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【一章】ゴールド・ノジャーの人助け編

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「そろそろ、じゃなぁ……」

 無人の大森林を出発すると決めてから数年。
 全く人がいないという条件でアカシックレコードにお墨付きをもらっているこの土地を出るのに、これだけの時間がかかった。

 いや、別にこれは俺の歩みが遅かったわけじゃない。
 単純に、土地がでかすぎるだけなのだ。

 なにせこの星の文明度はよくて中世。
 そしてなにより、文明開化の妨げとなる強大な魔物たちが跋扈する世界である。

 人類の生存圏は地球に比べて極端に狭く、その影響もあって深い森はどこまでも深く広がっていた。

 そういった理由があり、もっとも人口の少ない場所の中心から人類圏に移動するまで、これだけの時間がかかったという訳だ。

 というより、この広大な世界を旅して数年で人類圏まで到達できたのも、ひとえにアカシックレコードの道案内があったからに他ならない。
 本来ならとっくの昔に道に迷っていてもおかしくないはずなのだから。

 ああ、それともう一つ。
 魂の循環が安定するまでの数十年間、俺はこの世界の「魔法」という分野に興味を持ち、アカシックレコードがもたらす情報を師匠として、際限なく最高効率で魔法を極め続けてきたのも、長旅に耐えられたことに影響している。

 さもなくば、非力なロリババアが単身で強大な魔物が跋扈する世界を旅するなど不可能だ。

 しかも魔法を扱う力の根源、「魔力」というエネルギーは魂の力に作用されるらしく、俺とは底なしに相性が良かった。
 なにせ、創造神の手によってこの世界に連れてこられた目的は、世界を魂で満たすことだ。

 無の空間から俺を起点にして連れてこられた魂の力、その合計値は、それはもう膨大なものである。
 そして、その魂の通路となっていた俺自身の魂もまた、一般人とは比べるべくもない強大なものになっていた。

 故に魔力も膨大、ほとんど無尽蔵。
 むしろ溢れ出る魔力を隠蔽することの方が難しいと思えるほどに、覚えている魔法に限って使いたい放題のチートロリババア、ゴールド・ノジャーが爆誕していたのであった。

 とはいえ、弱点がないわけでもない。

 まず一つに、このアカシックレコードという超能力、いや異能というべきだろうか。
 とにかくこの異能は「自分の未来を演算すると極端に計算が狂う」のである。

 なんだそりゃ、と思うかもしれないが、この問題は切実だ。
 なにせ自分がどう動けばいいのか、どの選択肢が最善なのか、その答えを最強の異能にあまり頼ることができないのだから。

 どんなに強大な力を持ち得ようとも、自分の道は自分で決めろと、そういうことなのであろう。
 この世界に転生させた創造神からのメッセージな気がしないでもないね。

 そもそも、アカシックレコードを所持した存在というのは、この世界のことわりから外れている存在なのだ。
 だから他人の未来を演算することでき、変えることができたとしても、自分が行き詰まったらもうそれまで。
 自分の自力でなんとかするしかない。

 まあ、それでこそ人生だ。
 ある意味悪い話でもないね。
 全部が分かってしまったら世界は色あせ、生きることに価値を見出せなくなってしまう。

 そして二つ目の弱点。
 それはアカシックレコードの情報更新が「一日に一回」というところだろう。

 つまり、なんらかの形で何者かの状況が変わったとしても、変わった現実に対応するためには、二十四時間のクールタイムがあるということである。
 なにが不便なのかはもうお察しの通りで、いちいち語ることでもないので省略しよう。

 とどのつまり、この二つの弱点が不老の魔女ゴールド・ノジャー最大の急所というわけである。
 当然、魔力は無尽蔵でも体力は無尽蔵じゃないとか、肉体的には貧弱であるとか、そういうわかりきった弱点はいくらでも存在するので、そちらもノーカンね。

 それは議論するまでもない。

 そんなこんなで、人類圏に足を踏み入れてからしばらく。
 大森林の中央部に比べて、野生の魔物がだいぶ弱く感じられるようになってきた頃。

 人類が日々たくましく魔物と生存圏を奪い合い争っている、このロデオンス中央大陸最南端の国、マリベスター王国の中心都市、王都マリベスまで到達していたのであった。





「シケてるのぉ~~~! なんじゃ、冒険者ギルドにお子様が何の用だ~とか! お嬢ちゃんには十年早い~とか! 儂をなんじゃとおもっちょるんじゃ! カァッ~! やめじゃやめ、冒険者なぞ汗くさいだけじゃ!」

 そうして辿り着いた王都にて、中央大陸で豪遊するための生活費を稼ぐために冒険者になろうとしたところ、こちらの話を聞くまでもなく門前払いをくらってしまっていた。
 あの場で魔力を解放して実力差をわからせてやってもよかったのだが、正直なところ、ただギルドに登録するためだけに手の内を明かしてやるほどの価値を感じない。

 まあ、ある意味彼らの言う通り、こちらは趣味で冒険者になろうとしただけの魔女っ子だ。
 特に生活に困っているわけでもなければ、高ランクの身分証が欲しいわけでもない。

 街に出入りするためには、その辺の行商に高値で売った「大森林素材」で税金は十分払えるし、宿にしたってそう。
 なんの問題も感じなかったのである。
 ま、負け惜しみじゃないぞ、本当のことだ。

「じゃがどうするかのう。冒険者になるのは見切りをつけるとして、人間の街にきてまで食っちゃ寝するのはなにか違う気がするんじゃよなぁ。やりがいを感じぬ……」

 俺は考えた。
 必死になって考えた。

 この有り余るパゥワーをもってして、この人類最南端の国で何を成すべきだろうかと。
 そして、閃いた。

「ほうじゃな……。儂、今日から人助けしよ……」

 そして何を思い至ったのか。
 俺自身、門前払いされた件で意外に混乱していたのかもしれないが、この王都で困っている人をみつけては人助けすることにしたのだ。

 え?
 困っている人を探す方法だって?

 そんなの手っ取り早い、最も簡単な方法があるじゃない。
 つまりだ。
 ここでこの「アカシックレコード」が輝くって話になってくるわけだ。

 そう。
 これは俺の、この世界で出会う様々な人の困難と関わる物語。
 この秘密の力と魔法で、どんな悩みも解決する【ゴールド・ノジャーと秘密の魔法】の、その始まりってわけ。


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