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第三章 大陸冒険編

シュエンの記憶 4

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「ユーゴ! 早く起きなさいって!」
「ん……眠い……もうちょっと……」
「困ったやつだな。ハイキングに行きたいって言ったのはお前だぞ、ユーゴ」
「そうだった! 早く用意しないと」

 ソフィアは弁当を作っている。
 俺も用意するか。まぁ、特に持っていく物もないが……。
 
「刀は要らないよな」
「要らないでしょ。心配なら異空間に春雪があるわよ?」
「なら柳一文字は置いて行っていいな」

 ハイキングか。
 魔物の討伐以外で山をうろつくなんて初めての行為だな。俺とソフィアがいるんだ、何と遭遇しても問題ない。ハイキングコースに魔物が出たなんて聞いたこともないが。

「父さん、母さん、ありがとう!」
「いや、いつも遊んでやれずにすまない。今日は、三人で思いっきり楽しもうな」
「ほんと、三人で出かけるなんていつぶりかしら?」

 ユーゴを真ん中に、三人で手を繋いで歩いている。俺にこんな事ができる日が来るとはな。
 
 
「結構歩いたわね、この辺は少し開けて見晴らしもいいね」
「そうだな、ここらで弁当を食べるか」
「うん、ちょっと疲れたな……」
「この程度で疲れるようじゃ、冒険者にはなれないぞ?」
「弁当食べたら元気になるって!」

 シートを広げ料理を並べる。 
 うん、美味い。
 
「野営の食事とは一味違うな」
「そりゃそうよ、家でゆっくり作ってるんだから」
「本当にソフィアの料理は美味いな。ユーゴ、これが世界一美味い弁当だぞ。覚えとけよ!」
「うん! 本当に美味しい!」
「言い過ぎよ……」
 
 
 ふう、食ったな。
 
「ユーゴ! 少し暑いし、川遊びしよっか?」
「うん! 弁当食べて元気になったしね!」
「じゃあ、俺は片付けしてから向かうよ」

 食器は川で洗うか。
 しかしいい眺めだ。

「ソフィア、俺は紅茶を飲んでから行く。この眺めを楽しみたい」
「うん、分かったよ。すぐそこの川にいるね」
「魔物は大丈夫か?」
「ハイキングコースに魔物なんて出ないでしょ。それに、この辺で出る魔物なんて百匹で来ても返り討ちにしてやるわよ」
「ハハッ、そりゃ言える」

 目的が違うだけで、こんなにも心が穏やかになるんだな。香りのいい紅茶を啜りながら美しい景色を楽しむ。
 
 山を歩きに来て何が楽しいんだと思ったが、ハイキングもいいもんだ。こんなに心が洗われるとは思わなかったな。
 
 よし、そろそろ川に行くか。

 
 なっ……この魔力は……。

「ソフィア!」
「シュエン! 春雪!」

 春雪を受け取り、ソフィアから漏れ出た魔神に対峙した。

「おい、久しぶりだな……」
「あぁ、やっとだよ。あれから30年だ」

 魔神はソフィアから完全に抜け出した。

「なに!?」
「おい小娘、お前が知らなくて助かったよ。封印術は30年で効果が一気に弱まる」
「そんな……知らなかった……」

「待ちわびたぞ……やっとお前らをぶっ殺せる……覚悟しろォ――!」

 これはやばいな……。

 炎熱領域ゲヘナ

「ソフィア! 堅牢二枚だ!」
 
『守護術 堅牢・陣!』

 耐えたか……?
 よし。

「シュエン、魔神の相手お願い!」
「分かった!」

「身体がないと威力がな……まぁ、十分だ。おい、小娘。お前の身体ではもうオレ様を封じるのは無理だぞ。コイツの後にゆっくり殺してやるから待ってろ」

 ソフィアは何か詠唱を始めたな。
 俺はこいつの相手をするだけだ。


「父さん、母さん? 何してるの?」

 何!?

「ユーゴ! 来ちゃダメェー!」
「あぁ、テメェらのガキか。こいつから殺すのもアリだな」

 クソッ!

『剣技 円舞斬!』

「クッ……テメェの剣は鬱陶しいんだよ……」

 ソフィアが動いたか。

「何だ小娘……お前の身体じゃ無理だと言っただろ。何をする気だ……」

「シュエン! 一か八かだったけど、ダメだった! もう選択肢が無い! ユーゴに魔神を封印する!」
「おい! 何を言ってる!」
「こいつを私と一緒にユーゴに封印して、私が中から抑え込む! 理解して! 選択肢がないの!」

 何……? いきなり言われても……理解が追いつく訳が無いだろう……。

「小娘……何をするかと思ったら……クソッ、術を解けぇ!」

「シュエン聞いて! ユーゴが15歳になる頃にはこの子の魔力が安定する! それまでには完璧に抑えてみせる! この魔神の魔力によって、魔力の暴走があるかもしれない! またあなたには苦労をかける事になる……」
「おい! 分かったが、お前はどうなる!」
「私は死なない! ユーゴの中で生き続けるから! また逢える!」

 クソッ……せっかく掴んだ幸せをこんな奴に奪われるのか……。

「……わかった! ユーゴは任せろ! 魔力の暴走は俺が吸収する!」

「じゃあ……またねシュエン、愛してる!」
「あぁ! 俺も愛している! 別れは言わないぞ!」

『神式封印術 憑代封呪よりしろふうじゅ!』

「クッソォォォ――!!」


 魔神は消えた。
 ソフィアの身体が横たわっている……ソフィアはユーゴの中にいる。話す事は出来ない。
 そうだ、死んだ訳じゃない。

 でも……30年連れ添ったんだ……。

「父さん……? 母さん起きないよ……?」
「……母さんは魔物に襲われた……ユーゴ、お前は大丈夫だ……母さんが守ってくれたんだ」

「父さん、泣いてるの……? 何で? 母さん……死んじゃったの……?」

「……」

「昼寝なんてしなけりゃよかった……ハイキングに行きたいなんて……言わなけりゃよかった……ウワァァァー!!」

「ユーゴ……お前は悪くない。大丈夫だ……」

 
 ソフィア……俺はお前無しでやって行けるだろうか……。
 
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