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それからも二人の関係は特に変わらない。特訓は続けられるし、食事やブラッシングなどの世話は今もされている。フロッシュと特訓するのにも慣れてきて、あちらも徐々に俺に合わせるように難易度を上げてくる。ようやく特訓中に襲って来る虫を倒せるくらいになった時、次の段階に進む事になった。
「明日からはステップアップですわ。よって今日は特訓もお休みにしてピクニックに行こうと思いますの!」
ジャーンと言いながら何やら大きな籠を見せている。香ってくるにおいで食べ物だとわかるが、それを持ってピクニックとやら行くのだろうか。
「森の丘に綺麗なお花畑がありますの。そこでピクニック……でで、で、デートでもと思いましてその……」
「デート? 逢引の事か?」
「あ、逢引! 破廉恥な響きですわ!」
何を今更に照れているのだろうか。自分を番にするためにアピールしているのだから、逢引の一回や二回ぐらい堂々と誘えばいいものを……。
この童女の恥ずかしがるポイントがよくわからん。手ずからず食事を口まで持ってきて食べさしたり、ブラッシングをするために普通に触れ合ったりしておるではないか。
「では、そのピクニックとやらを楽しもうぞ」
「お任せください。少々離れておりますので、そこまでは私がお連れしますわ」
まずは庭に出て来たが、ここからどのように連れて行ってくれるのだろうか。俺はいつものように鳥籠に入れられたままだが、森は危険であるそうなのでしかたがない。
「姫様、若様! お待ちしておりましたぞ!」
「準備は万端でございますよ姫様」
「ゲコ!」
いつもの三人も気合十分ないで立ちで現れた。ガイストは大きな荷物を背負い、バオジイとフロッシュはどこに探検でも行くのだと言いたくなるような格好である。
「おぬしら、気合十分じゃな」
「若様の森デビューですぞ。気合も入りますじゃ!」
「で、デートが……私と妖様のデート、ううっ。しかたがありませんわ。私ひとりならともかく、今日は妖様もご一緒ですものね……はぁ」
保護者同伴の逢引となってしまったからか、彼女は残念そうにため息を吐いている。三人がついて来る主な理由は俺がまだまだ弱いからだろう。彼女ひとりで森に入る分には問題が無いらしい。足を引っ張ってしまい申し訳ない。
「さて、気を取り直していきますわよ!」
すぐに気持ちを入れ替えたのか元気に片手を上げている。三人はそれにならって「オーッ!」と片手を上げて答えているので、自分も短い手で真似をしてみる。そして、どのようにして行くのだろうと思っていたのだが答えはすぐに出た。
「では皆は私に乗ってくださいな!」
彼女はその言葉と共に少し離れて、そして風が吹きだしたと思えば彼女自身の形を変えていった。纏っていた風が消え去った先にいたのは黒い竜だった。バオジイに前世の龍とこの世界の竜は違う生き物だと聞いていたが、初めて見た竜に驚いた。
「お父様と違ってまだ私は小さいですが、皆を乗せることぐらいはできますわ」
俺から見ればそれでも大きいのだが……長殿はもっと大きいと?
呆気にとられている間に鳥籠はガイストにしっかりと抱えられ、皆が彼女の背に乗っていた。
「では行きますわよー!」
彼女の掛け声と共に大地から飛び立ち、ゆっくりと上昇していく。空を悠々と羽ばたいて森へと向かって行く彼女の背から遠くを眺めれば広大な森が広がっていた。
「妖様、私の背の上はいかがでしょうか?」
「すごいな。このような高い場所など初めてだ。風も心地よい」
「それはようございましたわ! しばし空の旅をお楽しみくださいませ」
上空を飛んでいるのに風の抵抗がないように感じる。きっとこれは彼女がそうしてくれているのだろう。ガイストが小さくこそっと教えてくれたが、本来ならもっと早く飛び、しがみつかねば吹き飛ばされてしまうそうだ。彼女の心遣いに感謝し、今は空の旅を楽しもうではないか。
城からだいぶ離れた場所まで飛んで来たがゆっくりと高度を落としていき、そして彼女が言っていた森の丘へと降りた。
そこは緩やかな斜面が広がっていて、色とりどりの花が咲き乱れている。蜂のような魔鳥が飛んでいたり鹿のような魔獣の群れがちらほらと確認できるが、黒竜が降りて来たのに気づいてだいぶ離れた所から遠巻きに警戒しながら見ているようだった。
「着きましたわ! さぁ、ここが今日の目的地であるお花畑です!」
降りやすいようにしゃがみ込んでくれたので、バオジイとフロッシュはそのまま飛び降りて花畑へ駆け出して行った。俺はガイストに下ろしてもらい元に戻った彼女の手に渡される。
「私がいるので大丈夫だと思いますが、なるべく目の届く場所にいてくださいね」
鳥籠を敷物の上にそっと置かれ、扉も開いてくれる。出ても良いのか迷ったが彼女がそう言うのならと思い切ってピョンと外へ跳ねて飛び出した。
「すまんな。迷惑をかけんように、なるべく近くにいるようにする」
「ふふふっ、大丈夫ですわよ。私も皆もいますから、そう簡単に近づける者などいませんわ。もちろん、そのような者が現れたなら……うふふ」
いや、だから物騒な事は言わんでくれ!
