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しばらくしたらレジェスは同僚達に呼ばれたので一言断ってからそちらに向かった。遠目に見ても楽しそうに話しているので、私も友人達の話しの続きを聞く事にする。
「父がおまえは自力で相手を見つけて来そうだと言ったので、私はそのとおりに自分で見つけようと思いましたの」
「さすがアナベル様ですわ。私も見習わねばいけませんね」
「お二人とも、ほどほどになさいませ」
獲物を探すかのようにギラギラとした目で会場にいる殿方達を見るアナベル様とイネス様を窘めているファビアナ様も横目で探っている。それを見てクスクス笑っているベアトリス様とエステラ様も同じような目をしているので、この二人もそうなのだろう。
「皆様、急にお相手探しに積極的になりましたのね」
「クレス殿下が婚約されましたから、次は自分達だと張り切っているのでしょう」
この光景を見たビビアナ様は引き気味に答えている。私も少し驚いたが、急変した妹達の姿を見ればそうなってしまうのもしかたがない。
そんな皆様も何人かの男性にダンスに誘われていたので、良きお相手とのめぐり合わせを祈っておこうと思う。
新年の舞踏会の最後は海上から上がった花火で締めくくられる。ここだけではなく国内でそれぞれ祝い方は違えど、何かしらの催しがあるのでどこも盛り上がっているはずだ。
高台にある王宮には見晴らしが良い場所が何か所もあるので、毎年そこが解放されてこうやって眺める事ができるようになっていた。
「この花火を見ると新しい一年が始まるのだと実感が湧いてきます」
今年はどんな年になるのだろうか。ふと隣に立つレジェスの顔を見上げれば彼もこちらを見ていたのか目が合った。
「今年も良き年になるでしょう。いえ、そうなるように私もあなたの隣で全力を尽くします」
「ありがとう。私も頑張らないとね」
すぐに照れて視線を逸らしたレジェスの耳に海の色をした小さなピアスが見えた。それは花火の光を反射して様々な色に光り輝いている。まるで『海の瞳』を表すようなそれを身に着けている彼に嬉しくなってその手を握れば、きゅっと優しく握り返された。
海神様、今年も多くの民が無事に過ごせますようによろしくお願いいたします。
王宮から少し離れた場所にある小さな離宮、ここからも花火は見えていた。ローゼリアもまたそれをひとりで眺めていたのだが、今日は何かのお祭りかと控えている侍女に聞いてみる。
「これは新年を祝う海上花火です。毎年おこなわれていますわ」
「ふーん……」
聞いたものの、特に興味は湧かなかったのはここにアルフレド様がいないから。ここはわたくし達二人の新居なのに、彼はここにはなかなか帰って来ない。忙しいと言ってすぐに王宮へ向かってしまうので、落ち着いてお茶をしたり二人っきりで愛を囁き合ったりとできない。
「きっと悪役王女の断罪に向けて忙しいのよね」
そろそろあの悪役王女が学園を卒業するはずだ。やっぱり断罪と言えば卒業パーティーでおこなうのが定番だものね。そこでわたくしもあの女にビシッと現実を突き付けてあげないといけない。だってこの世界の主役は悪役令嬢のわたくしなのだから。すべてはわたくし中心に動いていくのも当然。
それが無事に終われば悪役王女は国外追放されて、アルフレド様は王太子になる。きっとそれを祝う舞踏会でわたくしとの事を正式に発表するのね。そしていよいよ……。
「うふふ。こうして結婚した二人は永遠に幸せな時を過ごしました」
これがエンディング。もちろんそこからも二人の甘い生活が続くのだけど、3の乙女ゲームのシナリオも小説の結末もダナには教えてもらっていなかった。最近はわたくしの近くにいないけど何をしているのかしら?せっかくわたくしが侍女見習いにしてこの国に連れて来てあげたのだから、もっと役に立ちなさいよね。あ、もしかして使えなさすぎてクビになっちゃったのかもしれないわね。
