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27章 魔人と神人

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「そんな堅苦しくしなくていいよ。今日は僕もリアもシェリーちゃんのお陰で、楽しい時間が過ごせたからね」

 ロビンは頭を下げている黒髪の青年の姿を見て言った。それはミゲルロディアのためではなく、シェリーから言われたことだったから、とも取れる言葉だった。

「僕たちは戻るけど、どうする?」

 そして、何を考えているのかわからないモルテ王に向けて声を掛ける。ロビンが転移でラースの大公の元にシェリーたちと魔人たちを送り届けるという役目は完了した。ならば、ここに留まる必要などない。
 因みにロビンの転移は炎王と同じく人の魔力を規準にして転移をしてきた。

 尋ねられたモルテ王は、聞かなくてもわかっているだろうという視線をロビンに向ける。
 その視線を受けたロビンは困ったような苦笑いを浮かべて、未だに頭を下げ続けているミゲルロディアを見た。

「突然のことで困惑するかもしれないけど、シェリーちゃんが欲しいものを彼が保管しているんだよ。だから、シェリーちゃんが目を覚ますまで、彼の相手をしてくれないかな?」

 ロビンの突拍子もない言葉を聞いたミゲルロディアは、一瞬聞き間違えたのかと、頭をあげてロビンを見上げた。
 しかし、ロビンの苦笑いを目にしたミゲルロディアは、今聞いた言葉が聞き間違いではないと悟る。

「相手といいますと?」

 ミゲルロディアは恐る恐るロビンに尋ねる。
 暇つぶしに魔人であるミゲルロディアをサンドバックにでもしたいのか……そんな不安が垣間見えた。

「ああ、彼ね。モルテ国の王様なんだけど、僕たちと古い付き合いでね。魔人が国主を務めているのに興味があるんだって、君の話を聞きたいそうだよ」

 ロビンの言葉に卒倒しそうになるミゲルロディア。一瞬、頭がぐらりとゆらぎ、手を額に当てなんとか体裁を保つ。

「私の話しなど、面白いことなどありません」

 ミゲルロディアとしては、ロビンとラフテリアと共に帰ってもらいたい存在だ。
 モルテ国の成り立ちも、ただ唯一の王の存在も、ミゲルロディアは知っていた。ラース公国はこの世界で一番長く続いている国と言っていい。その膨大な歴史を知れば、自ずとモルテ国の存在が出てくる。ラース公国と同じく、神が関与して作られた国だと。

 別の神が関わった存在を女神ナディアが滞在することを認めるか。ミゲルロディアとしてはそこが一番重要だった。

「それに私はナディア様の許可を得て、ここに存在しております。基本的にナディア様は、この国に他の力を持った存在を受け入れることを、疎ましく思っているほどです」

 ミゲルロディアは遠回しに帰ってもらおうと女神ナディアの名を出した。この言葉に嘘はない。
 ミゲルロディアも魔人を受け入れることも、女神ナディアの許可を得ていることだ。いや、ラースの愛した国を守れればそれでいいと。

「ふむ」

 モルテ王は一理あると頷く。モルテ国もモルテ神とオスクリダー神の影響を受けている。そこに住まう者にも多大な影響をあたえているのだ。

「ラフテリア。赤き女神の許可を得ろ」

 大魔女エリザベートとは違い、神という存在に並々ならぬ信仰心を持っているラフテリアにモルテ王は命じた。いや、モルテ王としては普通に話しているつもりなのだが、生まれながらの王族だ。その言葉は他人を動かす言葉になってしまっていた。

「赤い神様だね」

 そんな命令もラフテリアからすれば、神に祈ればいいという曖昧な形に変貌する。ラフテリアは手を組んで宙を見ながらつぶやき出した。

「赤い神様。赤い神様。今日はエリーとたくさんお話しができました」

 何故か日記のような言葉をつぶやき出すラフテリア。
 そんなラフテリアを愛おしい者を見る視線と、また始まったと呆れた視線がある。愛おしい者を見ている視線は勿論ロビンだが、己で言っておきながら呆れた視線を向けているモルテ王はどういう心境なのだろうか。いやきっと散々この風景を見てきたということなのだろう。

「エリーに頭をたくさんナゼナゼしてもらいました。神さまのお話をするとケンカになりました」

 この状況にミゲルロディアはどうすればいいのかと、困惑の表情を浮かべだす。許可を得る言動とは思えなかった。もちろんラフテリアが普通の感覚の持ち主でないことは理解している。
 しかし、謎のエリーという人物の報告を女神ナディアに行っている理由が理解できないでいた。

「だから今日はとても楽しかったです。赤い神様も楽しかった?」
『そうね』

 鈴がころころと鳴るような笑い声と共に、女神ナディアの声が室内に響く。その事にミゲルロディアは驚きと共に声とも言えぬ音が漏れ、慌てて頭を下げた。

『モルテもオスクリダーも好かないけど、あの子の持っていた物は必要でしょうから、半日の滞在は認めるわ』

 女神ナディアの言葉にモルテ王は床に跪き頭を垂れる。

『ただし、その醜い力を抑えなさい。ミゲルが怖がっているわ』

 女神ナディアの言葉にミゲルロディアは更に頭を低くし、感謝の意を示す。流石に得も言われぬ圧倒的な力の塊と半日も共に過ごすなど、途中で気を失っていたかもしれないと。

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