上 下
157 / 241
第四章 新魔王誕生編

鬼人誕生 4

しおりを挟む
 
 スズカとオーステンは本当に仲良く暮らしている。集落の皆が仲良く協力して豊かに暮らせているのはオーステンの存在が大きい。いつも中心にオーステンが居て、自然と周りを明るくするからだ。

 薙刀術も真面目に修練し、かなりの腕前になっている。人族の身体強化法や気力の扱いも格段に良くなり、身のこなしから変わってきている。移動速度も鬼族の仲間達には及ばないが、ここに来る前からは考えられない程に成長している。

 
 そしてこの集落に帰って来て五年が経った頃、スズカの体調に異変が起きた。

「ずっと体がだるいんだ……吐き気もあるな。初めてだよこんな事……」
「大丈夫かスズカ、無理をせず休んでくれ。家の事はオレがやるから」

 こんなに弱ったスズカを見た事が無かった。皆が心配した。
 少しするとスズカの症状も良くなり、皆が安心した。食欲も戻りよく食べるようになった。

「姉ちゃん、反動なのかよく食うなぁ。太るぞ?」
「その分動けば良いだろ。女にそういう事言うもんじゃ無いよ」

 案の定、スズカは少しづつ太ってきた。
 と言うより、腹が出てきた。

「おい……スズカ……もしかして」
「あぁ……これは妊娠だな……」
「妊娠!? 嘘だろ!?」

 集落に衝撃が走った。

「まさか異種族間で子が出来るとはのぉ……間違いなく初めての事じゃぞ……」

 スズカは大好きな酒をやめた。少しの運動をしながら全てお腹の子供の為に過ごした。
 しかし、大問題があった。

「おい……この集落は男ばかりじゃ、どうやって子を取り出す……?」
「ソウジャから誰か連れて来ないとな……」
「オイの幼馴染の女なら子を取り上げた事がある。そういう仕事してるみてぇだが、連れてこようか?」
「あぁ、もうだいぶ腹も大きい。いつ産まれるか分からんから急いだ方がいいじゃろ」

 
 すぐにソウジャ出向き、話に出た幼馴染とその仕事仲間を二人連れてきた。

「悪ぃな、もちろん報酬は払う、産まれるまでここにいてくれるか?」
「えぇ、分かったよ。この具合ならもうすぐだね。でもびっくりしたよ、あんたが血相変えて来るんだから」
「オイもまたお前に会う日が来るとはな……受けてくれてありがとよ」


 
 そして一週間後、元気な男の子が産まれた。

「よく頑張ったスズカ!」

 オーステンは涙ながらにスズカに抱きついた。
 
「今まで見た事ないくらいの安産だったね、出血もほぼ無い。少し小柄だけど、元気な子だよ」
「本当にありがとうな。人族との子ってのは黙っていて欲しいんだ」
「当たり前だよ……誰が信じるのよ」
「ありがとう、助かるよ」


 子供の名前はすぐに決まった。

「オレらと言えば酒だろ。酒がなければオレらが結ばれる事は無かったからな。しかもオレの姓は酒って意味だ」
「まぁそうだね……酒飲み……『シュテン酒呑』なんかどうだ?」
「それだ! オーステンのテンも入ってて良い!」

「……お前ら、子供に付ける名前じゃなかろう……」
「響きは良いから良いんだよ! 一緒に酒が飲める日を楽しみにしよう!」


 ◆◆◆


 テンは元気にすくすくと育った。
 五歳の時にはすでに薙刀を持ち振り回していた。

「こやつ、自分よりも大きい薙刀を軽々と振っておる。この歳で闘気を無意識で使えておるのぉ、末恐ろしい。それに魔力量もすでにワシを超えておる」
「オレの息子とは思えんな……よし、テン、一緒に修行しよう!」

 ベンケイの弟子として、オーステンとテンは薙刀を振り続けた。


 テンが十歳になったある日。

「今日の晩飯狩ってきたぞー! オレの薙刀術も言うことないって爺さんに言われたからな。この山で狩れない魔物はいなくなったぞ」
「戻ったかオーステン」
「あれ、サンキチか。スズカはどこ行った?」
「姉ちゃんは風呂沸かしてるよ。すぐに汗流せるようにな……って……オーステン。お前ぇ、眼が……」

