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この道は君に続いているのだろうか
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二十代後半で金髪の男が一人でとある街の入口に立っていた。名はジェレミー・アンヴィル。馬車を使ってこの街までやってきた。背中に荷物が詰まった大きなバッグを背負っている。目の前の入口からは大通りが広がっており、道の両脇には多くの木造建造物が立て並ぶ。
ジャレミーは街へ足を踏み入れるとバッグの中から金属のモノがこすれ合うような音が立つ。その音はジャレミーの傍を通り過ぎた者の一部が鞄に視線を浴びせるほどだった。
音の正体は大量の硬貨であり、それはジェレミーが以前借りた借金返済用の金であった。そしてジェレミーは金を貸してくれた人物を探すために二年も旅を続けていた。
五年前、当時大工だったジェレミーは街の不況で仕事を首になった。仕事を探しに街へ出ても職は一ヶ月以上見つからず強靱な筋肉がついていた腕は細くなっていた。
歩き疲れたジャレミーはとある大通りの建物にもたれかかってしまう。大通りに並ぶ露店から見えた生肉がジャレミーは目が留まり、腹が空く音が外へと漏れる。
ジャレミーはそのまま生肉を見続けていると一人の人物が前で足を止めた。ジェレミーは顔を上げると一人の女が顔を覗き込んでいた。女の顔が目に入ったジャレミーは瞬きもせず女に視線が吸い込まれていた。
目尻と目頭が尖った楕円形の瞳に凸凹のない真っ直ぐな鼻筋、唇は薄く口角は曲線を描くように上がっている。髪は茶髪のセミロングで毛先はバラツキがないように切り揃えられている。衣装は庶民では手が届かないであろう高価な素材を用いた紺のドレスを着用していた。年齢は二十代後半程度にジェレミーには見えた。
明らかに金持ちだと理解できる身なりの女は口を開いた。
「そこの男性、そんなところに居座っていることは金に困っているのか」
女の言葉にジャレミーは顔をしかめ語気を強め返事をする。
「お嬢様が言うように俺は仕事を失って一ヶ月ろくな食事もしていない」
女はジェレミーの顔の高さ程度にしゃがみ込んで目を合わせる。ジェレミーは眉をひそめると首を横に動かし始める。すると女が声を発した。その発言にジャレミーの顔は女の顔に引きつけられる。
「金に困っているならわたしが金を貸してやろう。返すのはいつでもよい」
「見ず知らずの男に金を貸すとは何を企んでいる」
女は瞼を下げると発言する。表情は柔らかいのにその声は今にでも砕けそうなぐらい薄かった。
「君が困っているから助けたいだけさ」
ジェレミーは髪を掻きながらしばらく沈黙する。やがて瞼に力を入れ女に話しかける。
「まあ仕事もないし今はあんたの提案を受けるよ。俺はジャレミー・アンヴィル、あんたの名は」
「私の名は……サマンサだ。とりあえず今ある渡せる金を渡しておく」
サマンナは名を名乗ると手に持っていた財布からいくつかの硬貨をジェレミーに手渡す。ジェレミーは手に載っけられた硬貨の種類に瞬きを繰り返してしまう。銀貨が多いが中には金貨もあった。こうしてジェレミーはサマンナから借金をした。
サマンナから大量の金を借りたジェレミーの食生活は安定を取り戻した。体力もついたジャレミーは馬車の御者に再就職した。収入もそれなりにありサマンナへの借金返済の目処も立っていた。
一方でサマンナとは借金以外で交流するようになり、二人はよく居酒屋で飲み食いをする仲となっていた。そしてサマンナと出会って一年が経過したある日、ジェレミーはサマンナと居酒屋で酒を交わしていた。
「久々に街へ戻ってきたから疲れたよ」
馬に乗り馬車で人や荷物を運ぶため街を離れることが多い。場合によってはこの街の遠方に赴くこともあった。サマンナは酒に口を付けず微笑みながらジェレミーは見詰めていた。
「馬車の御者は相変わらず大変そうだな。昔であった頃と比べれば元気ではあるが」
