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27章 魔人と神人

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 翌朝、カイルとシェリーは、猛吹雪の海岸線に立っていた。背後は黒い海が荒れ狂うように陸に打ち付けている。
 このような天候では、流石にいつもの外套だけでは凍死してしまうので、シェリーはオリバー作の保温機能を有した毛皮の分厚い外套を身にまとっていた。
 吹雪と寒さから身を守るためにフードをかぶってはいるが、そのフードの奥に見えるシェリーの目に生気は無かった。逆にカイルが機嫌がいいことから、天空神シエロのイタズラ……好意が何かしら影響を及ぼしたのだろう。

「シェリー。いつまでここにいるのかな?」

 カイルがシェリーに積もった雪を払いながら聞く。この場所に転移をしてから、シェリーは一歩も動かず、八半刻15分も留まり続けているのだ。

「来るのを待っているだけです」

 待っている。誰かといえば、勿論この地の実質的に支配しているラフテリアのことだ。いや、ラフテリアはここにいる者たちを統率しているわけでなく、ロビンが口出しをしていると言って良い。
 話を通すのであればロビンに……

「わかるけど、以前行った町に転移するのでは駄目だったのかな?」

 以前行った町というのは、ミゲルロディアが統治者として任されていた町のことだ。そこであれば、この吹雪を防げる屋根がある場所に、身を置くことができたのではないのかということだろう。

「それは侵入者として排除されても文句が言えないので、駄目です」

「侵入者?」

 カイルはシェリーの言っている意味がわからず首を傾げている。シェリーは魔人ラフテリアとも剣聖ロビンとも顔見知りのため、排除対象にはならないはずだ。

「ラフテリア様に常識は通じません」

 シェリーは一言でカイルの疑問に答える。顔見知りだからといって排除対象にならないという絶対的な確証がないということだ。それだけ魔人ラフテリアの性格が歪んでいるとも言える。

「ここは始まりの場所だそうです」

 シェリーは黒い波が打ち寄せる海岸線を横目で見る。

「ここに彼らの町があったということ?」

「いいえ、ラフテリア様とロビン様にとって悪夢の始まりの場所。外から来る者は必ずこの地からやってくる。そう認識されているようです。まぁ、実際のところカウサ神教国の船がここにたどり着いて、転移の座標がこの場所しか得られなかったというだけですが」

「だから、魔人となった者はこの場所にしか転移されてこなかったということか」

 カイルは納得はしたものの、やはりこの場に留まり続けることに否定的なのか。シェリーをスッと抱き上げた。

「なっ!」

 カイルの予想外の行動にシェリーは慌てて雪の地面に降りようとするも、カイルはそのままサクサクと雪の中を歩き始める。

「で、彼らはこちらには向かって来ているのかな?」

 その言葉にシェリーは右斜め上を見る。その視線の先にはカイルの顔があるが、勿論カイルに視線を向けたわけではない。常時展開しているマップ機能を確認しているのだ。

「そうですね。どうも南側から向かって来ていますね」

 南側ということは、この大陸の南側から最北にあたるシェリーたちのいる場所まで移動しているのだろう。

「ん?そう言えば、剣聖の彼は転移が使えていたと思うのだけど、転移移動してこないんだね」

 カイルの言う通り、剣聖ロビンはシェリーたちが住まう大陸に転移でやってきて、転移して帰って行った。ならば、転移移動が可能なはずだ。
 しかし、シェリーの言い方では自分たちの足で移動してきているように聞こえる。いや、実際に以前この大陸を訪れたときも、魔人ラフテリアが爆走する速さで、シェリーたちの前に現れた。ミゲルロディアが住まう町への案内も徒歩移動であった。

「さぁ。私には彼らの考えはわかりませんので……」

 魔人であるラフテリアの考えも、その番として運命づけられた剣聖ロビンの考えなど理解できないとシェリーは口にしつつ、マップ上の大陸を北上している二つの丸い印を追っている。
 この分だとあと半刻一時間ほどで、最北の地に到着しそうだと、シェリーが判断した瞬間。視界が陰った。

 『ちゅっ』というリップ音と共に唇に柔らかい感触が触れる。

「かわいいなぁ。シェリー、このまま二人しか居ないところに行かないか?」

 カイルはまだ諦めてはいなかった。いや、竜人族の番への想いは、他の種族よりも突出し、逸脱している。
 そんな竜人族のカイルは、オリバーとシェリーの所為で長年……十八年という歳月の間、番への渇望に苦しめられてきたのだ。それはシェリーへの独占欲は計り知れない。

 しかし、そんなカイルの思いを知ってか知らずか、シェリーの答えは決まっている。

「嫌です」

 勿論、シェリーがそう答えるのもカイルは折込済だ。カイルは否定されたにも関わらず、ニコニコと機嫌がいい。

「このまま二人で旅をするのも良いよね」

 何故なら、今は己だけのシェリーつがいを十分に堪能出来ているからだった。

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