「かわいそうなダナ。でもわたくしは優しいからアルフレド様にお願いして侍女として雇ってもらえるようにしてあげるわ」
子爵令嬢が未来の王妃の侍女になれるんだからわたくしに感謝しなさいよ。
「さーって、花火も終わったからもう寝ようかしら」
この世界は娯楽が少なくてつまんない。前世なら寝る前に漫画を読んだりゲームをしたりしながらお菓子を食べたりお酒だって飲んでいた。この世界では観劇かお茶会や舞踏会に参加するくらいよね。恋愛小説も読んでみたけどわたくし好みの本はなかった。
どれもアルフレド様が忙しいから参加できない。お茶会もあの時に一回しただけだから、暇つぶしにまたあいつらでも呼んでするのもいいわね。
「えーっと、招待状だったっけ? 面倒くさいわね。未来の王妃が来いと言っているんだから、あいつらは黙って参加すればいいのよ。むしろ光栄に思いなさいよね」
今日はもう寝るから明日にでも招待状を書こう。あ、そうだ!アルフレド様にもラブレターでも書いちゃおっかな。そうと決まれば明日からは忙しくなるわ。お茶会の招待状、これは後回しでいい。まずすべきは一番にアルフレド様へ届ける愛を込めたお手紙。その次に適当に招待状を書けばいいか。あとは断罪の計画もしっかりとたてないとね。
「完璧なわたくしなのだから完璧な断罪劇をお贈りしますわよ」
ベッドの中で計画を考えていればすぐに眠りの世界に入っていく。
明かりの消えた暗闇の部屋の中に響くのはひとりの令嬢の寝息だけ。それを見下ろす冷めた目をした侍女が別の侍女へ指示を出し、もう一度だけ眠る令嬢を見下ろした。
「知っていますか? ざまぁしようとした転生悪役令嬢が逆にざまぁされて断罪される小説もあるのですよ」
彼女の独り言は眠る令嬢には届かず、静かなこの空間に溶けて消えていった。
「父がおまえは自力で相手を見つけて来そうだと言ったので、私はそのとおりに自分で見つけようと思いましたの」
「さすがアナベル様ですわ。私も見習わねばいけませんね」
「お二人とも、ほどほどになさいませ」
獲物を探すかのようにギラギラとした目で会場にいる殿方達を見るアナベル様とイネス様を窘めているファビアナ様も横目で探っている。それを見てクスクス笑っているベアトリス様とエステラ様も同じような目をしているので、この二人もそうなのだろう。
「皆様、急にお相手探しに積極的になりましたのね」
「クレス殿下が婚約されましたから、次は自分達だと張り切っているのでしょう」
この光景を見たビビアナ様は引き気味に答えている。私も少し驚いたが、急変した妹達の姿を見ればそうなってしまうのもしかたがない。
そんな皆様も何人かの男性にダンスに誘われていたので、良きお相手とのめぐり合わせを祈っておこうと思う。
新年の舞踏会の最後は海上から上がった花火で締めくくられる。ここだけではなく国内でそれぞれ祝い方は違えど、何かしらの催しがあるのでどこも盛り上がっているはずだ。
高台にある王宮には見晴らしが良い場所が何か所もあるので、毎年そこが解放されてこうやって眺める事ができるようになっていた。
「この花火を見ると新しい一年が始まるのだと実感が湧いてきます」
今年はどんな年になるのだろうか。ふと隣に立つレジェスの顔を見上げれば彼もこちらを見ていたのか目が合った。
「今年も良き年になるでしょう。いえ、そうなるように私もあなたの隣で全力を尽くします」
「ありがとう。私も頑張らないとね」
すぐに照れて視線を逸らしたレジェスの耳に海の色をした小さなピアスが見えた。それは花火の光を反射して様々な色に光り輝いている。まるで『海の瞳』を表すようなそれを身に着けている彼に嬉しくなってその手を握れば、きゅっと優しく握り返された。
