650 / 775
27章 魔人と神人
637
しおりを挟む
大魔女エリザベートのことを、グローリア国の祖とオリバーが言っていたということは、グローリア国の王族に嫁したということだ。
ただ、それが番であったというだけだ。
シェリーはロビンの後を追うように、玄関扉をでながら、言葉にする。
「これはナディア様から教えられたことなのですが、いつまでも愛し子がすねているのが可哀想だから、番と強制的に会わせたらしいです」
シェリーはとても嫌そうに言った。それはシェリー自身にも降り掛かったことである。番に強制的に出会わされれば、いくらシェリーが否定しようが、5人の番がシェリーを囲い込むようにシェリーの屋敷に居座っている事実。
それが、大魔女エリザベートの身にも起こったと。
玄関を出て、木の根に絡みつかれた小屋のような建物を横目に、シェリーとカイルはロビンとラフテリアの背中を追っていく。
ここで過ごした大魔女エリザベートは何を思い、ここでロビンとラフテリアと共に過ごしたのだろうか。
アレクという婚約者と仲違いし、己を殺したラフテリアと共に過ごそうと思った心境は、まともであったとは思えない。
だから、あの呪詛のような落書きが残っているのだろう。
「その辺りはオリバーに聞けばわかるんじゃないのかな?」
大魔女エリザベートを己の祖というぐらいだから、名ぐらい覚えているだろうと。
「オリバーは王族の血筋ですが、王族ではありません。詳しく知っているかどうか……それに王族は最初に加護を得た神から名をもらう風習があったそうです」
「変わった風習だね。いや、ラースの名を名乗りたくなかったからかな?っということは、始まりの王がラースならグローリア国の王族もラースの名を持っているんじゃないのかな?」
カイルの説も一理ある。元々はラースの公族から始まったのであれば、その名を隠す為に神から名を与えてもらったという説。だが、何のために名を隠す意味があったのか。
「ほら、オリバーもルークに女神ナディアの加護が一番強くて大きいみたいなことを言っていなかった?オリバー自身も女神ナディアの加護があるって……あっただったね」
確かにオリバーはその身に女神ナディアの血族を示す印は現れないようにされているが、女神ナディアの加護は受けていたと。
「だったら、オリバー・カークスの間にラースの名が入っていてもおかしくはないよね。確か、以前オーウィルデイア殿がラースから外すという言葉を使っていたから、ラースという名は重要な名前じゃないのかな?」
女神ナディアとその想い人のラースの血を引くグローリア国の王族。ラースの名は女神ナディアにとって特別の名だ。
生まれ落ちた時に、神の中でも力を持つ女神ナディアからの加護を受け取り、別の神に与えられた名でラースの名を上書きする。その事により女神ナディアの血族である印が消えるというのであれば、赤き魔女はラースの名を名乗り続けていた可能性があるのではないのか。
シェリーの中では瞬時に一つの仮説を立てた。
確かに神からの印を消すことは普通はできない。シェリーが幼い双子の妹に対し魔眼を封じたのも女神ナディアとラースの名を用いて封じたのだ。
ならば、他の神から与えられた名で力を封じるまではいかないももの、女神ナディアの血族という印は消すことができるのではないのか。
「カイルさん。それは思ってもみませんでした。凄いです」
シェリーはカイルの言葉に感心して、素直に褒めた。
褒められたカイルは一瞬、あまりにも聞き慣れないシェリーの言葉に思考を停止してしまったが、直ぐにシェリーに褒められたことを理解し、満面の笑みを浮かべる。
「お役に立てて嬉しいよ。お礼はシェリーからのキスでいいよ」
「しませんよ」
「恥ずかしがらなくていいよ」
「その説どこまで引っ張る気ですか?」
シェリーはため息を吐いて、少し褒めただけで調子に乗ったカイルを横目で見る。シェリーを独り占めしていることで、機嫌がいいのは問題ないが、チラチラ見え隠れする独占欲が、シェリーは鬱陶しいとため息を吐くのだ。
「じゃ、彼女みたいに抱きついてきて欲しいな」
彼女とは勿論ラフテリアのことだ。ロビンと共に歩くことが嬉しいのか、ロビンの周りを回って飛びついている。
シェリーにあれをしろということなのだろう。両手を広げて構えているカイルをシェリーはジト目で見た。
「嫌ですよ」
シェリーにはカイルに抱きつくという選択肢は始めから存在しない。あのオリバーに泣きつく劣化版シェリーに対しても、あれは普通はしないと貶したほどだ。
「あれも駄目。これも駄目ってシェリーはわがままだなぁ」
「はぁ。わがままではなく、私が絶対にしないことをわかって、言っていますよね」
ため息交じりのシェリーの言葉に、カイルはクスクスと笑い始めた。
「わかっているけど、もしかしたら俺を認めてくれたかもって、期待ぐらいしてもいいよね」
期待。それは己を頼れる存在だと認められたのであれば、ツガイとしても認められたのではという、カイルの淡い期待のことだった。
ただ、それが番であったというだけだ。
シェリーはロビンの後を追うように、玄関扉をでながら、言葉にする。
「これはナディア様から教えられたことなのですが、いつまでも愛し子がすねているのが可哀想だから、番と強制的に会わせたらしいです」
シェリーはとても嫌そうに言った。それはシェリー自身にも降り掛かったことである。番に強制的に出会わされれば、いくらシェリーが否定しようが、5人の番がシェリーを囲い込むようにシェリーの屋敷に居座っている事実。
それが、大魔女エリザベートの身にも起こったと。
玄関を出て、木の根に絡みつかれた小屋のような建物を横目に、シェリーとカイルはロビンとラフテリアの背中を追っていく。
ここで過ごした大魔女エリザベートは何を思い、ここでロビンとラフテリアと共に過ごしたのだろうか。
アレクという婚約者と仲違いし、己を殺したラフテリアと共に過ごそうと思った心境は、まともであったとは思えない。
だから、あの呪詛のような落書きが残っているのだろう。
「その辺りはオリバーに聞けばわかるんじゃないのかな?」
大魔女エリザベートを己の祖というぐらいだから、名ぐらい覚えているだろうと。
「オリバーは王族の血筋ですが、王族ではありません。詳しく知っているかどうか……それに王族は最初に加護を得た神から名をもらう風習があったそうです」