「明日からはステップアップですわ。よって今日は特訓もお休みにしてピクニックに行こうと思いますの!」
ジャーンと言いながら何やら大きな籠を見せている。香ってくるにおいで食べ物だとわかるが、それを持ってピクニックとやら行くのだろうか。
「森の丘に綺麗なお花畑がありますの。そこでピクニック……でで、で、デートでもと思いましてその……」
「デート? 逢引の事か?」
「あ、逢引! 破廉恥な響きですわ!」
何を今更に照れているのだろうか。自分を番にするためにアピールしているのだから、逢引の一回や二回ぐらい堂々と誘えばいいものを……。
この童女の恥ずかしがるポイントがよくわからん。手ずからず食事を口まで持ってきて食べさしたり、ブラッシングをするために普通に触れ合ったりしておるではないか。
「では、そのピクニックとやらを楽しもうぞ」
「お任せください。少々離れておりますので、そこまでは私がお連れしますわ」
まずは庭に出て来たが、ここからどのように連れて行ってくれるのだろうか。俺はいつものように鳥籠に入れられたままだが、森は危険であるそうなのでしかたがない。
「姫様、若様! お待ちしておりましたぞ!」
「準備は万端でございますよ姫様」
「ゲコ!」
いつもの三人も気合十分ないで立ちで現れた。ガイストは大きな荷物を背負い、バオジイとフロッシュはどこに探検でも行くのだと言いたくなるような格好である。
「おぬしら、気合十分じゃな」
「若様の森デビューですぞ。気合も入りますじゃ!」
「で、デートが……私と妖様のデート、ううっ。しかたがありませんわ。私ひとりならともかく、今日は妖様もご一緒ですものね……はぁ」
保護者同伴の逢引となってしまったからか、彼女は残念そうにため息を吐いている。三人がついて来る主な理由は俺がまだまだ弱いからだろう。彼女ひとりで森に入る分には問題が無いらしい。足を引っ張ってしまい申し訳ない。
「さて、気を取り直していきますわよ!」
すぐに気持ちを入れ替えたのか元気に片手を上げている。三人はそれにならって「オーッ!」と片手を上げて答えているので、自分も短い手で真似をしてみる。そして、どのようにして行くのだろうと思っていたのだが答えはすぐに出た。
「では皆は私に乗ってくださいな!」
彼女はその言葉と共に少し離れて、そして風が吹きだしたと思えば彼女自身の形を変えていった。纏っていた風が消え去った先にいたのは黒い竜だった。バオジイに前世の龍とこの世界の竜は違う生き物だと聞いていたが、初めて見た竜に驚いた。
「お父様と違ってまだ私は小さいですが、皆を乗せることぐらいはできますわ」
俺から見ればそれでも大きいのだが……長殿はもっと大きいと?
呆気にとられている間に鳥籠はガイストにしっかりと抱えられ、皆が彼女の背に乗っていた。
「では行きますわよー!」
彼女の掛け声と共に大地から飛び立ち、ゆっくりと上昇していく。空を悠々と羽ばたいて森へと向かって行く彼女の背から遠くを眺めれば広大な森が広がっていた。
「妖様、私の背の上はいかがでしょうか?」
「すごいな。このような高い場所など初めてだ。風も心地よい」
「それはようございましたわ! しばし空の旅をお楽しみくださいませ」
上空を飛んでいるのに風の抵抗がないように感じる。きっとこれは彼女がそうしてくれているのだろう。ガイストが小さくこそっと教えてくれたが、本来ならもっと早く飛び、しがみつかねば吹き飛ばされてしまうそうだ。彼女の心遣いに感謝し、今は空の旅を楽しもうではないか。
城からだいぶ離れた場所まで飛んで来たがゆっくりと高度を落としていき、そして彼女が言っていた森の丘へと降りた。
そこは緩やかな斜面が広がっていて、色とりどりの花が咲き乱れている。蜂のような魔鳥が飛んでいたり鹿のような魔獣の群れがちらほらと確認できるが、黒竜が降りて来たのに気づいてだいぶ離れた所から遠巻きに警戒しながら見ているようだった。
「着きましたわ! さぁ、ここが今日の目的地であるお花畑です!」
降りやすいようにしゃがみ込んでくれたので、バオジイとフロッシュはそのまま飛び降りて花畑へ駆け出して行った。俺はガイストに下ろしてもらい元に戻った彼女の手に渡される。
「私がいるので大丈夫だと思いますが、なるべく目の届く場所にいてくださいね」
鳥籠を敷物の上にそっと置かれ、扉も開いてくれる。出ても良いのか迷ったが彼女がそう言うのならと思い切ってピョンと外へ跳ねて飛び出した。
「すまんな。迷惑をかけんように、なるべく近くにいるようにする」
「ふふふっ、大丈夫ですわよ。私も皆もいますから、そう簡単に近づける者などいませんわ。もちろん、そのような者が現れたなら……うふふ」
いや、だから物騒な事は言わんでくれ!
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