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第二章 リーベン島編

三人の英雄

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 ここは『ヤマト龍国』
 龍王クリカラが治める龍族の国だ。この大陸は蝶の羽の様に広がっている。
 龍国は、蝶の羽の左下部分に位置する。
 左上は、鬼族の『鬼国ソウジャ』
 右上は、魔族の『魔都シルヴァニア』
 右下は、仙族の『仙神国オーベルフォール』

 始祖四王が睨み合い、四つの国の均衡が保たれている。長きに渡る大戦で各国は疲弊していた。その為、各国の王により百年の休戦協定が結ばれた。
 
 龍王率いるヤマト龍国は、今のこの停戦中に国力を蓄えていた。国民の戦力増強、武具の整備が主な施策だ。
 メイファはこの休戦中に生まれ、15歳になった。龍王クリカラの次女として生まれ、術の教育を受けている。師匠は長女のメイリン・フェイロック、この国一番の回復術師だ。

「姉さん、リンドウ兄さんが刀くれたんだけど、私は回復術師なのになんで刀を振らないといけないんだ?」
「メイファ、攻撃役が倒れたら誰が敵を倒すの? あなたが倒れても同じ。誰が味方を治すの? 誰があなたを治すの?」
 
「……あ、そうか」
「そう、生存率の話なの。刀で敵を斬らなければ、自分で自分の身を守れなければ、自分で傷を癒せなければ、全て出来なければ自分の身も味方も守れない。父様が今しようとしてる事はそういう事」
「だから私も刀を貰ったのか」
「そう、あなたは私の弟子。だから全部教えてあげる。リンドウ兄様の刀凄いんだから。一生使えるよ」

 龍王クリカラは、国民の戦力増強策として国民全員が全ての術を使えるよう指導していた。
 普通は、攻撃役、盾役、回復補助役が決まっている。クリカラはその常識を取っ払い、国民の生存率を上げようとした。彼は国民の死を誰よりも愁嘆した。誰も死ぬことは許さぬ、その現れがこの国力増強策だった。
 

 ここは屋敷の庭。
 クリカラの側近は長男フドウと次男リンドウ。いつも三人で国の事を話し合っていた。
 メイファもたまに、この三人の所に遊びに行っていた。クリカラの教育だ、色々な話を聞かせようとしていたらしい。

「リンドウよ、武具の作成は順調か?」
「まぁねぇ、弟子総動員で作ってるけど、刀はまぁ、できるっしょ。でも防具が微妙。格が高い魔物の皮がもっと欲しいな」
「そうか、では用意させよう。で、フドウ、お主は最近何をふらふらしておる」

 そう言われたフドウは、眉根を寄せて不快感を顕にした。
 
「……ふらふらとは失敬だな。親父殿、オレすげぇ術編み出したよ」
「どんな術だ」
「普通、刀に気力纏うだろ? あれ凄く気力消費すんだよ。だから、気力をさせてみたんだ」
「変質だと? どのように」

 フドウは身振り手振りで説明を始めた。
 
「そのまま気力を纏うんじゃなく、一度気力を体内で練り込んで留めとく。それを小出しで使うんだ。気力の節約のために編み出したんだけど、それが思わぬ結果を生み出したんだよ」
「ほう、思わぬ結果とは?」
「刀に纏うと、とんでもねぇ斬れ味になったんだ。まぁやってみるわ」

 フドウは刀に気力を纏った。らしい。

「おい、ふざけておるのか? 早くやって見せぬか」
「いや、信じられねぇだろ? これで気力纏ってんだよ」
「兄さん、そりゃないっしょ。じゃ、何か切ってみてくれ」

 フドウは周りを見渡し、目に付いた近くの岩に刀を乗せた。刀はスーッと岩に吸い込まれた。

「なにっ!?」
「なんで!?」
「なっ? すげぇだろ?」
「この斬れ味で、気力の消費量は大幅削減。使わない手は無いね。気力を練って使うから『練気術』ってのはどうだ?」
「確かに凄い。けど、兄さんしか出来なかったら意味ないっしょ」
「じゃ、親父殿、やってみてくれ。例えば、そうだな……回復術を対象に纏う時、気力を回復魔力に練り込むだろ? あれを身体の中で、気力のみ練るんだよ」

 クリカラが立ち上がって集中している。

「そうそう、それを右手にでも集めてみな」
「おぉ、成る程な。これは凄い」
「俺もやってみよっかね」

 リンドウもただ立ってる。メイファには何をしてるのか分からない。

「おぉ……すごいなこれ!」
「そうそう、それを刀に更に練り込むんだよ。その後、刀に薄く纏うんだ」
「これはなかなか難易度が高いの……」
「この練気術で、岩蜥蜴がバッサリ斬れたよ。あれの体皮は防具にいいだろ? 普通はあんなもん斬れねぇからな」 

「ほう、あれを斬ったか……おい、メイファ! お主はリンファとメイリンを呼んで来い! あと、各部隊長を修練場に集めよ!

 メイファはいつもお遣い役。
 クリカラの言う通り皆を集めた。
 

 ◆◆◆
 

「アンタ、いきなり皆を集めるなんて何かあったのかい?」

 クリカラの妻リンファはこの国の参謀だ。
 全ての術に精通しているが、突出して頭が良い。他国の情報収集、作戦の立案、隊の編成。軍事を総括するこの国の頭脳だ。

「あぁ、フドウが素晴らしい術を生み出しおった」
「へぇ、それを皆に習得させる気かい?」
「うむ、ではフドウ頼む」

 フドウは国の幹部、部隊長の前で練気術を披露した。

「確かに、皆ができたら凄い事になるな」

 皆から感嘆の声が沸く。
 ザワザワと皆が喋る中、よく通る声でフドウが声を上げた。

「皆、聞いてくれ! この『練気術』は武具に纏うだけじゃねぇんだ。回復術や補助術、魔法にも使えねぇかと思ってる。それができれば、この国の戦闘方法は大きく変わる!」

「なるほどの。メイリン、回復術に組み込めるか? 」
「そうですね、練気の術に回復魔力を入れれば何とかなりそうです。補助術も効果があがりそう。持ち帰って研究します」
「これはやるしかないっしょ。守護術が別物になる」
「オレはこいつを魔法に組み込んでみる」
「こりゃ、色々ひっくり返るねぇ。作戦や隊の編成、組み直さないとね。忙しくなるよ!」

 各自が持ち帰って、練気術を研究する事になった。


「メイファ、これは回復術が変わるよ」

 メイファはメイリンと共に新術の研究に参加している。

「練気術に回復魔力を組み込めば完成ね。でも、それが凄く難しいの」
「姉さん、フドウ兄さんは刀に練気を纏う前に、刀にって言ってたんだ。練気に魔力を練り込む様な感じじゃないか?」
「なるほどね。練気術の基礎は、事ね」

 メイファはその言葉で掴んだ。数ヶ月で術は完成した。
 
 回復術の上位術『治療術』として。
 補助術も新たに『強化術』として、龍族の戦闘力を大幅に上げた。
 
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