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【一章】ゴールド・ノジャーの人助け編
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しおりを挟む空間魔法の暴走により、一度は爆散してしまったと思われるマルクス君の杖を再び作り始めることしばらく。
今度はあまり究極の魔法杖とか考えずに、そこそこ高性能で本人の使用感に合ったものを用意しようとしている、そんなのんびりとした早朝。
今日も今日とて平和な日々が続く、無人の大森林のログハウスにてトラブルは始まる。
今日はなんだか胸騒ぎがするな~と思ったところ、なんとツーピーが個室に引きこもってスネてしまったことが発覚した。
一応ログハウスは増築してツーピー用の個室というものを用意していたものの、いつもは使うことなどない完全な空き部屋だったのだが、まさか本当に使う時がくるとはね。
夜寝るときになると、必ず俺のベッドに潜り込んできては「のじゃロリは暖かいのね~」とか言っていたあのツーピーが、まさかまさかである。
ここまでスネてしまうなんて思いもしなかったので、これは親として反省しなければならないな。
一週間のオヤツ抜きに加えて、弟子の杖制作に没頭しすぎて構ってやれなかったのが大きいだろう。
なお、ツーピーの部屋の前には立て看板がかけられており、拙い文字でこう書かれていた。
────大事な研究中、のじゃロリ入室禁止。
大事な研究とはなんぞやと思ってアカシックレコードで調べてみると、意外なことにツーピーは結構まともな研究をしていた。
というより、かなり高度な研究だ。
なにを隠そうこのツーピー。
寂しさのあまりか、自分と同じホムンクルスを自分の力で作り出そうとしていたのである。
それもスライムと何かの死骸を混ぜ合わせることで人型を放棄し、まったく新たな形のホムンクルスを作ろうとしていた。
本来人型というのはとても臓器が多く、制作においてそれだけで高度になりがちだ。
だがあえて単純な構造の生き物を混ぜ合わせることで難易度を著しく下げて、なんでもいいからペットを作れないかと模索していたのである。
うう……、そんなに思いつめていたのかツーピー!
ごめん、ごめんよぉおお!!
いてもたってもいられなくなった俺は、入室禁止と書いてある立て看板を無視してドタドタと駆け寄っていく。
そして、そこで見たものは……。
「のじゃぁぁああああああ!? 何をやってるんじゃお主はぁあああああ!?」
「あら? いいところに来たのよ、のじゃロリ。いまムカデのムーちゃんと、油虫のG君がホムンクルスの材料の座をかけて最終決戦中なの」
ツーピーの部屋で目にしたものは、そこかしこにうじゃうじゃといる虫の大群であった。
足元に這い拠ってくる蜘蛛や毛虫、その他多くの虫たちによる百鬼夜行である。
あまりのおぞましさに魂が抜けかけ、自分の周囲に無敵のバリアーを貼っていることも忘れて、一瞬意識が飛んでしまったくらいである。
何を隠そう、この俺ことゴールド・ノジャーは虫が苦手なのだ。
いや、一匹や二匹とかだったらわりと平気だよ?
でも、この百鬼夜行は無理だ。
特に自らの住居である安全空間、つまり室内にこの地獄が生まれたというのが耐えきれないのであった。
もう少し気が緩んでいたら、完全に正気を失い恐怖のあまり泣き叫んでいたことだろう。
「いくら寂しかったからってこれはないじゃろお主! 復讐か!? 儂への復讐なのか!? とにかく、いますぐ片付けんかい!」
「何をいってるのかしら、のじゃロリは。わたちはいま世紀の大発明に取り組んでいるところなの。静かにしてほしいのよね~」
ええい、こしゃくなっ!
自分が優位に立ったと思った瞬間にすまし顔になりやがってぇ!
確かにアカシックレコードは本人の心の内を直接覗けるわけじゃないし、あくまでも完璧な情報と状況証拠から演算される最適解でしかない。
とはいえだいたい的中するのだが、ここぞとばかりにその弱点を突いてきたなこやつめ。
まるで自分は独りでも平気だったんですみたいな顔をしているが、最近はめっきり俺のベッドに潜り込んでないからか、ちょっと甘えたくてそわそわしているのがバレバレだ。
くっ、だが仕方ない。
非のほとんどは放置していた俺にあるわけなので、仕方ないので部屋の片づけに徹することにしよう。
といってもこの虫の大群を触ったり直視したりするのは嫌なので、いまツーピーが戦わせているムーちゃんとG君以外は空間魔法でお外へポイ、である。
「ふーっ。ふーっ。ふーっ。じ、地獄が去ったのじゃ……」
「のじゃロリは頑張るのね~。わたちはめんどくさいから片付けとかは苦手なの。……あっ、G君が勝った」
油虫のG君が最終決戦に勝利したらしい。
というか、この地獄のような空間で、平気な顔して作業に没頭できるツーピーの感性っていったい……。
うん、深くは考えないようにしよう。
きっと命を平等に愛せる素晴らしい精神の持ち主なのだ。
たぶんそういうことである、メイビー。
そうしてその後、ちょっと油虫を材料にするのは嫌だな~なんて思いつつ。
でもツーピーがせっかく一生懸命考えたアイデアなんだから、なんとかモノにしてやりたいという想いから、少しだけ研究の手伝いをしてあげた。
そうして出来上がったのは、スライムのボディに小さくてぷるぷるなゼリーウィングを持つ、なんかよくわからない生き物。
命名するとしたならば、羽スライムといったところだろうか。
「完成したのう。あっぱれじゃ」
「イェーーーーーー!」
羽スライムは創造主であるツーピーの周りをふわふわと飛び交い、油虫を材料にしたとは思えない愛くるしいボディで空中ダンスを踊る。
ボディの生成はツーピーが自力で作り上げたものの、創造主であるツーピーに従うよう設計の段階で魔法を組み込んだのは俺だ。
きっと既にご主人様が誰なのかを理解しているのだろう。
これでツーピーにも気兼ねの無い友達ができたというわけだ。
知能の問題で言葉は喋れないみたいだけど、簡単な意思疎通と感情表現はできる。
設計上は、だけどね。
あとどれくらい能力が向上していくかは、今後の羽スライム君の活躍次第である。
「よかったのう。頑張ったのう。よしよしよし」
「ふぅーーーーっ」
愛情たっぷりナデナデされながら、羽スライムがふわふわと飛ぶのを眺める。
そうするとだんだんツーピーのメンタルも回復してきたのか、放置されスネてしまった表情が柔らかくなってきた。
どうやら俺のことを許してくれる気になったらしい。
「今日は一緒に寝ようかのう。儂もツーピーと離れ離れの時間が長かったからか、寂しいのじゃ」
「仕方のないのじゃロリね~。しょうがないから、今日からわたちが一緒にいてあげる。むふーっ」
うむ、一件落着だな。
今回の教訓は、創造した命には心が宿ることを忘れることなかれ。
……といったところだろうか。
最後に。
研究成果である羽スライム君も、ノジャー親子の和解に対しちょっとだけ嬉しそうな雰囲気だったと、そう付け加えておく。
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