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【一章】ゴールド・ノジャーの人助け編

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「のじゃぁぁあああ!?」

 ロマンあふれる変身バングルを冒険者たちに預けてから半年後。
 無人の大森林の一角に、この俺ことゴールド・ノジャーの絶叫が響き渡る。

 現在、試行錯誤しつつも研究中だった自分用のスペシャル変身バングルの作業を、いったん止めてしまうほどのショック受けたのだからしかたがない。

 なぜショックを受けたのか。
 それはとどのつまり、久しぶりにアカシックレコードで冒険者たちの様子を確認したところ、ものの見事に渡した変身バングルがぶっ壊れていたからに他ならない。

「ば、ばかなっ! しかし、ううむ……。そうか、壊れてしもうたか~。う~ん。残念じゃ」

 理由は既に把握している。
 ようするに、内包していた装備やそれに紐づけていた変身バングルが、俺のエンチャントしていた魔法に耐えきれなかったのだ。

 彼ら冒険者が滅多なことでは死なないように、それはもう強引に大魔力で強化していたのが悪かったのかもしれない。
 バフを盛りに盛って実力を底上げしていたため、バングルに使われていたミスリルとか、宝石とか、そういったのに刻まれていた魔力回路がオーバーフローを起こしてバラバラに砕け散ってしまったようだ。

 やっぱダメだな、アイテムに頼るのは。
 もしアイテムで人助けができるならといろいろ作ってみたはいいが、俺個人が使うならともかく、一般人にそれほど強大な装備を持たせても使いこなせないということが分かった。

「アカシックレコードで未来を演算したときは、そこまで悪い結果にはならないはずだったんじゃがな~? やはり未来の演算予測は、見通す先の未来が先になればなるほど、計算がくるってくるのう」

 未来の演算も万能ではない。
 過去や現在はすでに起こった事象であるから、アカシックレコードさんも絶対に間違えたりはしないのだが、未来演算というのはあくまでもシミュレートの結果でしかないからね。
 いくら高度なシミュレートでも、未来という不確定な事象には半年も耐えきれなかったらしい。

 うん、これからは未来の予測に対し、あんまり過信はしないでおこう。

 まあ、しかし。
 幸いなことに、彼らは既に勇者を見つけたうえ旅の仲間として同行していて、誰一人として致命的な傷を負ったり死んだりしたものはいない。

 その過程で強敵と戦い変身バングルが砕け散っていたとしても、こと人助けという面では十分に役立ってくれたことだろう。

 俺にとっては一生の不覚であり、失敗作とも呼べる魔道具だったとしても、本人たちが救われたのなら最低限の働きをしたとみていい。
 魔道具に詳しく泣くほど感動していた魔法使いエルロンなんかは、神器だと思い込んでたバングルが壊れたときにも号泣していたみたいだけど、まあどんまいである。

 それに、俺だって悔しいけどね。
 ほんとーーーーに、悔しいけどね!

 くっそう。
 やはり人助けするなら、魔法で直接ちょちょいのちょいと救ってやった方が確実でいいなあ。
 これからはそうしよう。

 そうして、ゴールド・ノジャーは道具には頼らない精神を学んだのであった。

「しかしな~。せっかく途中まで作った儂用の変身バングル、もといコスプレアイテムが完成しそうなんじゃし、ここで諦めるというのもな~。はあ……」

 冒険者に試作品として渡してから、苦節半年。
 あーでもない、こーでもないと、様々な角度から検証と実験を繰り返し、チョーカッコイイ魔女っぽい衣装が完成しそうだったのだ。

 それをここで諦めるというのも、なんだか……。
 いや、過去は振り返らないようにしよう。

 俺はもう、失敗から学び成長したのだ。
 素材の強度不足が解決しそうな案はいまのところ浮かばないし、この案件は後回しだ。

「さて。半年ぶりにはなるが、久しぶりにまた人助けに精を出すとしようかのう」

 というより、もともとそっちが不老の魔女としてのメイン活動だったのだ。
 研究にハマってしまい面白かったのはあるが、当初の目的と手段が逆転してしまったら元も子もない。

 気分よく健康に生きるためには、時に研究、時に人助け。
 そういったバランス、生活リズムの塩梅が大事なのである。

 そうこうして散らかった地下の研究施設をお片付けしたのち。
 半年ぶりに外の空気を胸いっぱいに吸って、俺は旅を再開した。

 このログハウスには三年半もお世話になったが、今日からはしばらくお別れだな。
 いろいろと世に出したらヤバイ研究成果とかもあるので、間違っても他者に見つからないよう、忘れずに魔法で隠蔽しておく。

 人に目視できないように光を周囲の森に同化させる幻影を張り巡らせ、なんとなくここから遠ざかりたくなる人除けの結界を重ねて、魔力の痕跡を消したら完璧だ。

 もしここに人が訪れることがあったとしても、認識することすらできないだろう。
 基本人除けの結界というのは、術者が込めた魔力より低い魔力の生物は破ることができないから、事実上この結界を意図して突破することはできなくなったという訳である。

「さ~て、次はどこにいこうかの~。最近活躍しておるレオン坊に会いに、王都マリベスへとんぼ返りするのも面白そうじゃが、まだまだ老いぬ儂の姿に懸念を抱く組織がおるしなぁ」

 地理的にはこの大陸の最南端に無人の大森林。
 そしてそこから出ると南西にマリベスター、南東にサンドハットだ。

 となると、今度はマリベスターと反対の方向であるサンドハット南東方面に向かい、徐々に突き抜けていって東の魔法王国ルーベルスに向かうのがいいだろうか。

 魔法王国はその名の通り魔法の力が権力と深く結びつく、よくあるファンタジー的な王政の国家だ。
 アカシックレコードによると、大陸一の魔法学院があったり、高位貴族にはみなそれぞれ家が代々受け継いできた秘伝の魔法があったりと、それっぽいものが多い。

 ちなみに一般人がこの辺境から徒歩で向かうと数か月はかかるが、身体能力がみそっかすな俺だとどれくらいかかるか見当もつかない。
 というより、意味もなく苦しい旅をしたくはない。

 よって、ここは再び結界型絨毯のお世話になることにしようと思う。

 歩くのは魔法王国ルーベルスに到着してからでもいいだろう。
 きっとそうだ。

「それゆけ、出発じゃぁ~」

 ひとっとびで、びゅーんとな。
 人が豆粒に見えるほどの上空を飛び回り、ぐんぐんと飛行速度をあげる。

 何を勘違いしたのか、道中では時々ワイバーンみたいな竜のなりそこないが喧嘩をしかけてくるが、飛行速度に差がありすぎて途中で諦めるもよう。

 そんじょそこらの野生魔物に負けるほど、俺の魔法力を甘く見てはいけない。
 身体能力とは反比例するようにあらゆる魔法を使いこなし、魔力も無尽蔵。
 ワイバーンとのかけっこなど、実力差がありすぎて勝負にすらならないのであった。

 そうして飛び回ることしばらく。
 まだ一日も経過していないあたりで、ついに目的地であるルーベルスに到着したのであった。

 さて、ここからまた人助けを再開するとしよう。
 まずは、そうだな……。
 アカシックレコードで検索をかけヒットした中に、面白そうな人物はそこそこいるが……。

「うむ。今度は魔法が使えず悩んでいる、貴族の子を助けてやるというのも面白そうじゃな」

 というわけで、方針決定。
 魔法学院に入学間近だというのに、入試の基準を満たすことができないで焦っている大貴族の少年に、この魔法の達人ゴールド・ノジャーがロックオンである。



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