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27章 魔人と神人
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しおりを挟む「このお茶っ葉……使えるかしら?」
棚にいくつも陶器が並べられている中の一つを取って、怪しいことを言っている。そのエリザベートに対して、ダイニングテーブルの上にシェリーはカバンからティーセットを取り出す。エリザベートは部屋の中を物色しているが、他の4人は席についていた。
「お腹を壊したくないので、お茶と菓子はこちらで出します」
「あら?それは助かるわ。この家には千年ほど寄っていなかったもの……私が死んでからどれぐらい経ったか知らないけれど」
エリザベートの言葉が本当だとすれば、この場所は二千年以上は手つかずだったということだ。このラフテリア大陸にある魔女の家がだ。
「お茶は俺が淹れよう。冷たい方がいいだろう?」
この地は今現在ま夏真っ盛りだ。魔女の家の中は過ごしやすい室温になっているが……いや、先程までシェリーが出した白い炎で室内が熱せられていたのだ。それは涼みたい気分にもなる。
カイルにお茶を入れてもらっている間にシェリーは5人分の皿を出し、クッキーやチョコレートなどを並べ、差し出した。
「わぁ!黒いお菓子って初めてみたよ!ロビン、お揃い!」
普通なら嫌がる色をしているチョコレートにラフテリアは一番に反応し、手で掴んで嬉しそうにしている。
「ラフテリア様。それは溶けるので、早めに食べてください」
すると慌てて食べたラフテリアの魔力が大きく揺れた。その揺れにロビンとエリザベートが慌てて構える。
ラフテリアが暴れると魔女の家だとしても、ただでは済まない。
「お……おいしぃぃぃぃ!なにこれ!甘くて美味しい!もっと欲しい!六番目!もっと欲しい!」
チョコレートが気に入ったようだ。食べたことがない美味しい食べ物に魔力の制御がおろそかになったらしい。シェリーはラフテリアの皿に追加のチョコレートを置く。
その間にカイルは皆の前にティーカップを置いた。お茶を淹れるには短時間すぎるが、色味としてはお茶の色をしている。
「あら?食べたことがない食べ物ね」
「本当だね」
エリザベートとロビンは普通にシェリーが出したお菓子を食べている。黒いお菓子に忌避感は無いようだ。
「聞きたいことはアーク族の在り方と空島の内情です」
お菓子を食べ、冷たいお茶を飲み小腹を満たしたぐらいに、シェリーはエリザベートに話しかけた。
世界の記憶でしかない存在が肉体を持ち、食事をしている風景は黒狼クロードで見慣れたとは言え、違和感があるのは拭えない。
しかし、満足したエリザベートは機嫌よく、話しだす。
「アーク族はね。基本的に馬鹿なの」
馬鹿。それは何を指して馬鹿と言っているのだろう。
「彼らは神の使徒だと自負しているわ。でも、神の宴の肴にされているなんて、露程にも思ってないのよ」
いや、これはエリザベートの主観だった。女神ナディアに弄ばれた運命をたどったと思いこんでいるエリザベートは、女神ナディアを憎んでいた。
しかし、運命とは残酷なものだ。神々が拠り所としたグローリア国がエリザベートの終の国となってしまった。
「神々は矮小な我々を嘲笑っているのよ」
「エリー。神様は素晴らしいんだからね」
エリザベートの神否定をラフテリアの神肯定の言葉が被さる。仲が良さそうな二人だが、絶体的に受け入れられないことはあるようだ。
「ラフテリアもロビンも神々の運命に翻弄されたというのに、それを疑いもしない。こんな風にアーク族も白き神を崇めているのよ」
例えとして引き合いに出されたラフテリアは頬を膨らませ、ロビンは苦笑いを浮かべている。この二人の相反する意見はいつものことだと言わんばかりに。
「一人、懇意にしていたアーク族がいてね。偏屈ババァは気がついていたわ。アーク族の愚かしさをね。私はどこにいるかは知らないけれど、アーク族の王が居るらしいの。永遠に生きている王らしいわ」
「永遠」
永遠という言葉にシェリーは引っかかった。シェリーが見せられた記憶の断片の男が言っていた。永遠に生きると。しかし、あれは永遠に生きているとは言わない。ただの魔導兵器だ。
「白き神の使徒であり、アーク族をアーク族にした王らしいわ」
アーク族をアーク族に?それはアーク族は元々アーク族という存在ではなかったと言っているようだ。
「どういう意味なのですか?」
「あら?気づかなかったの?あの島の内部を見て」
島の内部。異世界の仕様をそのまま用いたような内部構造。
「元々は地上の物だったということですか?」
「そうよ。ねぇ。おかしいとは思わない?大陸が二つしかないのよ?人が生きる場所がもっとあってもいいと思わない?あ、竜人が住まうところは別ね」
神がそう創ったのであれば、そうなのだろう。普通は何も疑問にも思わない。
「勿論、元々の空島は存在するわよ。竜人の国のように、神がそのように作った空島。それは神がそうあるように決めたから動かないのよ」
動かない。その言葉にシェリーは目を見開く。空島とは移動するという常識が非常識だったのだ。
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