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第三章 大陸冒険編
ニーズヘッグ
しおりを挟む二日後、朝食を四人とも無言で食べている。
四人のピリついた空気にメイドのリナが戸惑っている。四人分のお弁当を用意してくれている。礼を言って各自の異空間にしまった。
ギルドに向かい、ニーズヘッグの討伐依頼書を見る。
「本当だな、SSSって書いてある」
「前に見た時は気が付かなかったね」
カウンターに依頼書を持っていき、顔馴染みの受付に手渡した。
「本当に行くのか……? まぁ、あんたらの強さなら、SSじゃ物足りんわな」
「これを倒せば、冒険者のランクはSSSになるのか?」
「あぁ、そうだ。世界でも片手もいないらしいぞ、俺は見たこともない。討伐報告は当然ここじゃねぇぞ? 王様の所に行ってくれ」
「ランクアップ試験の人数は?」
「SSと一緒だよ、五人だ。そもそも五人で討伐するような魔物じゃないがな……試験として受けようなんて物好きは居ないよ」
「分かった。四人で行ってきます」
SSSのランクアップ試験の手続きを終えた。
西門を出てパラメオント山脈に向かう。
依頼書によると、目的地は山脈の頂上付近だ。四人なら登山をする必要はない。
そのままニーズヘッグの所まで飛んでいこう。
そして戦闘は空中戦になる、戦えるような足場は無い。途絶で動きを止めるのは無理ということだ。
そもそも、地上でも効くかどうかも分からないが。
目的地付近だ。
禍々しさはない。
が、途轍もない魔力を感じる。今まで感じた事がない魔力量だ。
「近いぞ、強化術はしっかりとな」
「ユーゴ、視えたらすぐに指示を頼むよ。すぐに守護術を張る」
「アタシは相手を見て武器を変えるよ」
「腕が飛んでもくっつけてあげるよ」
いた、ニーズヘッグだ。
岩肌に似たダークグレーの巨体。
体長でいうと、ユーゴ三人分くらいか。
大きな羽根を羽ばたかせているが、あれだけで飛んでいる訳ではなさそうだ。
『グオォォォ……』
ニーズヘッグが声をあげて威嚇している。
「あれは魔力障害にかかってる魔物じゃない。おそらくクレバーな戦い方をするね」
「とんでもない風魔法が来るぞ! 左に逃げろ!」
耳が痛い程の風切り音と共に、とんでもない風魔法が横をかすめた。
もう魔法のレベルではない、災害だ。
あれを食らったらひとたまりもない。
「ヤバいなんてもんじゃないな……」
「攻撃に転じるぞ。相手の動きはおそらく早い、そのつもりで動こう」
「皆、一応自分でも守護術かけといてくれ。二重で防ごう」
「了解! アタシはツヴァイハンダーで魔法剣技だ」
「突っ込んでくるぞ!」
『守護術 炎牢・陣』
鋭い爪の攻撃を炎を纏った堅牢で防ぐ。
相手は風属性だ、炎が大きく反応して敵を覆う。
だが、ダメージはなさそうだ。
『治療術 継続再生』
エミリーが、皆に継続治療術をかけた。
ジュリアがツヴァイハンダーに仙術を込めている。
『魔法剣技 円舞斬!』
遠心力を利用した回転斬り。ツヴァイハンダーの重さで更に速度は上がっている。
「ダメだ! 避けられた! でも今、確かに避ける方向が視えた!」
ジュリアは前に言っていた、敵の動く方向が視えた気がすると。新しい能力が開眼したのかもしれない。
しかし速い。
やはりあの大きな羽根は、浮力を得る為のものだ。急な方向転換はユーゴ達の方法と似ている。
「途絶は使えない。どうする」
「接近戦だな。行くぞトーマス、ジュリア」
『守護術 堅牢』
自分とトーマスの二重の堅牢。
ユーゴは二刀流で攻防一体。ジュリアを守りつつ攻撃する。
ジュリアは武器を刀に切替えた。
『魔法剣技 乱れ斬月!』
「キィィィン!」
長刀から放たれる全ての剣戟が、硬い鱗に阻まれた。
「硬いな!」
速い上に硬い。
ユーゴもジュリアも先は読める。
しかし相手の動きが速すぎる。
――この巨体で……何だこの速さは。
当たっても半端な剣技では通じない程に硬い鱗だ。
「オレとトーマスで奴を引き付ける! ジュリアは攻撃だ!」
「任せろ!」
トーマスがニーズヘッグの敵意を一身に受けている。
ジュリアは風切に仙術を一気に込め、横から斬りかかった。
『魔法剣技 五月雨!』
『グオォォォ!』
ジュリアが放った無数の剣戟で、ニーズヘッグの鱗に傷が入った。
刃は通る。だが、致命傷は与えられない。
ユーゴの脳裏にヤバい絵が視えた。
――ジュリアが危ない!
