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第四章 新魔王誕生編

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 野営を一日挟み、昼前にはレトルコメルス付近に到着した。

「さぁ、極限まで魔力を抑えてね、まさかこんなに早く連絡が行くとは思わないけど、どんな能力者がいるか分からないわ。空からレオパルドに行くわよ」

 空から懐かしいレオパルドの裏手に降り立った。二階の入口に入ると、ちょうどマックスがいた。ヴァロンティーヌの魔力も感じる。

「おぉ! 久しぶりだな二人とも!」
「えぇ、久しぶりね、ヴァロンティーヌは忙しいかしら」
「あぁ、ボスなら自室にいらっしゃる。お前らなら良いだろ、専用階段の呼鈴鳴らしてみな。言わなくても知ってるかそんな事」
「えぇ、ありがとね」

 ヴァロンティーヌの部屋は、二階から専用の階段を登った三階にある。階段入口の呼鈴を鳴らすと、少しして降りてきた。

「久しぶりね」
「ヴァロンティーヌ! 相変わらず美しいな!」

 アレクサンドがヴァロンティーヌに襲い掛かりそうになるのを止める。

「アレクサンド……ワタシが話しとくからさっさと行ってきなさい。魔力は抑えたままよ、明日の朝ここのロビーね」
「あぁ、分かった!」

 アレクサンドは飛び出て行った。
 
「相変わらずだなあいつは……魔力を抑えて来るとは何事だ? 気付かなかったよ」
「えぇ、ずっとお預けだったからね……盛りのついた犬よ。まぁ、ゆっくり話しましょうよ、昼食はもう済ませた?」
「いや、これからだよ。応接室に持ってこさせようか」

 ヴァロンティーヌは部屋を用意してくれた。
 軽くシャワーを浴びて昼食に向かう。メイクは軽く済ませよう。

「お待たせ、冷めちゃったかしら?」
「いや、さっき運ばれてきた所だ」

 雑談をしながら昼食を頂いた。
 交易都市の食事も食べ納めだ、本場には敵わないが王国中の食べ物が食べられる。

 
 腹を満たし、食後の紅茶を飲んでいる。

「で、魔力を抑えている理由は何だ?」
「前に言ったじゃない? 魔都を落とすって。それを実行したのよ。今やワタシは魔王よ、自称のレベルだけどね」
「本当に魔王を斃したのか……魔都はお前の国になったと言うことか?」
 
「そうね。で、王都にその報告をしてきたの、かなり警戒してたわ。そして、何故かワタシ達の行動が筒抜けだったの、そういう能力者がいるとみて間違いないわ。だからここに連絡が入らないとも限らないから念の為に魔力を抑えてるの」

 ヴァロンティーヌは、ティーカップを持ち上げたまま放心している。

「ヴァロンティーヌ?」
「あっ……あぁ、悪い。それで、ここに来たのはあの約束だな?」
「えぇ、今後この国と争いになる可能性も無くはない、だからアナタ達さえ良ければ魔都で一緒にと思ってあの提案をしたの。二年ていう短い付き合いだったけど、ワタシはアナタ達をアレクサンドやサランと同じくらい大切な仲間だと思ってる」

 ヴァロンティーヌは持ち上げた紅茶を飲む事も忘れて話を聞いている。

「あぁ、私もそう思っている。前も言ったが、この街に執着は無い。お前について行けばここでは得られない刺激を得られそうだな」
「じゃあ……」
「待て、今すぐ行けるわけじゃない、私は一応このエリア一帯の顔だ。ここを出るなら色々しなくてはいけない事がある」

 当然だ。明日一緒に出るなどという事は普通に考えれば無理な話だ。

「二、三ヶ月は欲しいな、必ず魔都へ行く」
「本当に!? じゃあ、アナタ達の住処を用意しておくわね、どれくらいの屋敷がいい?」
 
「皆に声を掛けるが、全員を連れていくのは難しい。一度この話を皆にした事があるが、フェリックスとカポのほとんどは乗り気だったよ。でも、中にはここに家庭を持っている者も多い。行くとしても50人足らずじゃないかと思っている。150人くらいはここに残る訳だが、後進は大分育っている。そいつらに任せても問題ないようにして出て行かないとな。誰を後継者に置くかも決めなければはならない」

 女豹レパーデスは少数精鋭だ、彼らは強い。十分このエリアを任せられるだろう。
 
「分かったわ、サランに任せておけばアナタ好みの部屋を用意してくれるはずよ。後は全財産を宝石に替えておくことをオススメするわ」
「そうだな、サランなら問題ない。あぁ、金の事は考えてなかった、ブールは流石に使えないか」
「じゃあ、話はついたわね。夜は相手してもらうわよ?」
「あぁ、勿論だ、予定は無いよ」

 
 練気術の基礎くらいは話しながらできる。仙術を扱える彼女たちなら習得は容易だ。後進に指導すれば、幹部を含む50人程が抜けてもナーガラージャとの均衡は保たれるだろう。
 夜は一階のレオパルドで皆と食事を楽しんだ。
 
 
 ◆◆◆


 次の日の朝。
 ヴァロンティーヌと朝食を終え、応接室でのティータイム中だ。

 勢いよく扉が開いた。

「やぁ二人とも! ご機嫌いかがかな!?」

 顔がツヤツヤで上機嫌なアレクサンドだ。
 朝帰りとは随分と楽しんだに違いない。

「アナタ……魔力抑えなさいってあれだけ言ったのに……」
「あっ……そうだったね……」

 アレクサンドは今更ながら魔力を抑えた。

「もう遅いわよ……まぁもうすぐ出るから良いけど。アレクサンド、魔都までの地図出してくれる?」

 魔都の詳細な地図を受け取り、ヴァロンティーヌに渡した。

「貰ってもいいのか?」
「えぇ、もう一枚あるからね。じゃあ、向こうで待ってるわよ 」
「あぁ、わかったよ。またな」


 レオパルドから空に飛び立ち、そのまま魔都を目指す。ジョカルド、ノースラインを経由して魔都に入る。

「それぞれに一泊しながら帰ろうか」
「アナタは夜を楽しみたいだけでしょ。まぁ、ワタシもジョカルドのマスターの所に行こうかしら」

 

 ジョカルドの町に着いてホテルにチェックインするなりアレクサンドは出ていった。マモンの着替えだけを渡して。

 ――ホント盛りのついた獣ね……。


 シャワーを浴びて、行きつけだったバーに足を運ぶ。

 カランコロン……

「いらっしゃいませ。あぁマモンさん、お久しぶりです」
「久しぶりね、スヒョンちゃん。夕飯はまだなの、何かない?」
「分かりました、デリバリーしましょう。飲み物はどうしましょう?」
「ありがと、まずはビールで喉の渇きを満たしたいわ、乾杯しましょ」

 スヒョンとは何度か体の関係を持った。しかし、魔都に誘うことは出来ない。移動手段がないからだ。さすがにおぶっては行けない。そもそも来てくれはしないだろう。
 客が少なかった為、最後まで相手をしてもらった。ジョカルド最後の夜は彼と共に過ごそう。
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