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 ラッテが調べてくる情報は常に長殿やベルナール殿達にも報告をして共有している。気になっていた乙女ゲームについては長殿が『竜の国』で聞いた事があるそうだ。

「私のように別の世界に派遣されている竜がその世界で聞いたそうです。なんでも主人公が色々な選択をする事で未来が変わる物語だとか。攻略キャラとはその選択によって仲良くなったり恋人になったりする異性のようですね」
「俺がそれだというのか? しかもあの問題児令嬢の話が本当ならば前世で俺に短刀を向けてきたあやつではないか……」

 よく覚えてはいないがバオジイが言っていたあの雌妖怪だと思われる。呪いの類は感じ取れなかったが縁結びの短刀とはなかなかにやばい刀であったようだ。

「そもそも世界とは常に生まれ、そして消えていく事もあります。妖殿のいた前世の世界は消えてしまったようですが、今もまたどこかで新たな世界が生まれているでしょう。そして世界同士は常にどこかで干渉しあっています」
「干渉しあって、あの問題児令嬢がいた元の世界では俺達がいた世界が物語や遊戯のような物になっていたりしたのか」
「そのような事が起こるなどとは不思議なものですね。もしかしたらこの世界にある空想の物語もどこか別の世界の現実で起こった事なのかもしれないと……」

 ベルナール殿も納得したように頷いている。それでも似たような物語であっても現実とは違う事のほうが多そうだ。あの問題児令嬢が想定しているストーリーとは異なっているようだし、何よりあの問題児令嬢そのものが無理矢理主人公になろうとしているのだから、その乙女ゲームとやらからはかなり離れてしまっているであろう。

「今のところは何とか接点を作ろうと近づいてこようとしているだけで問題は起きていない。もうすぐシャルルが十八歳を迎えるのだから、今は無事にその日が訪れるようにするのが先決じゃな」



 シャルルが無事に十八歳を迎え、あのバンシーはほぼ諦めていた様子だったとはいえ最後まで気は抜けない。俺達はシャルルのまわりを皆で囲い、その時が来るのを待っていたのだ。

「はぁ……ほんとうに十八歳まで生き残るとは。わたしの負けだわ。まぁ、気に入っていたのはあの頃のあなただから。今のあなたは生命力にあふれていて見た目も細マッチョでタイプじゃないの。わたしのタイプはモヤシみたいな貧弱な少年……うふふふ」
「お、おう。まぁ、おぬしもよく十年間も待っておったな」
「とちゅうでほとんどあきらめていたわ」

 その様子は時々目撃されていたから知っていたが、それでも十年間も付きまとっていたのだからもはや意地でもあったのかもしれない。

「王子さまには迷惑をかけたわ。ごめんなさいね」
「いや、少なくともあの時の僕は話を聞いてくれたアデールには感謝していたんだ」
「そう。迷惑をかけたお詫びではないけどひとつ教えてあげる。敵はひとりではないわよ。むしろあっちのほうがやばそう……じゃあね、王子さま。長生きしなさいね」

 何やら俺のほうを見て意味深な言葉を残して満足そうな顔をしてバンシーはスーッと消えていった。

「最後にとんでもない事を言い残して行きおったな」
「敵はあの問題児令嬢の事ですわよね。もっとやばいとは別の誰かがシャルル殿下を狙っているのかしら? それとも……」

 アーデルハイドが不安そうに俺の服をキュっと握る。バンシーが俺を見て言い残して行ったのが気になっているのだろう。

「大丈夫じゃ。シャルル達を守るのはこれからも変わらぬ。そして俺もそう簡単にはやられぬぞ」
「そうですね。妖様に何かしようとするのならこのアーデルハイドがただでは済ませませんわ!」
「ははは。俺の番殿は昔から頼もしいのう」
「つ、つつ番として当然ですわぁ!」

 いつものように「はわわ」と照れ始めたので調子が戻って来たみたいで良かった。大丈夫。俺には支えてくれる仲間も友も、そして愛しい番殿がいるのだ。誰が相手であろうが絶対に負けたりなどしない。





「……今回も上手くいかないなぁ」

 前回の世界でも何度試しても上手くいかなかった。物語を乱す不届き者達が次々に現れて、どんどん壊れていくワタクシの大切な物語。最後には諦めて鬱憤を晴らすのも兼ねてあの目障りな女をそそのかしてやった。

「結局は全部消しちゃったからもうあの物語は存在しないんだよね」

 少し残念だったが誰かにぐちゃぐちゃにされるくらいなら消してしまったほうがいい。ワタクシの中にだけ生き続けるのだから、あれで良かったのだ。
 今度の世界は絶対に守ろうと思ったのに、そもそもこの世界自体がおかしい。ワタクシの物語のはずなのに登場人物の名前を被った別人達であふれているのだ。

「主人公キャラに転生したけど、主人公だと気づけたのが学園入学前だなんて……」

 やっぱり物語が始まる直前にならないと記憶が戻らないようになってるの?前回も主人公に転生したが気づくのが遅かったせいですでに改悪されていた物語を元に戻すのに苦労したのだ。結局は戻せなくて消す事にしたのだから、この物語だけは守らないと!

「ボタンひとつで消しちゃえるなんて簡単だけど、これは最後の手段」

 手の中にある長方形の薄い板のような物、そうこのスマホひとつあればなんだってできるのだ。要らないキャラクターを消す事も物語そのものを書き換える事も、そして消去する事だってできる。だってワタクシは――。

「ここはワタクシの物語の世界……」

 それでも消してしまうのは悲しいから、今度は絶対に成功させよう。

 怪しく笑うその姿を小さな鼠がじっと見てからどこかへ向かって行った事に、その人物は最後まで気づく事はなかった。

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