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十五.色気のない女子トーク
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昼休みの教室内は、授業中にも増してガラガラだった。
外へ食べに行く者とコンビニで適当に何か買って来て食べる者とに分かれる。週一の休日にわざわざ手作り弁当を作って来る者はほとんどいない。
そんな少数派に入る玲子は、おかずの玉子焼きの焼き具合を確認して口に運んでいると──、
「で、あの後、どうなったのよ?」
机に向い合せに座って来るや否や、梨奈は早く聞きたーい。とばかりにワクワクと興味津々に身を乗り出す。
「…………」
口をモゴモゴさせて食べることだけに意識を集中している玲子は、「何が?」と意味がよく分からない。
「何がって、あーた、正剛にお姫様抱っこで山頂を下りてったかと思えば、学校に到着しても、あんたら三人の姿が見えなかったんだもん。気になるでしょーが」
それよりも玲子は、きゅうりのからし漬けをポリポリかじりながら出来具合いを気にして、梨奈に一つ味見してもらう。
「んー、からし漬け普段食べないからよく分かんないけど、ウマいわよ。こんなもんじゃない? って、タッパーに漬物詰めて学校に持って来んのはあんたくらいよ? どっかのおばあちゃんじゃあるまいし、っとに色気ないわねー」
「悪かったね。地井さんがからし漬けにハマッてて、食べてみたいって言うから、作って持って来たの。ねぇ、地井さん、どこ? 見当たんない」
「さっき駐車場でいたわよ。どっか食べにでも行ったんじゃない? 地井さんは玲子のお手製が食べたいだけよ。どうせならそれ、クドちゃんにもあげなさいよ。って、あの後の続きよっ、続き!」
玲子は実に面倒臭い顔で渋り、
「別に、工藤に家まで送ってもらっただけだよ」
「え、マジ? ウソ。正剛は?」
「正剛さ、あそこの総合病院におじいちゃんが入院してるんだって。何の病気かは聞いてないんだけど。それでおじいちゃんがね、テレビドラマ見たいって言うから、わざわざ病院までテレビカード買いに行ってあげて──」
「ストップ!」
と、梨奈が手で制止をかける。
「正剛のおじいちゃんの話は後で聞くわ。つまり、あんたはクドちゃんと二人っきりで……うそ、ヤダ、あいつ……信じらんない!」
なんて、一ミリも思っていないのが分かる大仰なリアクションを取る。梨奈の年齢にもなるとこれくらいでは動じない。だが、
「スキのないあいつも、いよいよ本性を出し始めたな」
クスクスと愉快に肩を揺らす。
またしても何がそんなに楽しいのか理解不能の玲子は、俵型のおにぎりにかぶりつこうとするも、梨奈がそれを許さない。
「それで? ドライブデートの感想は? あいつ何の車に乗ってんの?」
「別に寝て起きたら家に着いてた。黒の乗用車じゃない? 車種とか私分かんないから。あ、黒じゃなくて白だったかなぁ?」
「黒か白かも覚えてないなんて、どんなけ寝ボケてんのよっ!」
バンッ! と、絶妙な間合いで机を叩き、「でも安心して寝てられる運転かどうかってポイントは大事よ」とアドバイスを教える──授業中に椅子に座ったままでも眠れる玲子には役に立たないが。
「もー工藤はどうでもいいよ。それより梨奈は正剛のこと知ってるの?」
両手を揃えてごちそうさまをしたした玲子が話を切り替える。「どうでもいいってか」と、梨奈が嘆くよう呟いたのち、
「あの子ねぇ、前に地井さんと一緒にいたとき、玲子の話がチラッと出たからかな、何か急に横から話し割ってきてさ、神社の名前を確認してきたわ。なに? なんか相談でも受けてんの?」
たまに神社の行事についてや、霊的な類の相談も受ける事が玲子だ。後者の事が多いが、神社は悪霊退治が専門な訳ではないので、正直困るのだった。
「ううん。先週、初めて見知ったばっか」
「え、じゃあなに? あんたのファン? ストーカー? それともスピリチュアル系な男子?」
「どれも違うよ」
霊能力の持ち主という事は、本人の承諾なしには話すのを玲子は避けた。が、スピリチュアルという言葉は曖昧だった。
「いーや、分からないわ。新学期早々、一目惚れされたのかもよー?」
どことなく表現に古臭さを感じつつ、女子トークに疲れてきた玲子は溜息をつく。
玲子は自覚をしていないが、黙ってさえいれば間違いなく超のつく美人だ。梨奈は冗談にからかったつもりだったが、あり得ないことはない。そうともなれば──梨奈の頭の中で〝三角関係〟という楽しいキーワードが浮かび上がる。
梨奈が一人で妄想を掻き立てていると、
「一年だっけ? 正剛にお礼言わなきゃ。これ、あげよっかな。地井さんにはまた今度でいいや」
「……!」