「サマンナに出会っていなければ俺の命は尽きてたよ。サマンナは本当に命の恩人だよ」
ジャレミーは目尻を下げると酒を飲む。それに続くようにサマンナも木製のジョッキを唇に触れさせた。居酒屋に入ってそれなりの時間が経ったとき頬が熱くなっていたジェレミーはジョッキを握りながらサマンナに語りかける。
「借りた分の金溜まったからまた明日も居酒屋で会えないか」
ジェレミは借金分の金を稼ぎきっていた。ジェレミからの申し出にサマンは俯くと籠もり気味な声で言う。
「まだ返さなくていいぞ。金はいくらでも必要だろうし」
サマンナの態度を目にしたジェレミーは腕を組んで首をかしげる。
「確かに返すのはいつでもいいと言われたが、やっぱり明日返しておくよ」
「……わかった。なら今日と同じぐらいに店の前で待ち合わせよう」
サマンナは返事をすると口を結んだまま遠くの壁を眺めだす。そんなサマンナをジェレミーは酒を飲むのを忘れて見ていた。次の日サマンナは待ち合わせ場所に来なかった。それから一週間してもサマンナを見かけることはなかった。ジェレミーは二年間、街でサマンナを待ったが会うことはなかった。そしてジェレミーは仕事を辞め借金を返すために旅に出た。
相手の行き先も知らない状態での旅だったが手がかりはあった。サマンナはよく市場の話をしていた。そのことからサマンナは商売に興味があるのではとジェレミーは推察していた。もっともサマンナという女は謎が多く、仕事をいくら聞いてもはぐらかし、住んでいる場所すらジェレミーは把握していなかった。
ジェレミーは市場や商売に活気がある街を大小問わず探し回った。だが二年が経過しても足取りは掴めずにいた。サマンナと出会った街から遠く離れたこの街に僅かな期待を抱いて訪れていた。店が立ち並ぶ通りで聞き込みをするがサマンナという女がいるという情報は掴めない。
ジェレミーは腕を組みながら通りの端に並ぶ店を眺める。すると遠くで紺のワンピースに身を包んだとある人物の後ろ姿が目に入る。その人物の髪色は茶髪で髪の長さセミロングだった。ジェレミーは走って茶髪の人のもとへ向かう。茶髪の人はとある店に入っていく。そこは宝石商の店だった。
ジェレミーは扉の前まで走り切るとドアノブを握り息を呑む込みながら扉を開けた。店に入ると「いらっしゃいませ」と聞き覚えのある声がジェレミーの耳に入る。ジェレミーは茶髪の人物の顔を見た瞬間、目が見開いた。
「サマンナ」
ジェレミーはかすれた声で呟いた。ジェレミーの前には二年前に消えたサマンナが立っていた。サマンナも目を見開くとジェレミーに近づくと足を止めた。
「なんでここにいるの?」
サマンナは口に手を当てながら震えるような声でジェレミーに訊く。
「あの日君が来なかったから、借金を返すために探していた」
「借金なんて返さなくていいのに」
サマンナはジェレミーから視線を逸らすように目を床に落とした
「サマンナなんで街から去ったんだ。あれからずっと待っていたのに」
ジェレミーはズボンの握りしめながら問う。
サマンナは顔を上げると表情を引き締めた。
「この街ではサマンナって名乗ってないの。ここではテリーサー・ガーランドって名前を使ってるの」
「なんで偽名なんか使っている?」
ジェレミーは太みのある声で聞いた。
「わたしの本名はサマンナ・マクナリー。実家にここで働いていること知られたくないから偽名を用いたの」
「マクナリーってまさか、商人の家柄の?」
ジェレミーは頭を片手で抱える。
「そうよ、わたしはマクナリー家の娘。そして実家に多大な損害を与えたものよ」
マクナリー家はジェレミーが住んでいた街では著名な豪商の家柄だ。
「やっぱり驚いたでしょ。だからファミリネームは名乗らなかったの」
「君は謎が多いから納得したよ。だけど損害を与えたってどういうことだい」
サマンナはショーケースに並べられている宝石を見ながら語りだす。
「わたしは元々実家の商売でバイヤーとして働いていたの。だけどある取引に失敗してね。それで実家は一時は商売が続けるのが難しくなるほどの損害を受けたの。わたしはミスを責められて商売からは手を引かされた」
