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第三章 大陸冒険編
誰の所為
しおりを挟む「それからマモンには会ってないの」
過去の話を聞くと、いつもアレクサンドが絡んでいる。
「アレクサンドが何かをそそのかしたんですかね?」
「さあ、どうかしらね。出ていった事には関係するのかもしれない。けど、あの子が変わったのには、アレクサンドは関係していないと私は見てるの」
モレクは二人の水割りを作り直すと、自分の見解を話し始めた。
「あなた達は『魔力障害』って知ってる?」
「あぁ……父の日記にそんな事が書いてありましたね。詳しくは知りませんが」
「魔力中毒による精神障害をそう呼ぶの。さっき話に出たグリフォンもそうだけど、魔力が外に漏れ出た魔物に会ったことない?」
「はい、フェンリルがそうでした」
「あの禍々しい魔力に長時間晒され続けたら、魔力障害を引き起こす事があるの。症状は軽度ならイライラ、重度になると攻撃的になり破壊衝動が抑えられなくなる」
「それって……」
「そう、鬼人もそうだった。鬼人が暴れた時は十歳を過ぎたくらいだったみたい。どの種族も、15歳から遅くとも18歳までには魔力が安定するの。鬼人は自分の多すぎる魔力に当てられて重度の魔力障害を起こし、その魔力が自分の器から大きく溢れだした事によって、自我が崩壊して暴れ出したと私は見てるの」
ユーゴもそうだが、ミックス・ブラッドは同種族と比べて魔力が多い。鬼人はその多すぎる魔力で魔力障害を患ったのではないかという。
――だとしたら、何でオレは……。
「マモンは、王都に着いてから徐々におかしくなったの。あの子の魔力量は、それはそれは凄かった。魔族は総じて魔力が多い、だから種族レベルで魔力障害に強いの。その分攻撃的な者が多いけどね。マモンは、鬼人と同じように多すぎる魔力によって徐々に魔力障害に冒された。でも、その多すぎる魔力を留められる器があった。だから、魔力障害により破壊衝動に駆られても、自我を失う事はなかった。と私は見ているの」
モレクの見解は辻褄が合っている。恐らく大きく逸れてはいないだろう。
ただ……。
ユーゴは一番の疑問を投げかけた。
魔力の多いユーゴが暴れる事なく、まともにここまで育ってきたことだ。
「モレクさん、オレは龍族と人族の間に生まれたミックス・ブラッドです。今19歳ですが、今まで破壊衝動に駆られた事も、自我を失った事もありません。少し落ち着かないことはありますが、魔力を消費すると治ります」
「あら、そうだったのね。確かに魔力が凄く高いレベルで安定しているわ」
「ただ、父さんが変わってしまいました。母さんが亡くなってから、年を追う事にやつれていきました。一年ほど前に旅に出て以来会っていなかったのですが、マモンとアレクサンドと行動を共にしていた父さんは全く変わり果てていました。旅に出る前から様子はおかしかったけど、あそこまで攻撃的じゃなかった……ただ、やつれた感じが無くなっていたので安心はしましたが」
モレクは何かを考え込んでいる。
考えを纏めたのか、ユーゴに向き直って口を開いた。
「お父さんは何か特殊能力を持ってなかった?」
「はい、オレは知らなかったんですが、父さんの日記には魔力吸収の能力があると書かれていました」
「それかもね。魔物から魔力を吸収すると、魔力障害を起こすことがあるの。強い魔力を持った何かから魔力を吸収した可能性が高いわね」
だとしたら、シュエンの変わり様には一応納得できる。
「モレクさん、マモンには記憶に関する特殊能力がありますね?」
「マモンは、一族を皆殺しにした時の自分の記憶を、僕に映して見せてきたんです」
「えぇ、あの子にも魔力吸収の能力がある。それに、人の記憶を抜き取ったり見せたりする能力があるの」
「抜き取るには、接触が必要ですね?」
「そうね、魔力と共に抜き取るから接触して少し時間がかかるわ。だから、意識のある者から抜き取るのは難しいわね」
「記憶の操作はできますか?」
「いいえ、そんな事はできないわよ」
シュエンが記憶操作により、マモンに操られている線は消えた。だとしたら何故……ユーゴの推測は振り出しに戻った。
「オレがこれから魔力障害と意識障害に陥る可能性はあると思いますか?」
「いいえ、さっきも言ったけど、今のところ高いレベルで安定してるわ。上手いこと魔力障害を免れてきたわね。例えば、お父さんがそうならないように魔力を吸収してくれたとか?」
――あ……そういうことか。
「まさか、父さんが変わってしまったのは……」
「そう結論づけるのは早いわ。何とも言えないわね」
――なんてことだ……オレのせいだった可能性もある。
ユーゴは膝に置いた手を握り、その頭は徐々に沈んだ。
「ユーゴの悪い癖が出てるよ。憶測で落ち込むのは良くない」
「あぁ、そうだな……確証は無いもんな」
「えぇ、そうね。長く魔物の魔力を吸収し続けた弊害とか、SSクラスの魔物の魔力を吸収したとか、他の要因も考えられるわ」
二人の言う通り、ユーゴの所為だと結論づけるのはまだ早い。
ユーゴは顔を上げ、モレクに向き直った。
「父さんはマモンとアレクサンドと一緒にいます。龍族、魔族、仙族がお互いに戦闘方法を教え合っています。父さんが浮遊術を使っていました。龍族に浮遊術は無いので間違いありません」
「僕たちは一年間、龍族の国で修行して龍族の戦闘法を習得しました。今パーティに仙族がいます。彼女に仙族の戦闘法を教わった所、お互いの戦闘能力が跳ね上がりました。三種族の戦闘法を教え合ったという事は、向こうは更に強くなっています」
モレクは少し考えて、言いにくそうに口を開いた。
「あなた達はマモン達三人を追ってるのね? なら、マモンを止めて欲しい。あの子が昔のように、優しい子に戻るのは難しいと思う。ならせめて、更に罪もない人に手をかける前にあなた達の手で……」
最後の言葉は飲み込んだが、言いたいことは伝わった。
「分かりました。元は優しい人なんでしょう。でも、彼はトーマスの一族を滅ぼしました。他にも、アレクサンドと父さんと共に悪さをしているようです。オレ達はあの三人を追い詰めます」
「分かったわ。私で良ければだけど、魔族の戦闘法を教えてあげるわ」
「え? 本当ですか!?」
「えぇ、じゃないとその三人とは差が出るものね。これ私の住所よ、この店かどちらかにいるからいつでも訪ねてらっしゃい」
「ありがとうございます! 恐らく数日後になりますが、よろしくお願いします!」
良いと言われたが、お代を支払いリバティを後にした。
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