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27章 魔人と神人

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 大魔女エリザベートのことを、グローリア国の祖とオリバーが言っていたということは、グローリア国の王族に嫁したということだ。
 ただ、それが番であったというだけだ。

 シェリーはロビンの後を追うように、玄関扉をでながら、言葉にする。

「これはナディア様から教えられたことなのですが、いつまでも愛し子がすねているのが可哀想だから、番と強制的に会わせたらしいです」

 シェリーはとても嫌そうに言った。それはシェリー自身にも降り掛かったことである。番に強制的に出会わされれば、いくらシェリーが否定しようが、5人の番がシェリーを囲い込むようにシェリーの屋敷に居座っている事実。
 それが、大魔女エリザベートの身にも起こったと。

 玄関を出て、木の根に絡みつかれた小屋のような建物を横目に、シェリーとカイルはロビンとラフテリアの背中を追っていく。
 ここで過ごした大魔女エリザベートは何を思い、ここでロビンとラフテリアと共に過ごしたのだろうか。
 アレクという婚約者と仲違いし、己を殺したラフテリアと共に過ごそうと思った心境は、まともであったとは思えない。

 だから、あの呪詛のような落書きが残っているのだろう。

「その辺りはオリバーに聞けばわかるんじゃないのかな?」

 大魔女エリザベートを己の祖というぐらいだから、名ぐらい覚えているだろうと。 

「オリバーは王族の血筋ですが、王族ではありません。詳しく知っているかどうか……それに王族は最初に加護を得た神から名をもらう風習があったそうです」

「変わった風習だね。いや、ラースの名を名乗りたくなかったからかな?っということは、始まりの王がラースならグローリア国の王族もラースの名を持っているんじゃないのかな?」

 カイルの説も一理ある。元々はラースの公族から始まったのであれば、その名を隠す為に神から名を与えてもらったという説。だが、何のために名を隠す意味があったのか。

「ほら、オリバーもルークに女神ナディアの加護が一番強くて大きいみたいなことを言っていなかった?オリバー自身も女神ナディアの加護があるって……あっただったね」

 確かにオリバーはその身に女神ナディアの血族を示す印は現れないようにされているが、女神ナディアの加護は受けていたと。

「だったら、オリバー・カークスの間にラースの名が入っていてもおかしくはないよね。確か、以前オーウィルデイア殿がラースから外すという言葉を使っていたから、ラースという名は重要な名前じゃないのかな?」

 女神ナディアとその想い人のラースの血を引くグローリア国の王族。ラースの名は女神ナディアにとって特別の名だ。
 生まれ落ちた時に、神の中でも力を持つ女神ナディアからの加護を受け取り、別の神に与えられた名でラースの名を上書きする。その事により女神ナディアの血族である印が消えるというのであれば、赤き魔女はラースの名を名乗り続けていた可能性があるのではないのか。

 シェリーの中では瞬時に一つの仮説を立てた。
 確かに神からの印を消すことは普通はできない。シェリーが幼い双子の妹に対し魔眼を封じたのも女神ナディアとラースの名を用いて封じたのだ。
 ならば、他の神から与えられた名で力を封じるまではいかないももの、女神ナディアの血族という印は消すことができるのではないのか。

「カイルさん。それは思ってもみませんでした。凄いです」

 シェリーはカイルの言葉に感心して、素直に褒めた。
 褒められたカイルは一瞬、あまりにも聞き慣れないシェリーの言葉に思考を停止してしまったが、直ぐにシェリーに褒められたことを理解し、満面の笑みを浮かべる。

「お役に立てて嬉しいよ。お礼はシェリーからのキスでいいよ」

「しませんよ」

「恥ずかしがらなくていいよ」

「その説どこまで引っ張る気ですか?」

 シェリーはため息を吐いて、少し褒めただけで調子に乗ったカイルを横目で見る。シェリーを独り占めしていることで、機嫌がいいのは問題ないが、チラチラ見え隠れする独占欲が、シェリーは鬱陶しいとため息を吐くのだ。

「じゃ、彼女みたいに抱きついてきて欲しいな」

 彼女とは勿論ラフテリアのことだ。ロビンと共に歩くことが嬉しいのか、ロビンの周りを回って飛びついている。

 シェリーにあれをしろということなのだろう。両手を広げて構えているカイルをシェリーはジト目で見た。

「嫌ですよ」

 シェリーにはカイルに抱きつくという選択肢は始めから存在しない。あのオリバーに泣きつく劣化版シェリーに対しても、あれは普通はしないとけなしたほどだ。

「あれも駄目。これも駄目ってシェリーはわがままだなぁ」

「はぁ。わがままではなく、私が絶対にしないことをわかって、言っていますよね」

 ため息交じりのシェリーの言葉に、カイルはクスクスと笑い始めた。

「わかっているけど、もしかしたら俺を認めてくれたかもって、期待ぐらいしてもいいよね」

 期待。それは己を頼れる存在だと認められたのであれば、ツガイとしても認められたのではという、カイルの淡い期待のことだった。
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