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アレがある!ワタクシが欲していた例のアレが目の前にあるのだ。スマホは壊れたと思っていたけど、反映するのに時間がかかっただけみたいね。後はアレを黒竜の女に食べさせることができたならっ……!!
フェリシエンヌをそそのかすための算段をつけていたが、その前に黒竜の女がアレに手を伸ばしている。
自らソレを食べるなんて馬鹿な女。やっぱり竜なんてただの獣で頭の悪い生き物でしかないのよ。さぁ、早くソレを口にして地獄に落ちるがいい!!
「妖様、美味しそうですからおひとつどうぞ」
「うむ、ありがとう。やはり美味じゃな。アーデルハイドにも」
「はわわ! 妖様からそのような! い、いただきますわ」
目の前で邪魔な存在が消える瞬間をワクワクしながら見ていたのに、先にあの方に食べさせて更に自分も食べさせてもらうだなんて!!……って、違う!そうじゃないわよ!!あの方までソレを口にしてしまっているじゃない!!
「な、なにやってんよアンタ!!」
会場内に響き渡った声に流れていた音楽も楽しそうに話していた声も消え、凍り付いて時間が止まってしまったかのように静まり返った。声の主はコラリー・ロジエで息を荒げ鬼のような形相でこちらを、いやアーデルハイドの事を睨みつけている。
「アンタねソレが何かわかってるの!? アンタがソレを食べてどうなろうが知ったこっちゃないけど、よりによってモフモフ様にっ!!」
「あなたは何を言っておりますの? これは……」
「ソレを食べれば竜だって死ぬのよ! そんな物を食べさせるなんて馬鹿じゃないの! 馬鹿がっ、馬鹿な害獣が! おまえなんて死んでしまえばいいのよ……ほら早く! 食べたんだから早く、ほら早くっ!!」
アーデルハイドの言葉を遮ってまくしたてるように喋っているその姿にため息が出る。おそらくコラリー・ロジエは俺達が食べたアレが何であるのかを知っていてそのように言っているのだろうが、こやつが望むような事が起きる事はない。起きるはずなどはないのだ。
「竜殺しの実……であったか?」
俺が告げたアレの名称にハッとしてこちらに顔を向けて「身体に異変はないか」や「今すぐお助けします」やらと言いながらこちらに近づいて来ようとするのを、これ以上は近づくなと手を向けて止める。アーデルハイドに向けていたあの鬼のような形相はなりをひそめ、俺の事は本気で心配しているようだがそんなものはいらない。
「おぬし、なぜそのような名がついたのか知っておるか?」
「そんなの、食べた竜が即死したからですよね。だからそんな物を食べさせるその害獣は……」
「違う。その赤く丸い実を食べた竜があまりの美味しさに気絶してしまった事からついた名じゃ。もちろん、その竜は死んでおらんぞ」
「えぇ、そうですわ。それにこれは竜の大好物なのです。ヴァルドゥングの森の奥深くに入らねば手に入らぬ物ですから、一般にも出回っておりませんの」
名前だけが広まってしまったのだろうな。ちなみにこの実は俺がこの世界で初めて食べたあの実だ。アーデルハイドがその手で初めて俺に差し出した実であるこれは、今では俺の好物にもなっている。
「じゃ、じゃあソレを食べてもソイツは……」
「死ぬわけないじゃろう。だいたいにそんな危険な食べ物だったならこのような場所に出てくるわけがない。そんな事は考えてみればわかるだろうに」
ここにはシャルルやアン殿もいるのだから、危険物が紛れ込まないように厳重なチェックをされている。そんな事にすら考えが及ばない程にアーデルハイドを排除する事だけしか頭になかったのだろうな。こうやって冷静に伝えているが内心は腸が煮えくり返りそうなほど怒りがわいているのを殺気がもれ出ぬようにしているだけだ。
「わ、ワタクシは……」
コラリー・ロジエは一歩一歩後ろに下がってこの場からどうにか脱しようとしたのか視線をあちこちに向けているが、この場の違和感を覚えたのか足を止めて周りの様子をじっくりと見ている。
「何これ、何これ、なにこれっ!?」
「あぁ、やっと気づいたか」
「何で! 何で誰も動かないの? どうなってるのよ、何なのよっ!?」
ようやく今の状況を把握したのかこやつが頭を抱えて叫んでいるように、この場は時間が止まってしまったかのよう誰も動かない。食事中の者達も談笑中の者達も急に止められたかのようにそのままの動きで止まっているのだ。それは一部を除いてだが。
俺がパチリと指を鳴らせば会場内はゆっくりと霧のように消えていき、煌びやかに飾られていたはずの会場に残ったのは小さなテーブルの上に乗った食事が少々と、限られた人物だけだった。コラリー・ロジエは先程まで立っていたパーティー会場が消えてしまったこの現象に驚いてか震えながら座り込んでいる。
「何これ……パーティーは? だって今日はオータムパーティーのはずじゃあ……」
「そもそも、この学園にオータムパーティーなどという行事は無いんだよ」
シャルルが気の毒そうに伝えたが理解できていないのか未だに辺りをキョロキョロと見渡して現実を受け止める事を拒否しているようだ。
そんな事をしたとて今起きている現実は変わらないのだが、そう言ったとてこやつが理解して納得するのかはわからんがな。
それでも話を進めるために種明かしはしなくてはならない。コラリー・ロジエの考える計画が少しずつ形になってきた頃に、この偽のオータムパーティーを開く事を決めたのはシャルルとアン殿だった。どうにか手に入れようと必死になっていた例の実であるアレも実際に用意したのはアーデルハイドであるが、コラリー・ロジエが望むような物語はこの現実には起きない。問題児令嬢と呼んでいたあの娘も現実を見て生きる事に決めたのだから、そろそろその辺りをこやつにも理解してもらいたいものだ。
フェリシエンヌをそそのかすための算段をつけていたが、その前に黒竜の女がアレに手を伸ばしている。
自らソレを食べるなんて馬鹿な女。やっぱり竜なんてただの獣で頭の悪い生き物でしかないのよ。さぁ、早くソレを口にして地獄に落ちるがいい!!
