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27章 魔人と神人

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「あら?何処かに行っていると思ったら、案外早く戻ってきたのね」

 エリザベートは意外だと言う感じで立ち上がり、ホラーのようにドアノブだけが、ガチャガチャと鳴り響いている扉に向かっていく。

 案外早くということは、ラフテリアとロビンが出かけると中々戻ってこないということだろうか。
 いや、そうなのだろう。今まではラフテリアがロビンの頭部を持っていたのだ。ラフテリアの性格から、気になったところに直行していき、戻ってこないことがあったと推測できる。
 だが、今はロビンがラフテリアを引っ張って行くことで、行動の制御ができているということなのだろう。

 エリザベートは扉の前に立って言葉を放つ。

「壊れそうだわ。手を離してもらえるかしら?」

 するとホラーのように絶え間なく動いていたドアノブがピタリと止まる。そして、止まったドアノブをエリザベートは掴んで中から扉を開いたのだ。

 黒髪の少女がエリザベートに突進するように外から入ってくる。

「エリー!エリー!エリー!」

 ラフテリアはエリザベートに抱きつき叫んでいる。これは突然世界の記憶に還ってしまったエリザベートに対して、思うことがあったのだろう。

「神様にね。会ったの!凄いの!私を愛してくださったの!」

 いや、違った。白き神がこの地に降臨したことに対して興奮しているのが、まだ収まらないらしい。

 それから白き神はラフテリアを愛しているとは言ってはいない。言葉にしたことは『存在を否定しない』だ。
 こうして神の言葉は歪められていくのだろう。

「そんな事を白き神が言ったのかしら?」

 エリザベートは神々に対していい印象は持ってはおらず、ラフテリアの言葉に疑問を投げかける。それは本当に白き神の言葉なのかと。

「正確には魔人という存在を認めるということだね」

 ラフテリアの後ろから苦笑いを浮かべたロビンが現れる。きっと道中も白き神に祈りを捧げ続け、時間が経つとそれが興奮に変わっていったのだろう。
 また、直接白き神から神言を賜ったと。

「ああ、そういうことね。神が個人にどうこう言うなんて、よっぽどの事ですもの」

 神が個人的に言葉を言う。エリザベートの言葉にシェリーの椅子と化しているカイルが首を傾げた。聖女となれば個人的に神々と関わるものではないのかと。

「シェリー。聖女となれば神々から祝福をもらったと言っていたけれど、それは個人に言うことには当てはまらないのかな?」
「あれは神々が好き勝手に愚痴を言ってきただけです」

 シェリーは神々を貶す言葉を平気で口に出す。敬う気持ちなど微塵もないという風にだ。

「モルテ神が黒の聖女に頼み事をするぐらいだ。黒の聖女は今までの囚われるだけの聖女共とは違うのだろう」

 モルテ王は、死の神モルテが国の民たちの現状を愁いて、シェリーに頼み事をすることは普通ではないと言う。神が何か頼み事を言葉にする。それはあり得ないことだと。

 皮肉めいた笑みを浮かべ、ツガイに囚われ続けられた聖女たちを揶揄った。
 いや、初代聖女を囚えていた己の愚かさを嘲笑ったのだろうか。

「しかし、アレはどうなっている?何故、身体があるのだ?」

 そして、モルテ王はロビンに視線を向けて、シェリーに尋ねる。ラフテリアに愛しい者を見る視線を向けて、二本足で立っているロビンを見ているのだ。

 あの者の肉体は己が奪ったものだと。

 モルテ王は確信しているようにシェリーに尋ねたのだ。お前が関わっているのだろうと。

 その答えをシェリーは勿論知っている。だが、これをモルテ王に言って良いのか躊躇した。

 モルテ王とマリートゥヴァとの間に繋がりが無いことは、シェリーの目で見れば確認できた。しかし何がモルテ王の逆鱗に触れるかわからない。
 いや、この4人の関係性がいまいち理解できないでいた。


 王太子であったモルテ王を殺したラフテリア。

 王太子と聖女の婚姻のため殺されたつがいのロビン。

 ラフテリアに殺されたエリザベート。

 つがいであるロビンの死に絶望し、世界の全てを呪い、悪心を取り込んで魔人化したラフテリア。



 そのラフテリアに首だけで世界に繋ぎ止められたロビン。

 赤き女神の神言により、ラフテリアの手によって生き返ったエリザベート。

 魔女の実験の様に、別の人物の身体を得て、モルテ神とオスクリダー神の手によって生まれ変わったルナティーノ・トールモルテと名を与えられたモルテ王。


 殺した者。殺された者。
 生を与えた者。生を与えられた者。

 全てが入り混じり、混沌とした関係なのだ。

 よくわからない身のシェリーが口を挟むと、よくない方向に転がる可能性もある。
 モルテ王が住む城にエリザベートの資料があるのだ。下手なことは口には出せない。

「ロビン様」

 シェリーは全てをロビンに投げつけた。本人同士で話して欲しいと。

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