「……眼?」
「本当だな。父ちゃん、眼が緑だぞ?」
「なんだと!?」

 オーステンは鏡を見て歓喜した。

「とうとうオレも昇化したか! 今日は祝いだぞ二人とも! スズカを呼べ!」

 オーステンが長寿族になった。これで皆とずっと生活出来ると大喜びだ。
 その日は皆を呼んで遅くまで宴会をした。


 オーステンは40歳を超えていたが、昇化して日が経つにつれ若返っていった。
 半年後には十歳以上は若返った。魔力と気力の量も大幅に増え、更に屈強な戦士になった。

「あぁ……使えなくても仙術を習得しておくべきだったな……悔やまれる」
「それは仙族の術じゃな? まぁ言うても仕方あるまい、気力の質を上げる事じゃ。技に関しては教える事はもう無い」
「免許皆伝て事か!?」
「調子に乗るでない。引き続き鍛錬は怠るなよ。薙刀術に終わりは無い。皆未だに振り続けておる」
「それは勿論だ」


 テンは十歳にして、この集落では誰も敵わない程の戦士になっていた。
 幼少期から薙刀術と闘気術の英才教育をベンケイから受けているのもあるが、鬼族らしからぬ異常な程の魔力の多さと、類稀なる身体能力によるものだ。

 サンキチはテンの子守りをする事が多かった。
 もっとも子守りをする必要はないのだが。なにせテンはサンキチより強い。好奇心が旺盛でどこに行くか分からないというのが子守りの理由の一つではある。
 ベンケイの指南をサンキチもついでに受けていた。まだまだ強くなりたいのは皆一緒だ。
 
「テンよ、お前の闘気は異質じゃ。教えずとも幼少期から闘気を使っておった。それゆえなのか、闘気に魔力が混ざっておる。これはおそらく無意識じゃろう? 癖に近いのかもしれん」
「あぁ、意識はしてねぇ。直した方がいいか?」
「いや、そのままで良い。ワシらの闘気より効果が高いのじゃ。お前が本気で『闘気砲』を放ったらどうなるのか、考えただけでも恐ろしい」

 テンは小鬼族なうえに人族の血が混ざっているからか、鬼族の子供の中では小柄だった。
 人族の同年代の子供よりは大きいという話だったが。

 テンは両親の愛情を一身に受け、真っ直ぐに成長していった。
 

 ◆◆◆
 

 そしてその日は来た。
 テンが13歳のある日、いつもの様にベンケイの薙刀術の指南を受けていた。
 その日はオーステンはもちろん、スズカも息子の成長を見に来ていた。

「なぁ……この魔力は……」
「うむ、イバラキもおるな……大人数で何事じゃ。オーステンよ、この屋敷に隠れておれよ」
「あぁ、オレが居たらヤバそうだな。魔力を限界まで抑えておくよ」

 鬼王イバラキを先頭に、百人をゆうに超える大鬼族達。
 ベンケイを先頭に集落を出て出迎えた。ただ事では無い、住処を守る為だ。

 相手は皆武器を携えている。
 勿論サンキチ達も薙刀を持っている。

「久しぶりだなぁ、ベンケイよぉ」
「何の用じゃイバラキ」
「こんな所で小鬼族の家族ごっこかぁ? 嫌われ者のやりそうな事だなぁ」

 その言葉にスズカが耐え兼ねて前に出た。

「嫌われ者はお前だろイバラキ! ベンケイ爺さんに嫉妬してるだけだろ! こんな小さな集落に武装した軍で来やがって! その図体でどれだけ肝が小せぇんだ!」
「やめんかスズカ!」

 鬼王イバラキは不快そうな顔でスズカを睨みつけた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学
ファンタジー
 馬鹿の巻き添えで異世界へ、召喚した神様は予定外だと魔法も授けずにテイマー神に丸投げ。テイマー神もやる気無しで、最低限のことを伝えて地上に降ろされた。  テイマーとしての能力は最低の1だが、頼りは二柱の神の加護だけと思ったら、テイマーの能力にも加護が付いていた。  無責任に放り出された俺は、何時か帰れることを願って生き延びることに専念することに。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?

江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】 ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる! ※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。  カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過! ※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪ ※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...