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27章 魔人と神人

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「大魔女エリザベート様」

 モルテ王のマリートゥヴァへの思いを口にした室内は静まり返っていた。

 エリザベートに白き神の話をしていたラフテリアでさえ、モルテ王を見ていた。彼らの関係は複雑だが、長きにわたってマリートゥヴァがラフテリアの側に居続けたのは事実だ。
 マリートゥヴァはモルテ王と共に国に居続けるという己の幸せを選択してもよかったはずだ。しかし、彼女は元王太子妃として国のために道を選んだ。

 ラフテリアも思う事があるのだろう。何も語らずモルテ王を見ていた。

 そこにシェリーのエリザベートの名を呼ぶ声が室内に響き渡る。現実に引き戻されたかのように、エリザベートが肩を揺らしシェリーの方に視線を向けた。

「エリザベート様。……腹立たしいことに、あの神が介入してきました」

 唐突にシェリーが声を上げたが、その姿にエリザベートはコクリと頷いた。全てわかったと。

「もう、お開きね。元の場所に戻るわ。楽しい時って一瞬よね。死んだ私が言うのもなんだけど」

 エリザベートが指をパチンと鳴らす。すると室内が一瞬にして変わり、素朴な室内に変化した。いや、元々いたエリザベートの仮住まいの建物の中だった。

 そして、シェリーは息をするのもままならないという感じで、肩で息をするほど何かに耐えている。

「エリザベート……様……空島の……資料を……読めば……対抗策は……見つかります……よね?」

 息も絶え絶えのシェリーだが、これは絶対に聞いておかないといけないという風に、歯を食いしばりながら尋ねた。

 そもそもエリザベートを再び喚び出したのは、エリザベートにしかわからないことを聞き出すためだったのだ。それが、ロビンとモルテ王の話が終わった途端、突如として白き神の強制解除の横槍が入ってきたのだ。
 それは肝心なことを聞いていないとシェリーもギリギリまで粘っても聞き出そうとするだろう。

「それは貴女次第よ。でも私の全てを記した資料よ。空島のことも、魔術のことも。そこから何かを得るかどうかは貴女次第ね」

 シェリーに答えたエリザベートは、直ぐ側に居て『六番目はどうしたのだろう?』と首を傾げているラフテリアを見て、その次に『また会おうね』と手を振っているロビンを見て、最後に何とも言えない表情をしているモルテ王を見た。

「ふふふ、弟子にね。魔女の集会に連れて行って欲しいって言われたことがあったのだけど、ここに連れてきたらきっと卒倒していたわね」

 笑いながら言うエリザベートは魔女の集会より伏魔殿ねと漏らし、テーブルの上に開いて置いてあった赤い旅行カバンを閉じて引き寄せた。そして、浮遊している鞄の上に腰を下ろす。

「ラフテリア、あまりロビンを困らせたら駄目よ。わがままも程々よ。ロビン、また会えるかはそこのラースの眼をもった娘しだいね。ルティー、新しい番を得て浮かれているかもしれないけれど、所詮は楔から放たれた者を世界に絡め取る新たな楔よ。白き神の良いようにはされ……」

 エリザベートの声が、姿と共に忽然と世界から消えた。これは白き神への否定的な言葉が出てきたからだろうか。

「あれ? 六番目が寝たらエリーが消えた」

 違う。シェリーがギリギリまで保たせていたが、白き神からの横槍の負荷が大きく、魔力が枯渇し気絶するという事態になってしまったためだ。
 いや、負荷が大きくなったとわかった時点で、シェリーがスキルを解いておけばよかったのだ。

 それなのに、アマツの時と同じ様にギリギリまで引っ張って、エリザベートと彼らに別れの言葉を言う時間を与えようとしたのだ。
 
 しかし、シェリーの思惑からは外れ、エリザベートがいらない言葉を言ったために、一気にシェリーへの負荷が増え、意識を失うことになったのだろう。

「シェリー。無理はするなといつも言っているのに」

 カイルは腕の中で意識を失ってしまっているシェリーに苦言を漏らしているが、その行動はシェリーの優しさからだとわかっていた。
 仕方が無いと思いながらも、そこまでする必要があったのか。憂いと憤りが混じった複雑な表情をカイルはしていた。

「エリザベートが消えたのはどういうことだ? そもそもエリザベートが存在していた理由が全く説明されていないのだが?」

 モルテ王はいつの間にかカイルの側まできていた。シェリーを抱えながら椅子に座っているカイルを威圧するように見下ろしながら聞いてきたのだ。
 いや、何かをしたのは意識を失っているシェリーだということには気がついているだろうが、意識のないシェリーを責めても意味がない。だから、カイルを威圧するように見下ろしているのだろう。

「簡単な説明しか受けていないが、世界の記憶からその人物を構築するスキルらしい」
「スキル? スキルでそんな事が可能なのか?」

 そんなことはできるはずは無いだろうと、モルテ王は言い返す。しかし、己の首と他人の胴が繋がり、存在している者に言われても、本人の存在の方があり得ないと言われるだろう。

「できるよ!」

 そこに、ラフテリアの声が響き渡った。

「だって六番目だからね!」

 全く答えになっていなかった。その言葉にロビンはいつもと変わりなくニコニコと笑みを浮かべ、モルテ王と言えば馬鹿を見る視線を投げかけていた。ラフテリアの言葉に意味など無いという視線だった。
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