上 下
42 / 52
【二章】ゴールド・ノジャーの祝福編

040

しおりを挟む


 マルクス・オーラとゼクス・フォースの試合を行うことに決めた翌日。
 貴族子弟同士のいざこざに出しゃばることのできない父アルバン・オーラに代わり、俺の魔法で魔法学院のある王都までひとっとびしたエレン君が、なにやら学院側とごそごそと協議して決闘の日程を決めた。

 そしてさらに数日後の現在、学院の生徒たちに混ざり変装したノジャー親子が、もうすぐ決闘の開始時刻となる闘技場を観客席から眺めているところだったりする。
 もちろん今回の立役者であるエレン君もちゃっかりと同席してるよ。

 いまも隣でニコニコと笑いながら「兄上の晴れ舞台ですねぇ」とかいってる。

 ちなみに、この提案に関してはけっこう魔法学院側も乗り気だったご様子。
 今期入学生の中でも魔法使いとして頂点に近い二人が試合をするのなら、他の者達への刺激にもなるだろうと考えてのことだそうだ。

 表向きには決闘とされているが、いってしまえば、これはただの模擬戦だしね。
 お互いに死に直結する攻撃や、審判が戦闘不能とみなした相手への追撃は禁止。

 その上、学院きっての救護班までスタンバイしているわけだから、そうそう事故など起こりようもないらしい。
 アカシックレコードでその時の対話を覗き見したけど、けっこう自信満々だったよ。

 俺個人としてはなんだかなあ、って感じだけどね。
 たぶんゼクスは審判の命令なんて聞かないし、殺傷力のある魔法をバンバン使うと思うんだ。

 こいつの興味は試合の勝ち負けなどにはなく、マルクス君より自分の方が強いと証明するのが目的みたいなところがあるからね。

 実際に授業の模擬戦でも、指定された無属性の魔弾ではなく殺傷力の高い爆炎弾でマルクス君を攻撃していたし、学院側はこの問題児のことをちょっと軽く見過ぎだと思う今日この頃。

 とはいえ、第二の弟子であるあのマルクス君がその程度の魔法で不覚を取るはずもない。
 自分の力が大きすぎるため勝負にならず、わざわざ反撃にすら転じていなかった結果こういうことになったんだから、もう試合なんて見なくてもどうなるか分かるってもんである。

 ある意味、公開処刑されるゼクスとやらが可哀そうな気がしないでもないね。
 それにマルクス君としては怒り心頭ではあるものの、ゼクス側がユーナちゃんに謝罪し今後手を出しさえしなければ、今回の件も水に流そうかなって思うくらいには心が広い。

 なのでこの決闘でも一方的な蹂躙などせず、できれば対戦相手の立場や誇りも立てて終わらせてあげたいとか考えているようだ。

「ま~。無理じゃろうな~」
「むりむりの、むりっ! なのよね~。あのゼクスとかいうアホの子は、きっとそんなことされたら余計に怒るのよ」
「じゃろうなぁ~……」

 はい、ツーピー大正解。
 その通りである。
 羽スライムも同じ意見のようで、俺たちの頭上を、心なしか頷くようにふわふわと上下飛行する。

「とはいえ、案外そちらの方が兄上にとっても都合がよいかもしれませんよ」

 そんなことを言うエレン君だが、魂胆は見え透いている。
 きっとなかなか本気を出さないマルクス君に逆上して、観客を巻き込むような大魔法を展開するゼクスが、「短絡的だけど見た目は派手な全力」を出すのに期待しているのだ。

 そうすれば、仮にもフォース公爵家の天才として知られる全力のゼクス・フォースを、ルール通り最低限の魔法だけで倒したマルクス・オーラという構図が生まれる。
 そうなったらもうこっちのモノで、木偶の坊だのなんだのと蔑まれてきたマルクス君の汚名は学年最強という栄光に上書きされるだろう。

 もう誰も彼を侮蔑することなどできないという訳だ。

 まったく、あどけない少年のような外見からは想像もつかないほど腹黒いねエレン君は。
 マルクス君の全力を焚きつける問題児がゼクスなら、ゼクスの全力を焚きつける問題児はエレン君である。

