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【一章】ゴールド・ノジャーの人助け編

閑話 レオン

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 僕の名はレオン。
 遠い昔、ゴールド・ノジャーを名乗る神様のちょっとした気まぐれによって。
 だけども大きな奇跡によって救われた、ただのレオンだ。

 あの日、あの時、あの場所で。
 たとえあの時に死ぬことがなく、別の誰かに救われていたのだとしても。

 もし神様に出会うことなく生きながらえていたとしたら、僕はいったいどれほどの幸福を知らずに生きていたのだろうか。

 神様に出会って武術を知り、文字を知り、社会を知り、世界を知り。
 そして最後に、決して裏切らない仲間と家族の存在を知った。

 そしていま僕は神様のもとから巣立ち、現にこうして最高の仲間たちと旅を続けている。
 僕は本当に幸運だ。
 もしかしたら世界一幸運な孤児なのかもしれない。

 だが、僕を救ってくれた神様……。
 ゴールド・ノジャー義母かあ様は、いまの僕たちを見てどう思ってくれているだろうか。
 少しでもあの時の恩を返せているのだろうか。

 まだまだ道半ばであるものの、そのことが少しだけ気がかりだ。

「レオン様、どうでしたか今の剣技はっ! 複数の魔物を相手にするときのレオン様の動きを、見様見真似で取り入れてみたんですがっ!」
「あ、ああ。そうだな。えっと……」

 あ、やばい。
 いまはちょうど、勇者ノアに剣術の稽古を頼まれている真っ最中だったのに……。
 だというのに、考え事に夢中で全然動きを見ていなかった。

 適当なことを言って誤魔化すのはノアに悪いし、さて、どうしたものか。

「どうしたレオン。黄金の英雄サマとあろう者が戦いの最中に悩み事たあ、らしくねえな?」
「ぐっ……。やはり分かるか?」
「当たり前だバカ野郎。お前に盲目なノアならともかく、この俺様の目をそんな腑抜けたツラで誤魔化せると思うなよ」
「ちょっとちょっと!? バルザックぅ~? レオン様に対してそんな言い方はないんじゃない?」

 僕を怒鳴りつけるようなバルザックの言葉にノアが抗議の声を上げるが、悪いのは僕だ。
 彼はただ、何か悩みを抱えていそうな僕に気合を入れようとしてくれていただけなのだから。

 そもそも。
 あいつの荒々しい言葉の中には、他人を気遣う確かな優しさが含まれているのは一目瞭然。
 そんなことが勇者であるノアに分からないはずもないので、きっとこの冗談のようなやり取りも、僕を元気づけるための茶番みたいなものなのだろう。

「しかし黄金の英雄、ね……」

 最近じゃ僕のことをそう呼ぶ人は増えたけど、正直ピンとこないな。
 確かに神様に修行をつけてもらったこの武術で、他の誰かに負けるような気はしない。

 だが、それはあくまでも僕が運よく力を手に入れたからというだけの話であって、周囲の人が言うような英雄に相応しい人物かといわれると、本当にそうなのか疑問に思う時がある。

 なにせ元をただせば裏路地で死にかけていた、ただの孤児なのだ。
 
 絶望の中で誰かに救われた身として、なにより救ってくれた神様の顔にドロを塗らぬよう。
 できるだけ多くの善行をこなし、なるべく多くの困っている人たちの力になってきた。

 だけど世界にはまだまだ多くの悲劇があって、困っている人達がいて、僕の一人の力ではどうにもならない悪意だって蔓延はびこっている。
 このロデオンス中央大陸に攻め込んできている魔王軍など、その典型的な例だ。

 そんな世界で起こる様々な不条理の中で、何を思い上がって自分を英雄などと豪語できるだろうか。

 僕は常々そう思っていたのだけれども……。
 でも、最も信頼するノアやバルザックの意見は違うようであった。

「な~にシケたツラしてやがんだ、っていってんの。らしくねえ。まさかレオン、お前さんはこの世界の全てが、自分の思い通りになるとでも思っているのか? かぁ~っ! バカだな。本気のバカだ。そんなツラを見ていたんじゃマズくて飯も食えねえや、バカヤローが」

 バルザックにそう言われ、思わずハッとする。
 そうだ、何を勘違いしていたんだ僕は。

 自分は驕っていないなどと言いながら、誰よりも傲慢な考えをしていたのは自分自身じゃないか。

 それに神様はいつも言っていた。
 そう、最初からずっと言っていたんだ。

「ほれ、もっと食わんか小僧。よく食べ、よく学び、よく休む。これがゴールド・ノジャー流の基礎じゃ。理解したかのう?」

 ……と。

 神様に弟子入りしてから、一番初めに言われたこの言葉を思い出す。
 それが幼い僕へ向けてかみ砕いた理屈だと理解してはいるが、それでもこう思わずにいられない。

 さきほどまでの僕は、よく食べて、つまりこの瞬間を生きる幸せに満足する心を持っていたかと。
 そして、他者から学ぶ謙虚さと、心のゆとりをもっていたか。
 思いつめずによく休み、視野を広げる努力をしていたか。

 いいや、全てを怠っていた。
 そして何よりこのことを気づかせてくれたのは、他でもない仲間の言葉だ。

 それは神様との別れ際にも語られた、あのシーンを連想させる。

「うむ。わからぬのも無理はない。なにせこれまでは儂がついていた故、必要なかったものじゃからな。だが、これから先には必ず必要になってくるもじゃ」
「必ず必要に……」
「うむ。必ずじゃ。人はそれを────」

 ────仲間という。

 ……そうか、そうだったんですね神様。
 人を助けるのも、自分を助けるのも。
 すべてはこの言葉に集約されていたんだ。

 誰かのために、何かをして「あげる」んじゃない。
 僕が自分のために、何かをして「あげたかった」だけなんだ。

 そして、そんな僕の心を受け入れてくれるのが仲間であり、家族だ。
 神様がいまの自分を認めてくれているかなんて、考える必要など最初からなかったのだ。

 僕の最大の恩人にして最高の家族と仲間は、既に受け入れ、認めてくれていたのだから。
 だから柄にもなく考え事なんかせずに、いままで通り好き放題人助けをすればいい。
 自分の思った正義を貫けばいい。

 それが神様、ゴールド・ノジャー義母様から受け継いだ、僕の教えの原点だ。


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