上 下
738 / 775
27章 魔人と神人

725

しおりを挟む
「ここから先は陽子さんのダンジョンじゃないから、陽子さんはここで待っているよ」

 陽子が先頭で進んでいると思ったら、そう言って突然足を止めて立ち止まった。
 ただその先は進むことを拒むような壁であった。物理的に進むことができないとも言える。

 しかし、そんな陽子の肩に手を置いてシェリーは言う。

「陽子さん。オリバーから、この先もダンジョンにするようにと言われていましたよね?」
「ささっち……ささっちにはわからないかもしれないけど、この先気持ち悪い感覚があるんだよ。陽子さんは絶対に進みたくないよ」

 陽子はシーラン王国の中枢である城は一部ダンジョン化して侵食し、情報を得ていた。しかし地下の硬い岩盤から先にはダンジョンを延ばさず、穴が空いても閉じてしまったのは、陽子的にダンジョンをそこまで広げたくないという意思があったらしい。

「陽子さん。問題があれば、そこのシュロス王と炎王が解決してくれます。そのために連れて来たのですから」
「いや、そこの生物と言っていいかわからないヤツは役に立つかもしれないが、俺はここにいる必要はない」

 炎王はここには一人いれば十分に賄える存在がいるのだから、自分はいる必要はないのではとシェリーに断言した。
 その言葉にシェリーは、何も表情が浮かんでいない顔で後ろに振り向きながら言う。

「それを制御する人材は多い方がいいです」

 シェリー自身が言葉を交わすのを止める程のシュロスの性格だ。それは炎王も巻き込んでおこうと言うもの。

「それに超越者が三人もいれば、大体のことは対処可能でしょう。私は陽子さんの守りに徹するので」
「ささっちー!」

 シェリーは何があっても陽子の守りに徹すると宣言し、それに陽子が感激の声を上げた。
 シェリーがそこまで陽子を思ってくれていると。

「陽子さんはルーちゃんが幸せに暮らしていくには必要な人ですから」
「ささっちの、そこのブレなさは陽子さんも関心するよ」
「ですから、さっさと北地区全域までダンジョンを広げてください」
「あ……その為ね。……うん。わかったよ」

 シェリーの考えの中心は、弟のルークであることには変わらない。そう、先日の王都襲撃事件で、女神ナディアの神言が無ければ、シェリーは最愛のルークを失っていたかもしれなかった。

 陽子に北側の学園までダンジョンを広げてもらうことは以前から言っていた。学生を鍛えるために、そこにダンジョンを新たに作ってはどうかと。

 だが、王城の地下にある硬い岩盤の先もダンジョンとして侵略し、その先の北地区全域までさっさと広げてもらおうという算段だったのだ。

 それは女神ナディアの催促も棒に振り、なにかと言い訳をして、王城の地下に陽子を連れて行こうとしたわけだ。

 いや、シェリーの心の内の不安を払拭するために、オリバーが陽子に行くように示唆したと、言えばいいのだろうか。流石、異界の聖女の守護者の名を白き神から与えられた者というわけだ。

 シェリーのルークに対する異常なまでの愛情を知っている陽子は諦めの境地で、壁に手を当てた。
 すると、壁が空気に溶けるように消え去ったのだ。

 壁が崩れたような入口の奥は、闇が顔を覗かせているかのように、漆黒に染まっている。
 今、シェリーたちが立っているところは、ダンジョンの一部だと陽子が言っているように、空間自体かほのかに光っているため、その先の暗さが異様に引き立つのだ。

 ここから先は陽子の支配下ではないと。

「シュロスだっけ?ここからは君が先を歩いてよね。ゆっくりとだよ。わかった?陽子さんはダンジョンの支配を広げて行くんだから、走らずにゆっくり歩くんだよ!」

 陽子は、一番この場所をわかっているであろうシュロスに先に進むように言うも、何度も念を押すように、ゆっくりと進むように言う。

 そう、ここにたどり着くまでのことが色々あったからだ。

 洞窟のような通路には、オリバー作の魔導生物の出来損ない共がうろついている。それも陽子やシェリーの話を聞いて、どういうモノか作ってみたという怪しい生物が、うろついているのだ。

『鎧が集団で移動している!』
『なんか、あの先巨大なヘビが詰まってないか!』
『あれは雷を出すピカチ「走らない!!」じゃないか!』

 と言いながら、走り出すことが何度もあったからだ。それは陽子は子どもに言い聞かせるように念押しをするわけだ。

「おう!任せろ!」

 自信満々にいうシュロスに、誰しもが不安感を拭えない。

 そしてシュロスは漆黒の闇の中に足を踏み入れる。

 が、突如として、その姿が闇の中に消えた。

「馬鹿なの!見れば床が続いていないぐらいわかるよね!!」

 陽子は暗闇の中、下を向いて叫んでいた。
 そう、入口から先が漆黒ということは、ダンジョンの光が床にすら反射しない状況ということだったのだ。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。 「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。 命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの? そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

処理中です...