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十一.中二病だろ
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いきなり雄叫びを上げた玲子にビクッと工藤が肩を飛び跳ねらせる。
「な、なに?」
天守閣を背後にマッチングしている女霊は、全身からドロドロとしたどす黒い怨念と私恨の入り交じった霊気を立ち昇らせている。もはや、目の前の相手が敵か味方かさえも判断できないくらいに狂ってしまっている状態だ。
玲子は生気を吸い取られるように奪われ倒れてしまっている。
「里見、大丈夫かっ?」
例によって、全く平気な様子の工藤はズボンのポケットから携帯電話を取り出して他の教員に連絡を取ろうとする。が、その間に霊女から放たれた霊気がこちらに向かい襲いかかる。
何かを察知してハッと顔を上げた工藤──体から白い何かの物体が浮かび上がった。
「ゆいこ──?」
工藤が誰かの名を口にしたのを、遠ざかる意識の中で玲子は聞く。真っ暗にぼやけていく視界の中、一体何が起こっているのか、玲子には何も見えず分からない。
霊女と謎の白い物体が真っ向っから衝突しようとした時──、
──臨・兵・斗・者
知らない誰かの声が響く。
──皆・陣・烈・在・前!
唱えて手刀で力強く切り下ろされると、霊気が閃光を放って飛散した。女霊は苦悶して悲鳴を高く上げ、体が散り散りに裂けていく。が、命からがら逃げ去り消えていった。
ほんの一瞬の出来事だった。
「……おまえ、正剛?」
そこに、勇ましく仁王立ちしている男性生徒の名を工藤は呼んだ。
「はい、そうです。大丈夫ですか?」
「俺はな。って、ここで何してんだ? もう集合時間だぞ」
「この人は、里見玲子さんですか?」
「え、あぁ。このお方は里見玲子様じゃ」
冗談を口にする工藤の腕の中で、玲子はぐったりとして、うーん。と、唸って伸びていた。
工藤の冗談は正剛には全くウケず、
「貧血を起こしてる感じですね?」
「あぁ、この暑さの中、熱中症じゃくてな。とりあえず下に連れてく。ちょい待てよ、他の先生方に連絡入れっから」
工藤が再び携帯電話を耳に当てたところへ、天守閣の向こう側からやって来たのは、梨奈と体育教諭だった。
「玲子見ぃーっけ! って、ほら、やっぱ伸びてんじゃーん」
梨奈が呆れて心配をしつつも、どこか楽しそうに笑っている。
「工藤先生、もう全員集合してますよ。どこ行ったかと思えば……あらら、里見さん。相変わらず今日も大変ねぇ」
こいつはいつもこうなのか? と、工藤は軽く汗を流す。
「すいません。今、連絡しようとしてたところです。里見はですね、取りあえず下まで運びますので、それで……」
「玲子ちゃん!」
そこへ、どこからともなく現れた地井が工藤の連絡事項を遮り、
「よっしゃあ! オッチャンが下までおぶってっちゃるけん、任せとき!」
気合いを入れたものの、すかさず工藤と体育教諭に「行事に戻って下さい」と取り押さえられる。
「ほら、正剛も戻れ」
と、振り向けばヒョイッと玲子を軽々しく抱き上げた正剛だ。
え? と、フリーズしたのは工藤。プッ。と吹き出しそうになる梨奈。ガーンとなったのは地井。体育教諭は花丸印を押した。
「授業、早退しますんで。俺が運びます」
「ちょっ、ちょい待てッ! あっ、後の事お願いします!」
玲子をお姫様抱っこしたまま降りて行く正剛を工藤が慌てて後を追う、「じゃあ、これ持って行って下さい」と体育教諭から救急箱の他に色々入った重いリュックを押し付けられて。
「な、なに?」
天守閣を背後にマッチングしている女霊は、全身からドロドロとしたどす黒い怨念と私恨の入り交じった霊気を立ち昇らせている。もはや、目の前の相手が敵か味方かさえも判断できないくらいに狂ってしまっている状態だ。
玲子は生気を吸い取られるように奪われ倒れてしまっている。
「里見、大丈夫かっ?」
例によって、全く平気な様子の工藤はズボンのポケットから携帯電話を取り出して他の教員に連絡を取ろうとする。が、その間に霊女から放たれた霊気がこちらに向かい襲いかかる。
何かを察知してハッと顔を上げた工藤──体から白い何かの物体が浮かび上がった。
「ゆいこ──?」
工藤が誰かの名を口にしたのを、遠ざかる意識の中で玲子は聞く。真っ暗にぼやけていく視界の中、一体何が起こっているのか、玲子には何も見えず分からない。
霊女と謎の白い物体が真っ向っから衝突しようとした時──、
──臨・兵・斗・者
知らない誰かの声が響く。
──皆・陣・烈・在・前!
唱えて手刀で力強く切り下ろされると、霊気が閃光を放って飛散した。女霊は苦悶して悲鳴を高く上げ、体が散り散りに裂けていく。が、命からがら逃げ去り消えていった。
ほんの一瞬の出来事だった。
「……おまえ、正剛?」
そこに、勇ましく仁王立ちしている男性生徒の名を工藤は呼んだ。
「はい、そうです。大丈夫ですか?」
「俺はな。って、ここで何してんだ? もう集合時間だぞ」
「この人は、里見玲子さんですか?」
「え、あぁ。このお方は里見玲子様じゃ」
冗談を口にする工藤の腕の中で、玲子はぐったりとして、うーん。と、唸って伸びていた。
工藤の冗談は正剛には全くウケず、
「貧血を起こしてる感じですね?」
「あぁ、この暑さの中、熱中症じゃくてな。とりあえず下に連れてく。ちょい待てよ、他の先生方に連絡入れっから」
工藤が再び携帯電話を耳に当てたところへ、天守閣の向こう側からやって来たのは、梨奈と体育教諭だった。
「玲子見ぃーっけ! って、ほら、やっぱ伸びてんじゃーん」
梨奈が呆れて心配をしつつも、どこか楽しそうに笑っている。
「工藤先生、もう全員集合してますよ。どこ行ったかと思えば……あらら、里見さん。相変わらず今日も大変ねぇ」
こいつはいつもこうなのか? と、工藤は軽く汗を流す。
「すいません。今、連絡しようとしてたところです。里見はですね、取りあえず下まで運びますので、それで……」
「玲子ちゃん!」
そこへ、どこからともなく現れた地井が工藤の連絡事項を遮り、
「よっしゃあ! オッチャンが下までおぶってっちゃるけん、任せとき!」
気合いを入れたものの、すかさず工藤と体育教諭に「行事に戻って下さい」と取り押さえられる。
「ほら、正剛も戻れ」
と、振り向けばヒョイッと玲子を軽々しく抱き上げた正剛だ。
え? と、フリーズしたのは工藤。プッ。と吹き出しそうになる梨奈。ガーンとなったのは地井。体育教諭は花丸印を押した。
「授業、早退しますんで。俺が運びます」
「ちょっ、ちょい待てッ! あっ、後の事お願いします!」
玲子をお姫様抱っこしたまま降りて行く正剛を工藤が慌てて後を追う、「じゃあ、これ持って行って下さい」と体育教諭から救急箱の他に色々入った重いリュックを押し付けられて。
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