上 下
673 / 775
27章 魔人と神人

660

しおりを挟む

「ちょっと聞き捨てならない言葉があったが?」
「そうよ!ルティーが神人って無いわ!」
「いや、そこではなくて、白き神と会ったということだ」
「神と会うことぐらいあるでしょ!こんな悪魔の化身のような。ルティーを神人だなんて認めないわ」
「神と会うことが異常だといつも言っているだろう」

「仲がよろしいのですね」

 言い合っている魔女と死の王にシェリーは呆れたように言う。

「いい加減に本題に入っていいでしょうか?」
「良くないわよ!」
「良くない!」

 いつまで経っても、話が脱線していることにシェリーはため息を吐き出した。シェリーにとっては口論する程のことではないので、先に話を進めたいと。

「はぁ。私は聖女ですから、神の声を聞いたりお会いすることはあります。それから、神自ら手を加えて作り出された者であるなら、神人と言っていいでしょう。我々ラースも女神ナディア様の血が入った神人です。ロビン様も白き神から肉体を得て、神人と成った。ならば、モルテ神とオスクリダー神から作り出されたモルテ王も神人です」

 シェリーの言葉に言い合っていた二人は黙って考え深い表情をしている。言われてみればそうだと。納得できるが、したくないという表情だ。

「納得できたのなら、話を始めますよ」

 シェリーは強引に話を始めた。アーク族が魔人を模して悪魔という存在を作り出したこと。そして、世界を混沌に陥れる魔王という存在を作り出し、先日魔王が再び作り出されたことを白き神から聞いたことを話した。

「相変わらずバカじゃない?」
「はぁ。会話が成り立たない奴らが何をやっているんだ?」

長年生きた魔女と死の王は途中からシェリーの話を呆れるように聞いていた。相変わらず馬鹿なことをしていると。 

「やっぱり、もっと島を落とした方がよかったかしら?」
「俺も一つ落としたぞ」
「そうよね。馬鹿な鳥を黙らすのなら、巣を落とすのが一番よね」

 魔女と死の王の話から、いくつか島を落としたと予想できた。その言葉にシェリーは考えるように視線を斜め上に向けた。

「あの?エリザベート様。空島が何かしらの魔術の陣を構成しているという結論に至ったと思うのですが、それだと既に魔術の陣が機能していない可能性がありますよね」

 そう、大陸の南側は移動する空島は存在していない。そして、北側にはいくつか空を移動する空島が存在している。それは心というものを具現化し、力として動力源に使用するためのものだ。
ただ、ここまで大規模だと、それだけとは言い切れない。他に機能があってもおかしくはない。

「その島を落としたとなると、何か空島で不具合が起こっていてもおかしくは無いですよね」

「別にいいと思うわ」
「いい気味だ」

 何があったかはわからないが、アーク族は相当二人から嫌われているようだ。

「お二人は関係が無いことでしょうが、魔王やら悪魔やら作り出すようになったのは、アーク族の願いである永遠に生きるという何かに不具合が生じたのではないのでしょうか?」

「うーん?あれか?俺が呪いを受けたきっかけの島か?」

 モルテ王には何か心当たりがあるようだ。モルテ王が正気を失うほど狂気に苛まれた呪い。

「ちょっとした小競り合いで腹が立って、夜にしかわからない小さくてキラキラ光る島を落としたんだが、あの時は本当にあいつら怒り狂っていたな」

 それは、ほとんどが夜と言っていいモルテ国でも、本当の夜が来なければわからないほど、小さすぎて地上からは空島と認識されない大きさだったのだろう。シェリーが空島の残骸をカイルに指摘されなければ、気づかなかったぐらいに小さな島。

「まぁ、小さすぎて地上からぶつけた地面に埋もれてわからなくなってしまったがな」

 この話はモルテ王の逸話に出てきた話ではないのだろうか。狂った死の王が村ごと地面を持ち上げて、空に投げつけたと。これは事実と逸話と食い違っている。モルテ王の話からすれば、まだ呪いを受けていない正気だった頃の話だ。
しかしこれも仕方がない。モルテ国は死の国。夜が明けない死の神と闇の神の祝福を得た国なのだ。そこを行き来する者も少なく、いつしか話が歪んで伝わっていったのだろう。

「あら?そんな島があったの?私知らなかったわ」
「所詮、島の残骸か何かだったのだろう」

 空島の知識をもつエリザベートでも知らない島があったようだ。ただ、モルテ王もあまりにも小さい島だったので、島の残骸と決めつけていた。

「あの?エリザベート様がご存知でないとすれば、アーク族の中でも重要施設だった可能性はないのですか?」

 アーク族の中でも一般的に知られてはいない場所。となれば、エリザベートが知っていなくても納得できる。他の者には知られることを避け、秘密にすべき場所。

 もし、これがエリザベートが居場所を知らないシュロス王の島だったとすればどうだろう。
 永遠を具現化した王が地上に落ちてしまったとしたら、彼らの信仰心とシュロス王の永遠という言葉が、揺らいでしまうことになるのでは、ないのだろうか。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。 「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。 命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの? そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

処理中です...