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第二章 リーベン島編
三人の英雄 3
しおりを挟む参謀リンファが全軍を労う。
「皆、良くやってくれた! まさか総大将を先頭に、あんな初歩の戦法に綺麗に引っ掛かってくれるとはね! あのイノシシ共は我々を舐めていた! これは、この百年間ひたすら努力し続けた皆の勝利だよ! 私は皆を誇りに思うよ!」
「皆、良くやった! まさか鬼王の腕を切り落して来るとはの」
「親父殿、すまん……討ち取れなかった。しかも、利き腕じゃねぇ側の手だ。あいつの攻撃力は健在だ」
「いや、半数以上討ち取ったのだ、奴らの再起は数百年は無い」
軍は歓喜に湧いた。
周囲の仲間と抱き合い喜ぶ者、泣きながら喜んでいる者、家族や友を亡くしうなだれている者。
「戦は大勝した! 鬼王自らが先陣を切ってきたのは誤算であったが、それがこの大勝に繋がった! しかし、その誤算の為に多くの命を犠牲にしたのは事実である……皆に一つ問いたい。この中に、好きで戦をしておる者はおるか?」
クリカラの問いに、皆が静まり返っている。
「儂は戦などしたくはない。皆の命を失いたくはない。その為なら、この土地を手放す事に何の抵抗もない。民さえ居れば国は作れる! そこで、儂から皆に提案がある」
何を言い出すのか、皆の唾を飲み込む音が聞こえる。
「仙神国の東の海に島がある。そこに皆で移住せぬか? 戦を捨てて、平和に暮らしてみぬか? その為なら、儂は仙王に土下座しても良い」
「もう、戦わなくても良いんですかい……?」
「俺ぁ、戦は怖ぇ。それが叶うなら最高だ」
皆口々に賛成の言葉を上げ始める。
「再度皆に問う! 儂の案に賛同するものは声を上げよ!」
『オォ――ッッ!!』
怒号の様な賛同の声が地を揺らした。好きで戦をしている者など、居るはずも無かった。
「皆の意見は分かった! しかし、仙王がどう返答するかは分からぬ、条件はあるだろう。ある程度の条件なら飲むつもりだ。今日は大義であった! ゆっくり休んでくれ!」
こうして百年ぶりの龍族と鬼族の戦は、龍族の圧勝に終わった。
◆◆◆
「仙王に会いに行こうと思う。お主ら四人を共に連れて行く」
クリカラは、四人の兄妹を連れて仙神国に行くと言った。理由は戦闘能力の高さと、練気術による高速移動が出来る事だ。
「リンファには伝えたが、お主らの子に国の守りを頼むと伝えておいてくれ。では、明日の朝に起つ故、準備を頼む」
次の日の朝。
仙神国オーベルフォールには、東のパラメオント山脈の最南端と海の間の陸路を通って行く。
龍族はこの十年で、練気術による高速移動を手に入れた。空を駆ける事も出来る。この五人の脚だと、目的地までは一週間程で着くだろう。最低限の荷物で仙神国を目指す。
「オレ達は仙神国に行くのは初めてだ。親父殿はお袋殿と昔行ってたな?」
「うむ、停戦の話や上の二族の対応などで話は何度かしたことがある。話せば分かる御仁だ」
この高速移動中に普通に話してる。メイファは付いていくので精一杯だ。
道中色々な魔物に出くわした。
が、龍国最強の四人が揃っている。メイファの出番は無かった。獣の肉を調理して腹を満たし、持参した天幕で休息しながら進む。
予定より早く、六日で目的地に到着した。
仙神国オーベルフォール。
自然豊かな景色に溶け込む様に、美しい街並みが広がっている。珍しい黒髪の五人に、青い眼の視線が刺さる。
丁寧に舗装された大通りを真っ直ぐに進むと、緑が茂る高い山々の麓に広がる湖が見えた。空の色をそのまま映した様な美しい湖に浮かぶ壮大な城が、仙王の居城だ。
湖の中の島へと続く橋を渡ると、立派な門が口を開いている。その前に立つ門番に話をつけると、中に案内された。
石造りの城だ。龍国とは全く違う雰囲気に、メイファの視線は四方に散った。
円卓のある広い部屋に案内され、五人で座る。 少しすると明らかに高貴な男が部屋に入り、向かいに座った。後ろに二人の男女が付き従っている。
この男が、仙王『ラファエロ・ノルマンディ』始祖四王の一人だ。
綺麗な長い金髪をそのまま下ろし、整えた金の口髭、青い眼が輝いている。
クリカラと同じくらいに見える、初老の男だ。
「久しぶりだ、龍王」
「うむ、どれくらい振りかも覚えておらぬ。時間を取って頂き、感謝申し上げる」
クリカラは頭を下げた。
「よいよい。で、わざわざ何の用だ?」
「仙王よ、貴殿を友と見込んで頼みがある」
「ふむ、頼みの内容によるな」
「先日、鬼族との決戦を大勝で終えた。鬼王イバラキの左腕を切り落とし、奴らを半分以上討ち取った。奴等は数百年は再起できぬ」
「その報は既に届いている。自慢をしにきた訳ではないだろう?」
「……儂ら龍族はこの四種族間の戦から降りたい。ここの東の海に島がある、そこの島に移住したい。もちろんタダとは言わぬ、条件があればこちらは飲むつもりだ」
仙王は目を閉じて考え込む。
ゆっくりと目を開き、話し始めた。
「島があるのは知っている。我らの土地ではない、好きにすればいい。ただ我々は今、魔族との交戦に向けて準備しているのは知っているな?」
「うむ」
「龍族を含む四種族の睨み合いで、この世界の均衡が保たれている。鬼族が再起できんと知った魔族は我々に戦を仕掛けるだろう。しかも龍族が手を引いたと知れればどうなる? 我らは魔族に蹂躙される。それ程までに魔族は強い」
勿論そうなるであろう事はクリカラも理解している、その為の交渉だ。
「儂らは何をすれば良い?」
「魔族が強いのは『魔王アスタロス・シルヴァニア』の存在があるからだ。奴は強すぎる。奴さえいなければ、龍族が手を引いたとしても世界の均衡は保たれるだろう。その後の考えが我々にはある」
「魔王アスタロスの討伐を儂らに手伝えと言うのだな?」
「そうだ、仙龍の同盟軍なら奴を消せるかもしれん。奴は自分の強さを過信している。いつも前線に出て戦うのだ。その慢心を突くのも良い」
「なるほど、鬼王イバラキはそれを真似たのか……馬鹿な奴だ。あんな猪馬鹿に手こずっていたのが恥ずかしくなる」
「どうだ? 龍族の精鋭を我等に預けるか? それで魔王を斃せれば、戦から手を引くのも島に移住するのも好きにすればよい」
「心得た。国に帰って相談の上、我が国の精鋭を寄越そう」
二人の王の話はついた。五人は帰路についた。
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