『ジュリアー! こっちに来い!!』
ユーゴはジュリアの前に入り込み、防具と春雪を媒介に最大の守護術を張った。
ユーゴの怒号で、トーマスも前に来て守護術を張る。
さっきよりも強烈な風魔法が三人を襲った。
二重の守護術を全て吹き飛ばされた。
――大丈夫だ……皆生きている……。
しかし、三人は満身創痍だ。
「ごめん、奴の敵意がジュリアに……味方を危険に晒すなんて……盾士失格だ……」
『治療術 快癒!』
治癒のシャワーで皆が全快した。
「私がいるよ! みんな、思いっきり戦って!」
「助かったエミリー!」
仕切り直しだ。
「オレは刀に全力を込める! ジュリアとトーマスで相手できるか!?」
「「了解!」」
エミリーが二人に継続再生をかけ直す。
「ユーゴ! 準備が出来たら言って!」
「分かった!」
エミリーには何か考えがあるようだ。
トーマスとジュリアが二人でニーズヘッグの相手をしている。それをエミリーが補佐している。
生半可な技では駄目だ。
悪寒が走った。
『トーマスの元に集まれぇぇ――! 皆で堅牢だァ――!』
エミリーは中距離攻撃で離れている。
三人で守護術を張る。
「今までのじゃダメだ……」
「トーマス、どうした!?」
「今の僕じゃ皆を守れない……でも……僕は……このパーティーの盾士だァァ――!!」
『守護術! 堅牢ォ――!』
災害級の広範囲風魔法が三人に飛んでくる。これは視えても避けられない。
『キィィィ――ンッ!』
全ての風の刃が、トーマスの守護術に弾かれた。
「防いだか……?」
三人は無傷だった。
「おい……堅牢にヤマタノオロチの鱗が写っててるぞ……」
「やっと……掴んだ……よし! 守りは任せてくれ!」
トーマスは皆に守護術を掛け直した。
錯覚ではなかった。堅牢にヤマタノオロチの鱗が薄く見える。
「よし! 反撃だ!」
ジュリアに攻撃を任せて、特級品の龍胆には、戦闘開始からずっと練気を流し続けている。
鎌鼬を一気に刀に詰めた。
最大魔力で詰めれるだけ詰めて圧縮する。
「エミリー! 行くぞォー!」
「了解!」
奴の弱点は首から下、腹辺りだ。
普通ならあんな所に潜り込めない。
エミリーは渾身の力で、二本の苦無を投げつけた。
ニーズヘッグに苦無が刺さる。
動きが止まった。
『魔法剣技 鏖!』
懐に潜り込んだ。
ユーゴの渾身の斬撃が、ニーズヘッグにヒットし続ける。
『グオォォォ――!』
相手が倒れるまで攻撃を止めない。
一心不乱に刀を振り続けた。
「ユーゴ! もういいよ!」
ユーゴはその声で刀を止めた。
ニーズヘッグは地に墜ちた。
「ハァ……ハァ……やったのか……?」
「あぁ、アタシ達の勝ちだ!」
――SSSの魔物に勝った……。
四人は世界でも最強レベルのパーティだ。
「ぃよっしゃぁー!」
「やったね!」
「エミリー、どうやってあれを止めたの?」
「苦無に途絶を込め続けてたんだよ! 魔法剣技の要領でね。刺さって良かったよ」
「なるほどな……中距離攻撃のスペシャリストだよホント」
ニーズヘッグの体皮をトーマスと協力して処理する。目玉、爪、牙、すべてを採取した。
「エミリー、火葬頼む」
「了解!」
「なんだこれ!? でっか!」
こぶし大の魔晶石が二つ出た。
後は、明らかに質のいい小さい魔晶石が五個だ。
――これいくら貰えるんだ……?
「このこぶし大の魔晶石はオレ達には使い道ないよな?」
「あぁ、何に使えるんだこれ? シャルロットに聞いてみるか」
リナの弁当を食べて、四人は戦利品を持って王都に凱旋した。
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