十代の少年がおそらく好みそうにない漬物を何のためらいもなく平気で渡すつもりでいる玲子だ。
少年よ、理想とギャップは激しいぞ! と、梨奈は心でエールを送ったのだった。
外へ食べに行く者とコンビニで適当に何か買って来て食べる者とに分かれる。週一の休日にわざわざ手作り弁当を作って来る者はほとんどいない。
そんな少数派に入る玲子は、おかずの玉子焼きの焼き具合を確認して口に運んでいると──、
「で、あの後、どうなったのよ?」
机に向い合せに座って来るや否や、梨奈は早く聞きたーい。とばかりにワクワクと興味津々に身を乗り出す。
「…………」
口をモゴモゴさせて食べることだけに意識を集中している玲子は、「何が?」と意味がよく分からない。
「何がって、あーた、正剛にお姫様抱っこで山頂を下りてったかと思えば、学校に到着しても、あんたら三人の姿が見えなかったんだもん。気になるでしょーが」
それよりも玲子は、きゅうりのからし漬けをポリポリかじりながら出来具合いを気にして、梨奈に一つ味見してもらう。
「んー、からし漬け普段食べないからよく分かんないけど、ウマいわよ。こんなもんじゃない? って、タッパーに漬物詰めて学校に持って来んのはあんたくらいよ? どっかのおばあちゃんじゃあるまいし、っとに色気ないわねー」
「悪かったね。地井さんがからし漬けにハマッてて、食べてみたいって言うから、作って持って来たの。ねぇ、地井さん、どこ? 見当たんない」
「さっき駐車場でいたわよ。どっか食べにでも行ったんじゃない? 地井さんは玲子のお手製が食べたいだけよ。どうせならそれ、クドちゃんにもあげなさいよ。って、あの後の続きよっ、続き!」
玲子は実に面倒臭い顔で渋り、
「別に、工藤に家まで送ってもらっただけだよ」
「え、マジ? ウソ。正剛は?」
「正剛さ、あそこの総合病院におじいちゃんが入院してるんだって。何の病気かは聞いてないんだけど。それでおじいちゃんがね、テレビドラマ見たいって言うから、わざわざ病院までテレビカード買いに行ってあげて──」
「ストップ!」
と、梨奈が手で制止をかける。
「正剛のおじいちゃんの話は後で聞くわ。つまり、あんたはクドちゃんと二人っきりで……うそ、ヤダ、あいつ……信じらんない!」
なんて、一ミリも思っていないのが分かる大仰なリアクションを取る。梨奈の年齢にもなるとこれくらいでは動じない。だが、
「スキのないあいつも、いよいよ本性を出し始めたな」
クスクスと愉快に肩を揺らす。
またしても何がそんなに楽しいのか理解不能の玲子は、俵型のおにぎりにかぶりつこうとするも、梨奈がそれを許さない。
「それで? ドライブデートの感想は? あいつ何の車に乗ってんの?」
「別に寝て起きたら家に着いてた。黒の乗用車じゃない? 車種とか私分かんないから。あ、黒じゃなくて白だったかなぁ?」
「黒か白かも覚えてないなんて、どんなけ寝ボケてんのよっ!」
バンッ! と、絶妙な間合いで机を叩き、「でも安心して寝てられる運転かどうかってポイントは大事よ」とアドバイスを教える──授業中に椅子に座ったままでも眠れる玲子には役に立たないが。
「もー工藤はどうでもいいよ。それより梨奈は正剛のこと知ってるの?」
両手を揃えてごちそうさまをしたした玲子が話を切り替える。「どうでもいいってか」と、梨奈が嘆くよう呟いたのち、
「あの子ねぇ、前に地井さんと一緒にいたとき、玲子の話がチラッと出たからかな、何か急に横から話し割ってきてさ、神社の名前を確認してきたわ。なに? なんか相談でも受けてんの?」
たまに神社の行事についてや、霊的な類の相談も受ける事が玲子だ。後者の事が多いが、神社は悪霊退治が専門な訳ではないので、正直困るのだった。
「ううん。先週、初めて見知ったばっか」
「え、じゃあなに? あんたのファン? ストーカー? それともスピリチュアル系な男子?」
「どれも違うよ」
霊能力の持ち主という事は、本人の承諾なしには話すのを玲子は避けた。が、スピリチュアルという言葉は曖昧だった。
「いーや、分からないわ。新学期早々、一目惚れされたのかもよー?」
どことなく表現に古臭さを感じつつ、女子トークに疲れてきた玲子は溜息をつく。
玲子は自覚をしていないが、黙ってさえいれば間違いなく超のつく美人だ。梨奈は冗談にからかったつもりだったが、あり得ないことはない。そうともなれば──梨奈の頭の中で〝三角関係〟という楽しいキーワードが浮かび上がる。
梨奈が一人で妄想を掻き立てていると、
「一年だっけ? 正剛にお礼言わなきゃ。これ、あげよっかな。地井さんにはまた今度でいいや」
「……!」
十代の少年がおそらく好みそうにない漬物を何のためらいもなく平気で渡すつもりでいる玲子だ。
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