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27章 魔人と神人

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「『全ては世界の理の中に戻れ』」

 シェリーの全身が金色に輝く。怒り、苦しみ、悲しみの心が、それぞれが居場所を求め蠢いていく。
 理不尽な死はどこに怒りを向ければいい。
 今日食べることもままならない苦しみはどこに迎えばいい。
 こぼれゆく命への悲しみはどこへ迎えばいい。

「『まわれまわれ、すべては神の身許にすべてのものに安寧の地へ』」

 一つ一つ心はひかり輝き、黒い塊から離れていく。

「『すべてはシャングリラへ』」

 シェリーの周りに集められた黒い塊は、形を崩すように金色に光る小さな粒となって空に吸い込まれていっている。

 これが浄化。いや魂の昇華だ。

 ここにいる者たちがシェリーの姿に魅入っている。何度もシェリーが浄化する姿を見ているカイルでさえ、恍惚とした笑みを浮かべていた。

「すっげー!佐々木さん、聖女って本当だったんだな!」

 いや、違った。シュロスはNPCである佐々木のことを、自称聖女と思っていたのだろう。
 その力を見て、中身に何が入っているのか不明な甲冑が、シェリーに駆け寄っていく。が、その前にカイルがシュロスの行く手を妨害した。

「シェリーに近づくな」
「佐々木さんの彼氏の心、狭っ!」

 カイルの独占欲が強いのはいつものことだが、シュロスの行動がカイルの番であるシェリーを守るという行動に拍車をかけることになっているとは、シュロス自身は全く気がついていない。

 シェリーに馴れ馴れしい態度のシュロスに、苛立ちをあらわにしているカイルに対し、シェリーはため息を吐き出す。
 ここ最近のカイルの行動が異常すぎると。

「もしかして、シュロスという者は『番』という者を知らないのか?」

 モルテ王の疑問の声がシェリーの耳に入ってきたが、その姿はカイルに遮られて、シェリーからは確認できなかった。
 だから、シェリーはカイルの背後から出ていくように、モルテ王に近づいていく。

「アイラさんと同じですよ」
「ああ、そういうことか。それは言葉で言ってもわからないか」

 シェリーが例えで出した人物の名で、モルテ王は納得してくれた。モルテ自身、己の番であるアイラの行動には困惑しているところがあった。

「取り敢えず、この世界で問題児であるシュロス王は回収できましたので、当初の目的の魔女の遺産を受け取りたいです」

 シェリーはさっさとこの場を離れて、大魔女エリザベートが残した資料が欲しいとモルテ王に言う。だが、モルテ王はため息を吐きながら、別の方向に指を差した。

「アレはどうするのだ?赤き神には連れてくるなと言われているのだろう?」

 回収したとシェリーが言ったことから、このまま行動を共にするとなると、女神ナディアの癪に障ることになるのではないのかと、モルテ王が示唆したのだ。

「ああ、それは動く鎧に興味を持つ人に押し付けようと思っています」

 シェリーはオリバーに押し付ける気満々だった。確かに動く鎧には興味を持っているかもしれないが、今回は魂が容れ物に入った、鎧だ。
 鎧自体が動くわけではない。

 それなら、オリバーが最初に作った疑似魂を定着させた鎧と何ら遜色がない。

「色々解体して、好きなようにすると思いますから」
「ちょっと待て!佐々木さん!」

 シェリーの言葉に反応したのは、勿論シュロスだ。自分の身体を解体されるとなると、シュロスも黙ってはいない。

「動く鎧って、他にあるのか?」

 いや、そっちだった。己が解体されるよりも、他に動く鎧があることに興味があるらしい。

「ありますよ。興味ありますか?」
「凄くある!」
「では、モルテ王の城で受け取る物がありますので、その後にいきましょう」
「モルテ王の城!そっちも興味がある!国造りのゲームの醍醐味は、やっぱり……」
「シュロス王、おかしな発言は控えてください」

 未だにゲーム脳であるシュロスの言葉をシェリーはぶった切る。そして、何故ここまで変わっていないのかと、大きくため息を吐き出した。
 白き神が、まだまともだったというときの性格と、あまり変わっていないからだ。そう、あまりにも変わっていなさすぎる。

 これはシェリーが黒い玉を浄化した影響なのだろうか?確かにシェリーはシュロス自身が悪心にまみれていると言った。

 シェリーが白き神に頼んで見せつけた元の世界の未来のことなんて、なかったかのようだ。しかし、己には別の名を持っていると自覚はしている。
 自己紹介するように言ったときに、以前名乗っていた名を名乗ろうとした。プレイヤーなら、そのようなことはしないだろう。

 そこまで考えが行き着いたシェリーは、ふと疑問に思った。

「シュロス王。この世界の概念はなんですか?」
「お!難しいことを聞くな。佐々木さん」

 普通であれば、答えられないシェリーの質問に、シュロスは難しいといいながらも嬉しそうに答える。

「神さんの箱庭だ」

 シェリーが思っていたより、この世界のことをシュロスは正確に把握していたのだった。

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