上 下
56 / 241
第三章 大陸冒険編

ジュリエット

しおりを挟む

「ジュリエットよ、お前は口には出さんが、また世界を旅したいのだろう?」
「え……? そりゃ行きたいけど……」
「行ってくるか?」
「え!? いいのか!?」
「この者らさえ良ければ、連れて行ってもらえばよい」
「えー! お祖父ちゃん大好き!」

 ジュリアは仙王に抱きついた。
 仙王は目尻をだらしなく垂らしている。
 
 ――デレデレじゃねーか仙王……。
 
「でも、エミリーは良いだろうけど……ユーゴとトーマスは嫌だろう?」
「いや、オレは問題無いですよ? エミリーの恩人だし。話に聞いた通りのいい人だ」
「僕も文句はないです。ジュリアさんみたいな明るい人が一緒なら、よりパーティが明るくなる。旅は楽しい方がいい」
「私は言うまでもないよ! 行こうよジュリア!」
「本当に!? 本当について行っちゃうよ!?」

 突然の提案で驚いたが、ジュリアがパーティーに加わる事になった。

「あぁ、行ってこい。もしアレクサンドが悪事を働くような事があれば、お前らの手で仕置してこい」

 ジュリアは満面の笑みで首を縦に振っている。

 
「よし、他に聞きたい事はあるか?」

 ユーゴが挙手し、発言を求めた。
 
「オレの父と魔人とアレクサンドが、宝玉というものを求めてリーベン島に来たんです。ここには来てませんか?」
「あぁ、手紙に書いてあったな。さすがに仙族と人族全てを敵に回してまで乗り込んで来んだろう。宝玉は我の空間魔法で管理している。そうだ、我の空間をジュリエットの空間と『契約』させておこう。我に万が一があれば、外界のジュリエットに宝玉が行く。万が一など無いがな」
 
「……契約?」
「あぁ、空間魔法は本人が死んだらそのまま消えてしまうんだよ。そうならないように、信頼する人の空間に移動するよう『契約』するんだ。アタシは、ママと相互契約を結んでいる」
「我は今、息子のライアンと相互契約している。良く考えれば同じ所にいるものに飛ばしても意味がない、飛ばすなら外界が良い。ジュリエットが帰ってきたらライアンと結び直そう」

 そう言って、仙王とジュリアが契約とやらを結んだ。

「そうなんだ、こないだ私も疑問に思ったんだよ。じゃ、私はジュリアと契約しようかな!」
「おいおい、何言ってるんだよ。もうアタシと契約したじゃないか」
「え……? そうだっけ?」
「この話もしたぞ? 寝ぼけてたのか?」
「全然覚えてない……まだ小さかったからかな?」
「あぁ、そうかもな。会った時は七歳とかだったもんな」

 とにかく、仲間が増えた。
 楽しい旅になりそうだ。
 

「よし、いい時間だ。君たちに昼食を用意している、食べて帰ってくれ」
「え? 良いんですか?」

 今座っている円卓に、ナイフとフォーク、ナプキンなどが並べられた。

 ――これはもしかして……。

 例の難解な料理だ。
 昨日の練習が役に立ちそうだ。

「前菜の、クルスティアン・デゥ・フロマージュでございます」

 ――昨日より何言ってるか分からないぞ……。

 見ても何の料理か分からない。これが王の食事らしい。
 
 次々と運ばれてくる難解な料理を、皆と笑いながら楽しんだ。ジュリアは明るい女性だ。旅が明るく楽しくなるのは間違いない。

 
 食事を終え、紅茶を楽しんでいる。高級茶葉だろう、香りが素晴らしい。

「魔人達の目的は何なんですかね?」
「昔、アレクサンドに宝玉の話をしたことがある。我も集めると何が起こるかは知らんがな。それを思い出して世界を周っているんだろう。数人で国を攻めるのは無理だと、国の規模が小さい龍王の所に聞きに行ったんだろうな。今の所そこまで悪事を働いているわけでは無い。アレクサンドの事だ、何をし始めるか分からんがな」

 ――ほんと仙王は、見たように話するな……。

「これから旅をするなら、王都に行く事もあるのか?」
「そうですね。オレたちの目的は魔人達を探すことです。王都は魔人の噂が一番聞けそうですから」
「そうか……ならば……いや、まだか」
「えっと……何か?」
「あぁいや、なんでも無い。こっちの話だ」

 仙王は何かを言いかけてやめた。気になるが問い詰める訳にもいかない。

「では、二人の王への手紙を書いておこうか。会いたければ会うがいい」
「本当ですか? ありがとうございます」

「あと、エミリー。君は青い眼を隠している様だが、我はその眼を人族に晒す事を禁止してはおらんぞ? ジュリアの十年は人族として生活させるために隠させたのだ」
 
「私が眼を隠してるのは、この眼を見られるとトラウマが蘇るからなんです。信頼するユーゴとトーマスに見られただけでも過呼吸で倒れたくらいだから……」
「なるほどな……我が定めた規律で苦しむ者が出ようとはな……悪い事をした」
「アタシもこれから隠して旅するよ! 前回の十年間もそうだったけど、その方が生活しやすいんだ。この青い眼は目立つからね」


 紅茶もおかわりし、十分に楽しんだ。長時間居座るのも気が引ける。
 いい話を聞けたし、仲間もできた。おいとましよう。

「仙王様、いきなり押しかけた上に食事まで頂き、ありがとうございました」
「いや、我も楽しめた、また来るがいい。ジュリエットを頼む。なかなか強いぞこいつは、仙族が誇る天才だ」
「はい、ジュリアさん、改めてお願いします」
「おいおい、仲間になるのにその堅苦しい話し方やめてくれよ! エミリーと話す様に喋ってくれ、ジュリアでいい」
「分かったよ。よろしくなジュリア! んじゃ、行くか!」

 仙王に礼を言って城を後にした。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...