海神様、今年も多くの民が無事に過ごせますようによろしくお願いいたします。
王宮から少し離れた場所にある小さな離宮、ここからも花火は見えていた。ローゼリアもまたそれをひとりで眺めていたのだが、今日は何かのお祭りかと控えている侍女に聞いてみる。
「これは新年を祝う海上花火です。毎年おこなわれていますわ」
「ふーん……」
聞いたものの、特に興味は湧かなかったのはここにアルフレド様がいないから。ここはわたくし達二人の新居なのに、彼はここにはなかなか帰って来ない。忙しいと言ってすぐに王宮へ向かってしまうので、落ち着いてお茶をしたり二人っきりで愛を囁き合ったりとできない。
「きっと悪役王女の断罪に向けて忙しいのよね」
そろそろあの悪役王女が学園を卒業するはずだ。やっぱり断罪と言えば卒業パーティーでおこなうのが定番だものね。そこでわたくしもあの女にビシッと現実を突き付けてあげないといけない。だってこの世界の主役は悪役令嬢のわたくしなのだから。すべてはわたくし中心に動いていくのも当然。
それが無事に終われば悪役王女は国外追放されて、アルフレド様は王太子になる。きっとそれを祝う舞踏会でわたくしとの事を正式に発表するのね。そしていよいよ……。
「うふふ。こうして結婚した二人は永遠に幸せな時を過ごしました」
これがエンディング。もちろんそこからも二人の甘い生活が続くのだけど、3の乙女ゲームのシナリオも小説の結末もダナには教えてもらっていなかった。最近はわたくしの近くにいないけど何をしているのかしら?せっかくわたくしが侍女見習いにしてこの国に連れて来てあげたのだから、もっと役に立ちなさいよね。あ、もしかして使えなさすぎてクビになっちゃったのかもしれないわね。
「かわいそうなダナ。でもわたくしは優しいからアルフレド様にお願いして侍女として雇ってもらえるようにしてあげるわ」
子爵令嬢が未来の王妃の侍女になれるんだからわたくしに感謝しなさいよ。
「さーって、花火も終わったからもう寝ようかしら」
この世界は娯楽が少なくてつまんない。前世なら寝る前に漫画を読んだりゲームをしたりしながらお菓子を食べたりお酒だって飲んでいた。この世界では観劇かお茶会や舞踏会に参加するくらいよね。恋愛小説も読んでみたけどわたくし好みの本はなかった。
どれもアルフレド様が忙しいから参加できない。お茶会もあの時に一回しただけだから、暇つぶしにまたあいつらでも呼んでするのもいいわね。
「えーっと、招待状だったっけ? 面倒くさいわね。未来の王妃が来いと言っているんだから、あいつらは黙って参加すればいいのよ。むしろ光栄に思いなさいよね」
今日はもう寝るから明日にでも招待状を書こう。あ、そうだ!アルフレド様にもラブレターでも書いちゃおっかな。そうと決まれば明日からは忙しくなるわ。お茶会の招待状、これは後回しでいい。まずすべきは一番にアルフレド様へ届ける愛を込めたお手紙。その次に適当に招待状を書けばいいか。あとは断罪の計画もしっかりとたてないとね。
「完璧なわたくしなのだから完璧な断罪劇をお贈りしますわよ」
ベッドの中で計画を考えていればすぐに眠りの世界に入っていく。
明かりの消えた暗闇の部屋の中に響くのはひとりの令嬢の寝息だけ。それを見下ろす冷めた目をした侍女が別の侍女へ指示を出し、もう一度だけ眠る令嬢を見下ろした。
「知っていますか? ざまぁしようとした転生悪役令嬢が逆にざまぁされて断罪される小説もあるのですよ」
彼女の独り言は眠る令嬢には届かず、静かなこの空間に溶けて消えていった。
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