上 下
736 / 775
27章 魔人と神人

723

しおりを挟む
 ガリガリなアイスを包むように描かれる球状の陣。それを目にしたものの反応はそれぞれ違っていた。

「ゲームっぽい」
「陽子さんの目に恐ろしいほど細かい線が密集しているように見えるけど、普通じゃないよね」

 炎王は己自身が、魔術創造で魔術を使っているので、ある意味納得している。ゲーム感覚ではそんな感じだろうと。
 だが、シェリーの後ろから見ていた陽子は、魔力を帯びた陣の線が複雑に絡み合って球状に見えているのが怖ろしいと言った。普通は脳内であそこまで細かく構築はできないと。

「エリザベート様の方がきれいでしたね」

 シェリーは一度目にした大魔女エリザベートの陣の方がシンプルできれいだったと口にする。そして、その隣にいるカイルもシェリーに同意していた。

 そしてオリバーと言えば、唖然としてその光景を目にしている。オリバーにすれば珍しいことだった。
 シェリーが言っていた陣を球状にしていたというのは嘘ではないにしても、球状に見えなくもないという感じだと思っていたからだ。

 陣を立体に湾曲させる。そんなことは一般常識としてはあり得ないことだ。

「本を書いていたヤツか?あれは天才っていう部類だ。究極に無駄を削ぎ落としたっていう変態の域だな」
「シュロス王に言われたくないと思います」

 もう、人と言えなくなったシュロスにシェリーは言い返す。大魔女エリザベートも、神殺しのシュロスにだけには言われたくないだろうと。

「相変わらず、佐々木さんは俺に当たりが強くないか?」
「思考回路がぶっ飛んでいるので、それぐらいの対応でいいと思います」
「普通だろう?」
「「どこが!」」

 シュロスの自分は一般人と何ら変わりがないという発言に対して、炎王と陽子が突っ込む。

 どこを取っても普通という認識は持てないと。
 その二人に心外だと言わんばかりの視線を向けながら、シュロスは元にいた場所に戻る。
 そう、オリバーの隣の席だ。

 そして、ダイニングテーブルの上に球状の陣で包んだガリガリのアイスを置く。

「これを見せてもらって良いか?」
「ん?いいぞ」

 オリバーは信じられない物を見る視線を向けながらシュロスに声をかけた。
 了承を受けたオリバーは恐る恐る球状になった陣を観察する。

「あ、これ持てるぞ」

 そう言ってシュロスは球状の物体を持ち上げてオリバーに差し出した。

「陣が物質化しているのか?ありえない」

 ただの魔力の塊で、術を発動させる媒体でしかない陣を、物質化する理由などない。いや、そもそもする必要がない。

「そうか?空間を切り取って中の空間に影響を与えているのなら、その空間を覆うものは必要だろう」
「そもそも空間を切り取ることはせぬ」

 オリバーがシュロスの考えを否定する。空間を切り取ってまで施行する術とは、どれほど凶悪な術なのだという話になるからだ。

 その二人の意見の違いに声を上げる者がいた。

「あ……空間を切り取るか……そうすれば、被害はそこまで大きくならなかった可能性が……」

 炎王である。
 もしかすると火山の島である炎国で凍った山がある理由につながるのかもしれない。

 その炎王にお前もかという視線を投げつけるシェリーと陽子。

「あ、佐々木さん。そろそろお暇をさせてもらう」

 なんだか居心地が悪くなった炎王は立ち上がって、自分の国に帰ろうとする。そこにシェリーは背後にいる陽子に視線を向けた。すると陽子は心得たと言わんばかりに頷く。

「エンエン。今から王城の地下探検にいこう!」
「うぉ!!背後から出てくるな!陽子さん。思わず手が出るだろう」

 陽子は炎王を逃がすまいと背後から現れて炎王の肩を掴んだ。

「え?エンエンに殴られたら、陽子さん慰謝料を請求するよ。ダンジョンに影響を与え続けているエンエン料金も上乗せで」
「意味不明な料金をつけるな!それは種族の体質であって、俺が悪いわけじゃない!!」

 龍人族は世界に影響を与え続ける種族だ。そして、小さな世界と言っても過言でないダンジョンではその影響も目に見えてわかってしまう。
 炎王は自分の所為ではないと否定しているが、炎王以外ダンジョンに甚大な被害を及ぼしている存在はここには居ないので、炎王が悪いことは否定できない。

「それに俺は宴を抜け出してきたって言ったじゃないか!暇じゃねぇんだぞ」
「いいではないですか。ご隠居さま」
「うわぁ。トゲがある言い方しないでくれ、佐々木さん。凄く年寄りになった気分だ」
「大丈夫です。ここには炎王より年上の人物がいますから」

 そのシェリーの言葉に炎王はそちらに視線を向ける。そしてその目を片手で覆って俯いてしまった。

「そもそも人じゃないし、何で肉体を構成しているか不明だし、カレーをぼとぼとこぼして食べている姿ってヤバいだろう」
「まぁ、むき出しの歯みたいなものしかありませんからね。普通でしょう」

 シェリーは炎王の言葉にそうなるだろうと理解を示した。そう、人の口には唇というものがある。それがないとどうなるか。

 ここに良い見本がいる。

 興味津々で球状の物を手にとって、上や下から観察しているオリバーの横の存在だ。

 カレーを食べるのにどうして溢れていくのだろうと、首を捻っているシュロスの姿がそこにはあったのだった。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。 「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。 命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの? そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

処理中です...