「妖様、美味しそうですからおひとつどうぞ」
「うむ、ありがとう。やはり美味じゃな。アーデルハイドにも」
「はわわ! 妖様からそのような! い、いただきますわ」
目の前で邪魔な存在が消える瞬間をワクワクしながら見ていたのに、先にあの方に食べさせて更に自分も食べさせてもらうだなんて!!……って、違う!そうじゃないわよ!!あの方までソレを口にしてしまっているじゃない!!
「な、なにやってんよアンタ!!」
会場内に響き渡った声に流れていた音楽も楽しそうに話していた声も消え、凍り付いて時間が止まってしまったかのように静まり返った。声の主はコラリー・ロジエで息を荒げ鬼のような形相でこちらを、いやアーデルハイドの事を睨みつけている。
「アンタねソレが何かわかってるの!? アンタがソレを食べてどうなろうが知ったこっちゃないけど、よりによってモフモフ様にっ!!」
「あなたは何を言っておりますの? これは……」
「ソレを食べれば竜だって死ぬのよ! そんな物を食べさせるなんて馬鹿じゃないの! 馬鹿がっ、馬鹿な害獣が! おまえなんて死んでしまえばいいのよ……ほら早く! 食べたんだから早く、ほら早くっ!!」
アーデルハイドの言葉を遮ってまくしたてるように喋っているその姿にため息が出る。おそらくコラリー・ロジエは俺達が食べたアレが何であるのかを知っていてそのように言っているのだろうが、こやつが望むような事が起きる事はない。起きるはずなどはないのだ。
「竜殺しの実……であったか?」
俺が告げたアレの名称にハッとしてこちらに顔を向けて「身体に異変はないか」や「今すぐお助けします」やらと言いながらこちらに近づいて来ようとするのを、これ以上は近づくなと手を向けて止める。アーデルハイドに向けていたあの鬼のような形相はなりをひそめ、俺の事は本気で心配しているようだがそんなものはいらない。
「おぬし、なぜそのような名がついたのか知っておるか?」
「そんなの、食べた竜が即死したからですよね。だからそんな物を食べさせるその害獣は……」
「違う。その赤く丸い実を食べた竜があまりの美味しさに気絶してしまった事からついた名じゃ。もちろん、その竜は死んでおらんぞ」
「えぇ、そうですわ。それにこれは竜の大好物なのです。ヴァルドゥングの森の奥深くに入らねば手に入らぬ物ですから、一般にも出回っておりませんの」
名前だけが広まってしまったのだろうな。ちなみにこの実は俺がこの世界で初めて食べたあの実だ。アーデルハイドがその手で初めて俺に差し出した実であるこれは、今では俺の好物にもなっている。
「じゃ、じゃあソレを食べてもソイツは……」
「死ぬわけないじゃろう。だいたいにそんな危険な食べ物だったならこのような場所に出てくるわけがない。そんな事は考えてみればわかるだろうに」
ここにはシャルルやアン殿もいるのだから、危険物が紛れ込まないように厳重なチェックをされている。そんな事にすら考えが及ばない程にアーデルハイドを排除する事だけしか頭になかったのだろうな。こうやって冷静に伝えているが内心は腸が煮えくり返りそうなほど怒りがわいているのを殺気がもれ出ぬようにしているだけだ。
「わ、ワタクシは……」
コラリー・ロジエは一歩一歩後ろに下がってこの場からどうにか脱しようとしたのか視線をあちこちに向けているが、この場の違和感を覚えたのか足を止めて周りの様子をじっくりと見ている。
「何これ、何これ、なにこれっ!?」
「あぁ、やっと気づいたか」
「何で! 何で誰も動かないの? どうなってるのよ、何なのよっ!?」
ようやく今の状況を把握したのかこやつが頭を抱えて叫んでいるように、この場は時間が止まってしまったかのよう誰も動かない。食事中の者達も談笑中の者達も急に止められたかのようにそのままの動きで止まっているのだ。それは一部を除いてだが。
俺がパチリと指を鳴らせば会場内はゆっくりと霧のように消えていき、煌びやかに飾られていたはずの会場に残ったのは小さなテーブルの上に乗った食事が少々と、限られた人物だけだった。コラリー・ロジエは先程まで立っていたパーティー会場が消えてしまったこの現象に驚いてか震えながら座り込んでいる。
「何これ……パーティーは? だって今日はオータムパーティーのはずじゃあ……」
「そもそも、この学園にオータムパーティーなどという行事は無いんだよ」
シャルルが気の毒そうに伝えたが理解できていないのか未だに辺りをキョロキョロと見渡して現実を受け止める事を拒否しているようだ。
そんな事をしたとて今起きている現実は変わらないのだが、そう言ったとてこやつが理解して納得するのかはわからんがな。
それでも話を進めるために種明かしはしなくてはならない。コラリー・ロジエの考える計画が少しずつ形になってきた頃に、この偽のオータムパーティーを開く事を決めたのはシャルルとアン殿だった。どうにか手に入れようと必死になっていた例の実であるアレも実際に用意したのはアーデルハイドであるが、コラリー・ロジエが望むような物語はこの現実には起きない。問題児令嬢と呼んでいたあの娘も現実を見て生きる事に決めたのだから、そろそろその辺りをこやつにも理解してもらいたいものだ。
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