683 / 775
27章 魔人と神人
670
しおりを挟む「そんな堅苦しくしなくていいよ。今日は僕もリアもシェリーちゃんのお陰で、楽しい時間が過ごせたからね」
ロビンは頭を下げている黒髪の青年の姿を見て言った。それはミゲルロディアのためではなく、シェリーから言われたことだったから、とも取れる言葉だった。
「僕たちは戻るけど、どうする?」
そして、何を考えているのかわからないモルテ王に向けて声を掛ける。ロビンが転移でラースの大公の元にシェリーたちと魔人たちを送り届けるという役目は完了した。ならば、ここに留まる必要などない。
因みにロビンの転移は炎王と同じく人の魔力を規準にして転移をしてきた。
尋ねられたモルテ王は、聞かなくてもわかっているだろうという視線をロビンに向ける。
その視線を受けたロビンは困ったような苦笑いを浮かべて、未だに頭を下げ続けているミゲルロディアを見た。
「突然のことで困惑するかもしれないけど、シェリーちゃんが欲しいものを彼が保管しているんだよ。だから、シェリーちゃんが目を覚ますまで、彼の相手をしてくれないかな?」
ロビンの突拍子もない言葉を聞いたミゲルロディアは、一瞬聞き間違えたのかと、頭をあげてロビンを見上げた。
しかし、ロビンの苦笑いを目にしたミゲルロディアは、今聞いた言葉が聞き間違いではないと悟る。
「相手といいますと?」
ミゲルロディアは恐る恐るロビンに尋ねる。
暇つぶしに魔人であるミゲルロディアをサンドバックにでもしたいのか……そんな不安が垣間見えた。
「ああ、彼ね。モルテ国の王様なんだけど、僕たちと古い付き合いでね。魔人が国主を務めているのに興味があるんだって、君の話を聞きたいそうだよ」
ロビンの言葉に卒倒しそうになるミゲルロディア。一瞬、頭がぐらりとゆらぎ、手を額に当てなんとか体裁を保つ。
「私の話しなど、面白いことなどありません」
ミゲルロディアとしては、ロビンとラフテリアと共に帰ってもらいたい存在だ。
モルテ国の成り立ちも、ただ唯一の王の存在も、ミゲルロディアは知っていた。ラース公国はこの世界で一番長く続いている国と言っていい。その膨大な歴史を知れば、自ずとモルテ国の存在が出てくる。ラース公国と同じく、神が関与して作られた国だと。
別の神が関わった存在を女神ナディアが滞在することを認めるか。ミゲルロディアとしてはそこが一番重要だった。
「それに私はナディア様の許可を得て、ここに存在しております。基本的にナディア様は、この国に他の力を持った存在を受け入れることを、疎ましく思っているほどです」
ミゲルロディアは遠回しに帰ってもらおうと女神ナディアの名を出した。この言葉に嘘はない。
ミゲルロディアも魔人を受け入れることも、女神ナディアの許可を得ていることだ。いや、ラースの愛した国を守れればそれでいいと。
「ふむ」
モルテ王は一理あると頷く。モルテ国もモルテ神とオスクリダー神の影響を受けている。そこに住まう者にも多大な影響をあたえているのだ。
「ラフテリア。赤き女神の許可を得ろ」
大魔女エリザベートとは違い、神という存在に並々ならぬ信仰心を持っているラフテリアにモルテ王は命じた。いや、モルテ王としては普通に話しているつもりなのだが、生まれながらの王族だ。その言葉は他人を動かす言葉になってしまっていた。
「赤い神様だね」
そんな命令もラフテリアからすれば、神に祈ればいいという曖昧な形に変貌する。ラフテリアは手を組んで宙を見ながらつぶやき出した。
「赤い神様。赤い神様。今日はエリーとたくさんお話しができました」
何故か日記のような言葉をつぶやき出すラフテリア。
そんなラフテリアを愛おしい者を見る視線と、また始まったと呆れた視線がある。愛おしい者を見ている視線は勿論ロビンだが、己で言っておきながら呆れた視線を向けているモルテ王はどういう心境なのだろうか。いやきっと散々この風景を見てきたということなのだろう。
「エリーに頭をたくさんナゼナゼしてもらいました。神さまのお話をするとケンカになりました」
この状況にミゲルロディアはどうすればいいのかと、困惑の表情を浮かべだす。許可を得る言動とは思えなかった。もちろんラフテリアが普通の感覚の持ち主でないことは理解している。
しかし、謎のエリーという人物の報告を女神ナディアに行っている理由が理解できないでいた。
「だから今日はとても楽しかったです。赤い神様も楽しかった?」
『そうね』
鈴がころころと鳴るような笑い声と共に、女神ナディアの声が室内に響く。その事にミゲルロディアは驚きと共に声とも言えぬ音が漏れ、慌てて頭を下げた。
『モルテもオスクリダーも好かないけど、あの子の持っていた物は必要でしょうから、半日の滞在は認めるわ』
女神ナディアの言葉にモルテ王は床に跪き頭を垂れる。
『ただし、その醜い力を抑えなさい。ミゲルが怖がっているわ』
女神ナディアの言葉にミゲルロディアは更に頭を低くし、感謝の意を示す。流石に得も言われぬ圧倒的な力の塊と半日も共に過ごすなど、途中で気を失っていたかもしれないと。
10
お気に入りに追加
1,016
あなたにおすすめの小説
婚約者が最凶すぎて困っています
白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。
そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。
最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。
*幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。
*不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。
*作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。
*カクヨム。小説家になろうにも投稿。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!
鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……!
前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。
正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。
そして、気づけば違う世界に転生!
けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ!
私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……?
前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー!
※第15回恋愛大賞にエントリーしてます!
開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです!
よろしくお願いします!!
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します
陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。
「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。
命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの?
そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる