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21.大都会

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「やっぱりこっちは活気がすごいね」
「人口がもう全然違うからね」


 レイクビューの部屋でのお泊まりから五日後。
 莉緒はロンドンの街にいた。


 歴史的な建築物に目を奪われていると、次には近代的な高層ビルが顔を覗かせる。目まぐるしく変わる景色に、レオンの運転する車の助手席で莉緒の目はあちこちに忙しなく動いていた。


 入国時ヒースロー空港から一度ロンドンへ出て湖水地方を目指したのだが、あの時はゆっくり街並みを見ている時間がなかったのだ。
今は少し気持ちも体調も落ち着いているから、沢山の人が行き交う華やかな都市の雰囲気にも心を向ける余裕がある。
 けれどあの時は早く静かなところへ行きたかった。
 私は静かなところへ行く、静かなところでゆっくり過ごせば、きっと色んなことが回復方向に向かうはずなのだから、とそれをひたすらに信じて、湖水地方へ向かう列車にすぐさま飛び乗った。


「ごめんね、こっちの事情で」
「なんで」
 謝られてびっくりする。
「私の方こそずっとちゃっかりお世話になってて、しかもここまで着いて来たりして」


 実はそろそろ戻らないといけないんだ、と切り出されて莉緒は初めてハッとしたのだ。
 すっかり頭から抜け落ちていた。
 けれどそうだ。莉緒と違って彼は働いている。たまたま今までがホリデーだっただけ。
 彼の休みは有限で、三週間だったらしいその期間はもう終わりに差し掛かっていたのだ。
 仕事が始まるからロンドンに帰らなくてはならないと切り出したレオンは、莉緒に言った。


“ここ、リオになら貸してもいいよ”

 と。


“でも僕としては、一緒にロンドンまで来てくれた方が嬉しい。恋人と離れ離れは耐え難い”


 そう続けられて、甘えすぎではという気持ちを一抹抱えつつも、彼の望むようにしたいと莉緒は湖水地方を後にすることを決めた。それに恋人と一緒にいたいという気持ちは莉緒としても同じだ。


「リオ、向こうでも言ったけど僕が来てほしくてお願いしたんだし、そもそもリオだって僕の都合に合わせて本来の予定とは全然違うスケジュールになってるでしょ」
「私のは元々あってないようなものだったし」
「でも本当はもっと静かなところでゆっくりするつもりだった」
「えっと、でもレオンのおかげでかなり健康的になったので」
 二人のやりとりが押し問答のようになってくる。
 信号で車が止まったところで、苦笑しながらレオンは莉緒の方を見た。
「お互い同じようなことで悪いなぁと思ってるんだよ。だから僕もリオもこれ以上は気にするのやめようよ」
「……うん」
 確かに不毛なやり取りだ。せっかく一緒に過ごすことを決めたのだから、申し訳なく思うより、いかに楽しく過ごすかこれから先のことに目を向けた方がずっといい。
「こっちは都会だからごちゃごちゃしてるし人も多いけど。でもその分見て回れるところも沢山あるし、ゆっくり過ごせるスポットもあるし。別に観光は義務じゃないから、ウチでのんびりしてくれててもそれもいい」


 どこか行きたいところはある? と訊かれたので、莉緒は頭の中にあるロンドン知識をぐるぐると巡ってみた。が、そうは急にここ! という場所が思いつかない。


「そうだなぁ、まずは近所のスーパーの場所が知りたいです」
 なのでまずは生活に必要な場所をと思って言うと、その答えを聞いたレオンはおかしそうに笑った。
「了解、案内する」
 信号が変わって、音もなくまた車が滑り出す。


 二人で行くスーパーが、生活を共にしてるんだなぁという実感を与えてくれるのが莉緒はとても好きなのだ。レオンには伝わっていないようだけど。




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