「そうだったのか」
「それから仕事はしてたけど自暴自棄になって暮らしていてね、そんなときあなたに出会った。苦しみながらも生きようとする瞳をしていたあなたになぜだか手を貸したくなった」
サマンナは微かに微笑みながら言った。
「それで金を貸してくれたわけか」
ジェレミーは顎に手を添えながら小声で話した。
「実家はなんとか再建できのだけど、マクナリー家の影響が強いあの街ではわたしは居心地が悪かった。マクナリーの名を出すだけで実家のことを聞かれるほどだしね。だからあの街を離れたの」
サマンナは表情を硬化させながら言った。言い終わるとすぐに無表情になる。ジェレミーは鞄から大量の硬貨が入った袋を取り出すとサマンナに差し出す。
「とりあえず借金分の金だ。受け取ってくれ」
サマンナは袋を受け取ろうとはしない。
「借金は帳消しにしてあげるから、だから……私の前から去って」
サマンナは目を手で隠すと声を上擦りながら言葉を発する。
ジェレミーは空いた片手でそっとサマンナの頭を撫でた。サマンナはジャレミの顔を目するとジェレミは頬を緩ませながら口を開いた。
「君に会いに来たのにはもう一つ理由がある。それは好きな人にもう一度会いたかったから」
ジェレミーの言葉を聞いたサマンナの瞳から一筋に水滴が顔に溢れる。
「告白なんて……しないでよ。わたしが街を離れてもう一つの理由は惨めな過去をあなたに知られたくなかったからの」
「そんな過去があっても俺はサマンナが好きさ。サマンナ本当はまだ商売したいと思っているんだろ? だから宝石商で店員として働いている」
サマンナは一度深呼吸をすると質問に答える。
「そうよ、わたしはまた商売がしたい」
サマンナの答えを聞いたジェレミーは再び硬貨の入った袋をサマンナに差し出しこう言った。
「借金を帳消しにしてくれるならこの金を元手に商売を始めないか? そしてそれを俺にも手伝わせてほしい」
サマンナは潤んだ瞳でジェレミーを無言でしばらく見詰める。やがてサマンナは口を開いた。
「わたしでいいの?」
ジェレミーはこう言い返した。
「サマンナと一緒にいたい」
サマンナはジェレミーの胸にもたれかかる。ジャレミーもサマンナの背中に空いている手を回した。
ジャレミーは街へ足を踏み入れるとバッグの中から金属のモノがこすれ合うような音が立つ。その音はジャレミーの傍を通り過ぎた者の一部が鞄に視線を浴びせるほどだった。
音の正体は大量の硬貨であり、それはジェレミーが以前借りた借金返済用の金であった。そしてジェレミーは金を貸してくれた人物を探すために二年も旅を続けていた。
五年前、当時大工だったジェレミーは街の不況で仕事を首になった。仕事を探しに街へ出ても職は一ヶ月以上見つからず強靱な筋肉がついていた腕は細くなっていた。
歩き疲れたジャレミーはとある大通りの建物にもたれかかってしまう。大通りに並ぶ露店から見えた生肉がジャレミーは目が留まり、腹が空く音が外へと漏れる。
ジャレミーはそのまま生肉を見続けていると一人の人物が前で足を止めた。ジェレミーは顔を上げると一人の女が顔を覗き込んでいた。女の顔が目に入ったジャレミーは瞬きもせず女に視線が吸い込まれていた。
目尻と目頭が尖った楕円形の瞳に凸凹のない真っ直ぐな鼻筋、唇は薄く口角は曲線を描くように上がっている。髪は茶髪のセミロングで毛先はバラツキがないように切り揃えられている。衣装は庶民では手が届かないであろう高価な素材を用いた紺のドレスを着用していた。年齢は二十代後半程度にジェレミーには見えた。
明らかに金持ちだと理解できる身なりの女は口を開いた。
「そこの男性、そんなところに居座っていることは金に困っているのか」
女の言葉にジャレミーは顔をしかめ語気を強め返事をする。
「お嬢様が言うように俺は仕事を失って一ヶ月ろくな食事もしていない」
女はジェレミーの顔の高さ程度にしゃがみ込んで目を合わせる。ジェレミーは眉をひそめると首を横に動かし始める。すると女が声を発した。その発言にジャレミーの顔は女の顔に引きつけられる。