 もはやどちらが本当の問題児か分からないほどだ。

「ははは……。そう睨まないでくださいよノジャー先生。先生ほどの人に目をつけられてしまったら、私みたいな小物は恐怖ですくみ上がってしまいます」
「よく言うわい。まるで堪えておらぬくせにのう」
「いえいえ、本当ですとも」

 そうしてそんな雑談をしながらしばらくして。
 会場に見学に訪れた生徒たちがごった返してきた頃、ようやく決闘の時刻になり今回の主役たちが姿を現したのであった。





「ふむ。逃げずに俺の前に現れたその度胸だけは認めてやろう、マルクス・オーラ」
「……なあ、ゼクス。もうこんなことは止めにしないか」

 俺たちが闘技場に潜伏している中。
 ついに二人が舞台に上がり、お互いが向き合った状態で対話を試みる。

 ……いや、違うか。
 どちらかというと対話を成立させようとしているのはマルクス君の方で、ゼクスは相手からの返答など求めてなさそうだな。

 こう、言いたいことがあったからそのまま言葉をぶつけただけ、っていう感じ。

 なおこの二人の会話は距離の関係から観客たちには聞こえておらず、俺たちが音を拾えるのもゴールド・ノジャーによる音魔法の超絶技巧あってこそのものだ。

 ツーピーやエレン君、ついでに羽スライムもただ景色を見ているだけではつまらないだろうからね。
 こういったサービスはお手の物である。

「お前だって、本気でユーナを傷つけようとしている訳じゃないんだろう」
「…………」

 おっ、マルクス君が仕掛けた。
 何かを伝えようとしているらしい。

「お前はただ誰よりも魔法への強い拘りがあって、同時に高い誇りを抱いているだけだ。だけど、それがあまりにも強すぎるがゆえに、目が曇ってしまって大事なことを見落としている。それなら、いまからだってやり直そうと思えば────」
「────黙れ、三下」

 おおおっ?
 なんだなんだ。

 何を言うかと思ったら、ここに来て説得フェイズがはじまった。
 というより、今の説得にゼクス側もしっかり対応するんだね。

 無視すると思っていただけに、意外な展開である。

「まるで俺のことを理解したかのような言葉で、図々しくも指図などするな。反吐が出る。もしどうしても言うことを聞かせたいというのならば、それこそ力を示してみろ。そのために学院側もこの場を用意したのだろう? ならば杖を抜け。……決着をつけてやる」

 必死の説得もむなしく、聞く耳をもたないゼクスの言葉がマルクス君を拒絶する。
 予想通りそうくるだろうとは思っていたが……。
 いやはやどうして、思ったよりも熱く語るじゃないの問題児。

 どうやらゼクスにとって、「魔法への拘り」、「高い誇り」、という言葉は思った以上に図星だったようだ。
 まさかさきほどまで眼中にすらないといった態度のゼクスが、こうも事前の予想を裏切り真剣に答えるとは思わなかった。

 もっとこう、マルクス君のことを舐めてかかると思っていたんだけどね。

「こりゃあ荒れそうじゃの~。マルクス坊のことを舐めていたら試合なんて決まったも同然じゃったが……。そうか、ここにきてついに相手のことを認めたか」

 熱い男だねえ、本当に。
 これが若さというやつなのだろうか。

 これで問題児の原因たる傍若無人ささえなければ、マルクス君ともいい友達になれただろうに。

 実に惜しい人材である。

 とはいえ試合は試合だ。
 お互い悔いの残らぬよう頑張ってほしいものである。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

朝起きたら女体化してました

たいが
恋愛
主人公の早乙女駿、朝起きると体が... ⚠誤字脱字等、めちゃくちゃあります

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

達也の女体化事件

愛莉
ファンタジー
21歳実家暮らしのf蘭大学生達也は、朝起きると、股間だけが女性化していて、、!子宮まで形成されていた!?

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

処理中です...