上 下
39 / 52
【二章】ゴールド・ノジャーの祝福編

037

しおりを挟む


 少し旅に出ると宣言し、オーラ侯爵家から離れて数か月後。
 再びマルクス君のもとへ凄腕の家庭教師として舞い戻った俺は、以前にはいなかったツーピーを連れて彼の魔法学院合格発表を見に来ていた。

 もちろん掲示板に掲載された合格者一覧の一番上にあるのは、主席マルクス・オーラの文字。
 現在マルクス君本人はここにいないが、同じく第四席として特待生枠に入り込んだユーナちゃんと一緒に、ツーピーも含め三人で円陣を組みわんわん泣いていたのである。

「よがっだのぉおおお! よがっだ、ほんどうによがっだのう二人どもぉおおおおっ!!」
「よぐやっだのよ子分たぢっ! わだぢ、いまどでも感動しているのよぉおおおおっ!!」
「えっ、えっと……。やったー!」

 なお、周囲を見渡してもこんな場所で泣いているのは俺とツーピーだけ。
 主席合格が決まったマルクス君がもし見ていたら、特待生入学のユーナちゃんと一緒に苦笑いしていただろう。

 兄上の晴れ舞台ですからという理由でついてきている次男のエレン・オーラ君など、若干引き気味で俺たちから離れていったが、気にしない気にしない。
 合格発表は儀式であり様式美でもあるのだから、こういう場面では気持ちよく泣いた者勝ちなのだ。

 だから一緒に円陣を組んでいるユーナちゃんも、そう棒読みにならずに思いっきり楽しめばいいのである。

 なお、魔法王国の有力者であり主席でもあるオーラ侯爵家一同はこの場におらず、貴族専用の個室とやらで入学の手続きを進めている最中だ。
 なのでまだユーナちゃんとの顔合わせや紹介といったものが済んでいないのだが、まあ、その辺は学院に入ってから自ずと縁を持つようになるだろう。

「でも本当にビックリしました。まさか十席しか空きがない特待生枠の中に、私が第四席で入学できるなんて……。私、師匠に師事していて本当によかったです」
「うむ、うむ。ほうじゃろうほうじゃろう」

 なんたって実力だけならば、マルクス君に次いで第二席でもおかしくなかったくらいだからね。
 おそらく学院側も他に入学してくる大貴族への配慮とか、だけれども無視できないユーナちゃんの実力への注目とかで、いろいろと調整が困難だったのだろう。

 今回ユーナちゃんの上に名前が載っている第二席と第三席は、それこそこの王国で知る人ぞ知る魔法の名家。
 水氷を司る公爵家令嬢のアンネローゼ・クライベルと、これまたもう一つの公爵家令息、破壊魔法の天才児ゼクス・フォースなのだから。

 ちなみに魔法の属性について、水氷はともかく破壊魔法とはなんぞやという話だが……。
 まあ、言ってしまえば周囲の同年代に比べて突出した火炎の力を持つフォース公爵家が、これまた歴代でも突出した魔法出力を持つ天才児ゼクス・フォースの魔法を見て、大げさにいっているだけだったりする。

 要するに練度の高い火炎のことをカッコよく呼称した造語だから、言ってしまえば基本ただの火属性魔法だね。
 まあ、大貴族ともなれば色々とブランドというものが大事になってくるのだろう。
 仕方のない話だね。

 ちなみに、アカシックレコードの知識にはちゃんと、本物の破壊属性なる魔法属性も存在している。
 魔力や分子の結合を弱めることで対象を脆くしてしまう危険極まりない魔法なのだが、破壊属性というわりには直接的な破壊はなく、どちらかというと防御力を下げるようなデバフに近い魔法だ。

 これは主に魔王が愛用する極悪な魔法なのだが、当然魔王本人に秘匿され世間一般に知られている魔法ではない。
 よってフォース公爵家が本当のことを知らないのも、また仕方の無いことなのであった。

「でもユーナは大貴族相手によくやったのよ。さすが、わたちの子分なだけはあるわね~」
「えへへっ。ありがとうねツーピーちゃん。それと、羽スライム君もっ! なんだか夢みたいだよ」

 世にも珍しい羽スライムがユーナちゃんの頭上をふわふわと飛び、まるでおめでとうと言っているかのような態度を取る。
 ツーピーが羽スライムを連れてきた時はいったいどうなることかと思ったが、いくら珍しくとも所詮はスライムという認識なのか、周りで気にかけている人たちはいない。

 保護者を連れた貴族令息令嬢たちに目を付けられ、これが欲しいですなんて言われてもどうしようもなかったので、この展開はありがたい限りだ。

「それじゃあ、私はそろそろ入寮の手続きにいってくるね。またどこかで会おうね二人とも!」
「うむ。いってくるのじゃ若人よ。何度も言うが、困った時はマルクス・オーラという貴族を頼るとええぞ。そやつも儂の弟子じゃからな~」
「は~いっ!」

 そうして元気いっぱい魔法学院の門をくぐり、女子学生寮へと走っていくユーナちゃん。
 そんな彼女のことを恨めしそうに見ている貴族たちも多くいる中、本当に大丈夫だろうかと少し心配になる。

 でもまあ、平気か。
 なにせこの魔法学院にはちょくちょく遊びに来るつもりだし。

 もちろん、こっそりとだけどね。
 それに一応、オーラ侯爵家当主、アルバン・オーラの口利きで学院側には許可をとっているんだよ。

 表向きの身分はこれからの魔法学を支える、オーラ侯爵家が認めた希代の魔法学者。
 魔法学院に残されている資料や図書館の利用を含め、様々な施設への出入りが可能だ。

「ふっふっふ。この儂に抜かりはない」
「侯爵家にとっては迷惑なのじゃロリなのよね~。本当に大丈夫かしら?」

 大丈夫だってば。
 こんな時はやけに心配性なツーピーである。

 なぜか俺の頼みを色々と聞いてくれるアルバン・オーラ侯爵だが、きっとマルクス君の家庭教師を務めた恩返しだとでも思っているのだろう。
 きっとそうに違いない。

 ……そうだよね?
 ちょっと俺も心配になってきたが、気にしたってしょうがない。

 そんなこんなでしばらくして。
 弟子の門出を祝った俺たちノジャー親子は合格発表での思い出作りを成功させ、こうして今後も動向を見守ることにしたのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

朝起きたら女体化してました

たいが
恋愛
主人公の早乙女駿、朝起きると体が... ⚠誤字脱字等、めちゃくちゃあります

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

達也の女体化事件

愛莉
ファンタジー
21歳実家暮らしのf蘭大学生達也は、朝起きると、股間だけが女性化していて、、!子宮まで形成されていた!?

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

処理中です...