「金に困っているならわたしが金を貸してやろう。返すのはいつでもよい」
「見ず知らずの男に金を貸すとは何を企んでいる」
女は瞼を下げると発言する。表情は柔らかいのにその声は今にでも砕けそうなぐらい薄かった。
「君が困っているから助けたいだけさ」
ジェレミーは髪を掻きながらしばらく沈黙する。やがて瞼に力を入れ女に話しかける。
「まあ仕事もないし今はあんたの提案を受けるよ。俺はジャレミー・アンヴィル、あんたの名は」
「私の名は……サマンサだ。とりあえず今ある渡せる金を渡しておく」
サマンナは名を名乗ると手に持っていた財布からいくつかの硬貨をジェレミーに手渡す。ジェレミーは手に載っけられた硬貨の種類に瞬きを繰り返してしまう。銀貨が多いが中には金貨もあった。こうしてジェレミーはサマンナから借金をした。
サマンナから大量の金を借りたジェレミーの食生活は安定を取り戻した。体力もついたジャレミーは馬車の御者に再就職した。収入もそれなりにありサマンナへの借金返済の目処も立っていた。
一方でサマンナとは借金以外で交流するようになり、二人はよく居酒屋で飲み食いをする仲となっていた。そしてサマンナと出会って一年が経過したある日、ジェレミーはサマンナと居酒屋で酒を交わしていた。
「久々に街へ戻ってきたから疲れたよ」
馬に乗り馬車で人や荷物を運ぶため街を離れることが多い。場合によってはこの街の遠方に赴くこともあった。サマンナは酒に口を付けず微笑みながらジェレミーは見詰めていた。
「馬車の御者は相変わらず大変そうだな。昔であった頃と比べれば元気ではあるが」
「サマンナに出会っていなければ俺の命は尽きてたよ。サマンナは本当に命の恩人だよ」
ジャレミーは目尻を下げると酒を飲む。それに続くようにサマンナも木製のジョッキを唇に触れさせた。居酒屋に入ってそれなりの時間が経ったとき頬が熱くなっていたジェレミーはジョッキを握りながらサマンナに語りかける。
「借りた分の金溜まったからまた明日も居酒屋で会えないか」
ジェレミは借金分の金を稼ぎきっていた。ジェレミからの申し出にサマンは俯くと籠もり気味な声で言う。
「まだ返さなくていいぞ。金はいくらでも必要だろうし」
サマンナの態度を目にしたジェレミーは腕を組んで首をかしげる。
「確かに返すのはいつでもいいと言われたが、やっぱり明日返しておくよ」
「……わかった。なら今日と同じぐらいに店の前で待ち合わせよう」
サマンナは返事をすると口を結んだまま遠くの壁を眺めだす。そんなサマンナをジェレミーは酒を飲むのを忘れて見ていた。次の日サマンナは待ち合わせ場所に来なかった。それから一週間してもサマンナを見かけることはなかった。ジェレミーは二年間、街でサマンナを待ったが会うことはなかった。そしてジェレミーは仕事を辞め借金を返すために旅に出た。
相手の行き先も知らない状態での旅だったが手がかりはあった。サマンナはよく市場の話をしていた。そのことからサマンナは商売に興味があるのではとジェレミーは推察していた。もっともサマンナという女は謎が多く、仕事をいくら聞いてもはぐらかし、住んでいる場所すらジェレミーは把握していなかった。
ジェレミーは市場や商売に活気がある街を大小問わず探し回った。だが二年が経過しても足取りは掴めずにいた。サマンナと出会った街から遠く離れたこの街に僅かな期待を抱いて訪れていた。店が立ち並ぶ通りで聞き込みをするがサマンナという女がいるという情報は掴めない。
ジェレミーは腕を組みながら通りの端に並ぶ店を眺める。すると遠くで紺のワンピースに身を包んだとある人物の後ろ姿が目に入る。その人物の髪色は茶髪で髪の長さセミロングだった。ジェレミーは走って茶髪の人のもとへ向かう。茶髪の人はとある店に入っていく。そこは宝石商の店だった。
ジェレミーは扉の前まで走り切るとドアノブを握り息を呑む込みながら扉を開けた。店に入ると「いらっしゃいませ」と聞き覚えのある声がジェレミーの耳に入る。ジェレミーは茶髪の人物の顔を見た瞬間、目が見開いた。