「変わった風習だね。いや、ラースの名を名乗りたくなかったからかな?っということは、始まりの王がラースならグローリア国の王族もラースの名を持っているんじゃないのかな?」
カイルの説も一理ある。元々はラースの公族から始まったのであれば、その名を隠す為に神から名を与えてもらったという説。だが、何のために名を隠す意味があったのか。
「ほら、オリバーもルークに女神ナディアの加護が一番強くて大きいみたいなことを言っていなかった?オリバー自身も女神ナディアの加護があるって……あっただったね」
確かにオリバーはその身に女神ナディアの血族を示す印は現れないようにされているが、女神ナディアの加護は受けていたと。
「だったら、オリバー・カークスの間にラースの名が入っていてもおかしくはないよね。確か、以前オーウィルデイア殿がラースから外すという言葉を使っていたから、ラースという名は重要な名前じゃないのかな?」
女神ナディアとその想い人のラースの血を引くグローリア国の王族。ラースの名は女神ナディアにとって特別の名だ。
生まれ落ちた時に、神の中でも力を持つ女神ナディアからの加護を受け取り、別の神に与えられた名でラースの名を上書きする。その事により女神ナディアの血族である印が消えるというのであれば、赤き魔女はラースの名を名乗り続けていた可能性があるのではないのか。
シェリーの中では瞬時に一つの仮説を立てた。
確かに神からの印を消すことは普通はできない。シェリーが幼い双子の妹に対し魔眼を封じたのも女神ナディアとラースの名を用いて封じたのだ。
ならば、他の神から与えられた名で力を封じるまではいかないももの、女神ナディアの血族という印は消すことができるのではないのか。
「カイルさん。それは思ってもみませんでした。凄いです」
シェリーはカイルの言葉に感心して、素直に褒めた。
褒められたカイルは一瞬、あまりにも聞き慣れないシェリーの言葉に思考を停止してしまったが、直ぐにシェリーに褒められたことを理解し、満面の笑みを浮かべる。
「お役に立てて嬉しいよ。お礼はシェリーからのキスでいいよ」
「しませんよ」
「恥ずかしがらなくていいよ」
「その説どこまで引っ張る気ですか?」
シェリーはため息を吐いて、少し褒めただけで調子に乗ったカイルを横目で見る。シェリーを独り占めしていることで、機嫌がいいのは問題ないが、チラチラ見え隠れする独占欲が、シェリーは鬱陶しいとため息を吐くのだ。
「じゃ、彼女みたいに抱きついてきて欲しいな」
彼女とは勿論ラフテリアのことだ。ロビンと共に歩くことが嬉しいのか、ロビンの周りを回って飛びついている。
シェリーにあれをしろということなのだろう。両手を広げて構えているカイルをシェリーはジト目で見た。
「嫌ですよ」
シェリーにはカイルに抱きつくという選択肢は始めから存在しない。あのオリバーに泣きつく劣化版シェリーに対しても、あれは普通はしないと貶したほどだ。
「あれも駄目。これも駄目ってシェリーはわがままだなぁ」
「はぁ。わがままではなく、私が絶対にしないことをわかって、言っていますよね」
ため息交じりのシェリーの言葉に、カイルはクスクスと笑い始めた。
「わかっているけど、もしかしたら俺を認めてくれたかもって、期待ぐらいしてもいいよね」
期待。それは己を頼れる存在だと認められたのであれば、ツガイとしても認められたのではという、カイルの淡い期待のことだった。
10
お気に入りに追加
1,016
あなたにおすすめの小説
婚約者が最凶すぎて困っています
白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。
そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。
最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。
*幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。
*不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。
*作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。
*カクヨム。小説家になろうにも投稿。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!
鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……!
前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。
正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。
そして、気づけば違う世界に転生!
けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ!
私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……?
前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー!
※第15回恋愛大賞にエントリーしてます!
開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです!
よろしくお願いします!!
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します
陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。
「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。
命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの?
そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる