうね、ここには二つのギルドがあるし」
「とりあえず南のギルドに行ってみようよ」

 城を出て南の大通りを南下し、南のギルドに着いた。中を見回すが、お目当ての鬼族はいない。もう顔見知りのカウンターのオッサンに声をかける。

「おう、あんたらここ最近見なかったな。またワイバーンいじめか?」
「いや、今回は依頼じゃないんだ。早速本題なんだけど、鬼族の冒険者って最近見た? 家とか知ってたら教えて欲しいんだけど」

 オッサンは眉間にシワを寄せて腕を組んだ。

「鬼族か……そういやここ最近見ねぇな……北のギルドに行ってみな、王都にいねぇって事はねぇだろうし」
「場所はすぐ分かる?」
「あぁ、北の大通り沿いだよ」
「ありがとう、これ取っといて」

 お礼に一万ブールをカウンターに置いて出口に向かって歩き始める。

「おい! 良いのかよこんなに!」

 それには答えず笑顔で手を挙げた。正直一万ブールくらいはもう小銭感覚だ。

 北エリアに向かおう。
 

 
 北のギルドには初めて行く。
 歩いて行く必要も無い、城の上を飛んでそのまま北の大通りへ。ひと目でわかる程の大きな建物の前に降り立った。

「南のギルドより明らかに大きいな……」
「でも、南より周りの建物の規模は小さくない? いつも空を素通りだったから気にしてなかったよ」
「もしかして、敵襲があったら確実に北に被害が集中するだろうから、大きな建物はここ以外に集中してるのかな? 関係ないかもだけど……」

 なるほど、そうかもしれない。ギルドの規模を大きくする事で冒険者を北に多く集めているのだろうか。
 とりあえず中に入ろう。

 見回す限り鬼族はいない。
 カウンターには……

 ――なんだと……? 綺麗なお姉さんが二人並んでいる……南なんてむさいオッサンだけだったのに……。

 今まで損していた気分だ。
 二人のうち、好みの女性に声をかける。

「あの、すみません。このギルドに鬼族の冒険者って来たりします?」
「え? 鬼族の方ですか? はい、たまに見ますよ。けど今日はまだ見ませんね」
「そうですか、待ってたら来るかなぁ」
「あ、あの方がよく鬼族の方とパーティー組んでるの見ますよ?」

 女性の指差す方向には盾役タンク風のガッチリした男が座ってコーヒーカップをすすっている。

「へぇ、声かけてみよう。お姉さん、ありがとうございます」

 そう言ってオッサンの倍の二万ブールを女性目の前に置いて立ち去った。本当は胸の谷間に差し込みたいが、そういう店ではない。

「え!? 良いんですか!?」

 それには答えず手を振って男の方に向かって歩いた。

「ユーゴ、あんた声かける子おっぱいで決めたね」

 エミリーの質問には答えない、図星だからだ。

 盾役風の男の横につき、声をかける。

「突然すみません、ちょっとお話いいですか?」
「あぁ? なんだてめぇ」

 ――うわ、喧嘩腰だ……めんどくさいな。でも、下手に出ないと教えて貰えない可能性がある……。

「ちょっと聞きたい事があるんですが。ちょっと失礼しますね」

 男の向かいの椅子に腰かけた。

「何の用だ?」
「鬼族の冒険者とよくパーティを組んでるって話を聞いたんですけど、その人を紹介してもらう事できますか?」

 男は怪訝な表情のまま面倒くさそうに答えた。

「なんで教えなきゃなんねぇんだよ、まず理由を言えよ」

 ――理由……だと……? 言えるわけねーだろ……。

 ユーゴがどう言おうか悩んでいると、男が言葉を続けた。

「100万だ」
「へ?」
「100万ブール出せば教えてやるって言ってんだよ」

 男はニヤニヤと嫌らしい顔でユーゴを見ている。

「100万で教えてくれるの? やったぞ皆!」

 男の目の前に100万ブールの束を置いて立ち上がった。男は目の前に置かれたお金とユーゴを交互に見て目を丸くしている。

「よし、早速案内して貰えますか?」
「おっ……おぅ……着いてこい……」


 ◇◇◇


 北の大通りから外れて路地に入り、明らかにドアのサイズが大きい一戸建ての建物の前まで案内された。
 男が呼鈴を押すと、少ししてユーゴより頭二つ分近く大きい鬼族の男が出てきた。

「おうゴン、こいつらが鬼族に用があるんだってよ、話聞いてやってくんねぇか?」
「話……? おいらこんな奴ら知らねぇぞ? 人違いじゃねぇか?」
「いや、鬼族の方に用があって来たんです。お話出来ませんか?」
「まぁ、いいけどよ……上がってくれ」

 ゴンと呼ばれた鬼族の男は、四人を家に招いた。盾役風の男は札束を振ってニコニコ帰って行った。

 身体の大きい鬼族は、人族に合わせて作られた部屋は合わないのだろう、部屋の全てが大きい。家具などは既製品だが、大きめのサイズの物が揃っている。
 案内された部屋の椅子に腰かけた。

「で、何の用だ?」
「冒険者ならニーズヘッグって魔物の依頼があったの知ってますか?」
「あぁ、SSSトリプルエスの化物だな。いつの間にか無くなってたけど」
「そのレベルの化物が鬼国の周辺にいませんでした?」
「あぁ、居たな。ヤトノカミだろ? 見た事はねぇけど有名だ。姿を見ただけで皆死に絶えるなんて言われてたな」
 
 ゴンはさも当たり前のように答えた。

「本当ですか!? 場所は分かります!?」
「あぁ、おいらが国から出てくる時に持ってきた地図がある。この辺りの地図はでたらめだったけど、鬼国周辺は割と正確だと思うぞ」

 ゴンは別の部屋から一枚の地図を持ってきてテーブルに広げた。

「これが鬼国ソウジャだ、ここから北西のこの『アタゴやま』にいるはずだ」
「この地図は貰っても?」
「鬼国は落ちたんだ、こんな紙切れもういらねぇよ」
「じゃあ頂きます!」

 ユーゴが出し過ぎだと思ったのか、トーマスが100万ブールの束をゴンに手渡した。

「おいおい! 良いのか地図ごときでこんなに!?」
「この地図にはそれ以上の価値がある、構いませんよ」

 トーマスがにっこりとそう答えると、ゴンは意味が分からないといった表情で素直に金を受け取った。

 礼を言い、ゴンの家を後にした。

「いやぁ、思ったよりすぐに見つかったな」
「それよりあんた達、太っ腹だね……」
「まぁ、100万くらい安いもんだ」
「金銭感覚狂ってんじゃない……?」
「ギャンブル狂いのお前にだけは言われたくねーよ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学
ファンタジー
 馬鹿の巻き添えで異世界へ、召喚した神様は予定外だと魔法も授けずにテイマー神に丸投げ。テイマー神もやる気無しで、最低限のことを伝えて地上に降ろされた。  テイマーとしての能力は最低の1だが、頼りは二柱の神の加護だけと思ったら、テイマーの能力にも加護が付いていた。  無責任に放り出された俺は、何時か帰れることを願って生き延びることに専念することに。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?

江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】 ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる! ※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。  カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過! ※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪ ※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

処理中です...