「サマンナ」
ジェレミーはかすれた声で呟いた。ジェレミーの前には二年前に消えたサマンナが立っていた。サマンナも目を見開くとジェレミーに近づくと足を止めた。
「なんでここにいるの?」
サマンナは口に手を当てながら震えるような声でジェレミーに訊く。
「あの日君が来なかったから、借金を返すために探していた」
「借金なんて返さなくていいのに」
サマンナはジェレミーから視線を逸らすように目を床に落とした
「サマンナなんで街から去ったんだ。あれからずっと待っていたのに」
ジェレミーはズボンの握りしめながら問う。
サマンナは顔を上げると表情を引き締めた。
「この街ではサマンナって名乗ってないの。ここではテリーサー・ガーランドって名前を使ってるの」
「なんで偽名なんか使っている?」
ジェレミーは太みのある声で聞いた。
「わたしの本名はサマンナ・マクナリー。実家にここで働いていること知られたくないから偽名を用いたの」
「マクナリーってまさか、商人の家柄の?」
ジェレミーは頭を片手で抱える。
「そうよ、わたしはマクナリー家の娘。そして実家に多大な損害を与えたものよ」
マクナリー家はジェレミーが住んでいた街では著名な豪商の家柄だ。
「やっぱり驚いたでしょ。だからファミリネームは名乗らなかったの」
「君は謎が多いから納得したよ。だけど損害を与えたってどういうことだい」
サマンナはショーケースに並べられている宝石を見ながら語りだす。
「わたしは元々実家の商売でバイヤーとして働いていたの。だけどある取引に失敗してね。それで実家は一時は商売が続けるのが難しくなるほどの損害を受けたの。わたしはミスを責められて商売からは手を引かされた」
「そうだったのか」
「それから仕事はしてたけど自暴自棄になって暮らしていてね、そんなときあなたに出会った。苦しみながらも生きようとする瞳をしていたあなたになぜだか手を貸したくなった」
サマンナは微かに微笑みながら言った。
「それで金を貸してくれたわけか」
ジェレミーは顎に手を添えながら小声で話した。
「実家はなんとか再建できのだけど、マクナリー家の影響が強いあの街ではわたしは居心地が悪かった。マクナリーの名を出すだけで実家のことを聞かれるほどだしね。だからあの街を離れたの」
サマンナは表情を硬化させながら言った。言い終わるとすぐに無表情になる。ジェレミーは鞄から大量の硬貨が入った袋を取り出すとサマンナに差し出す。
「とりあえず借金分の金だ。受け取ってくれ」
サマンナは袋を受け取ろうとはしない。
「借金は帳消しにしてあげるから、だから……私の前から去って」
サマンナは目を手で隠すと声を上擦りながら言葉を発する。
ジェレミーは空いた片手でそっとサマンナの頭を撫でた。サマンナはジャレミの顔を目するとジェレミは頬を緩ませながら口を開いた。
「君に会いに来たのにはもう一つ理由がある。それは好きな人にもう一度会いたかったから」
ジェレミーの言葉を聞いたサマンナの瞳から一筋に水滴が顔に溢れる。
「告白なんて……しないでよ。わたしが街を離れてもう一つの理由は惨めな過去をあなたに知られたくなかったからの」
「そんな過去があっても俺はサマンナが好きさ。サマンナ本当はまだ商売したいと思っているんだろ? だから宝石商で店員として働いている」
サマンナは一度深呼吸をすると質問に答える。
「そうよ、わたしはまた商売がしたい」
サマンナの答えを聞いたジェレミーは再び硬貨の入った袋をサマンナに差し出しこう言った。
「借金を帳消しにしてくれるならこの金を元手に商売を始めないか? そしてそれを俺にも手伝わせてほしい」
サマンナは潤んだ瞳でジェレミーを無言でしばらく見詰める。やがてサマンナは口を開いた。
「わたしでいいの?」
ジェレミーはこう言い返した。
「サマンナと一緒にいたい」
サマンナはジェレミーの胸にもたれかかる。ジャレミーもサマンナの背中に空いている手を回した。
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