上 下
634 / 775
26章 建国祭

621

しおりを挟む

「それは完全体の悪魔がダンジョン産だったということですね」

 シェリーはとても大まかな言い方をした。間違いではない。間違いではないが、些か問題発言と言って良い言いかただった。

「佐々木さん。その説明では理解も何もできないが?」

 もちろんシェリーに突っ込んだのは炎王だ。そして、白い板の向こう側ではイーリスクロムのため息が聞こえてくる。

「という、理解不能なことが起きているのに、情報の共有がされていないとはどういうことなのでしょうか?」

 シェリーは結局のところ、イーリスクロムに直接報告したにも関わらず、何も対策がされていないことを言いたいのだった。

『では君はどうやって情報を各国に伝えるのか聞いてみたいね。騎獣で移動するのにも限度がある。我々はエルフ族ではないのだよ』

 イーリスクロムは何事にも限界はあると言葉にする。そして、大陸の殆どを支配下に治めたエルフ族は、転移門という高度な技術を使って、広い領土をカバーしていった。そんなエルフ族とは一緒にしないで欲しいと言っているのだ。

「では、聖女云々の話はどうやって各国と話をつけていたのですか?」

 言われてみればそうだ。イーリスクロムは聖女をお披露目する為の場を設けると言っていた。ならば、その情報の通達はされているはず。

『はぁ。聖女の事は、それこそシャーレン精霊王国の管轄になる。我が国で聖女を囲う代わりに、各国への通達は教会を通して行われている』

 教会が存在する国はエルフ族を通して、情報が伝えられている。となれば、そこに疑問が出てくるのは必然的だ。

「それはもしかして、教会がない国には聖女云々は通達されていないということですか?」

 シェリーは白い板に向かって質問しながら、この場にいる二人の国主に視線を向けた。
 そう、炎国は光の女神を崇めているため、教会は存在しないし、黒を排除するきっかけになった白き神を主として掲げる教会の意を聞き入れるとも思われない。
 そして、ラース公国は女神ナディアを崇めている国だ。だからといって教会が無いかと言えば、存在する。それは、一番上座に座っているミゲルロディアの第一夫人だった者がエルフ族であったがために、作られたものだった。
 ならば、このあたりは伝わっているのだろうか。

「因みにお披露目の日は決まったのですか?」

『それは勿論、花の月の一日だ』

 イーリスクロムの答えにシェリーは炎王に視線を向け、どうだと無言の視線で問いかけてみるも、首を横に振って耳には入っていないことを表した。
 次いでミゲルロディアに視線を向ければ……。

「私は聞いておらぬな。しかし、国を離れていたが故に、耳に入っていないだけかもしれぬ」

 ミゲルロディアはそう言いながら、自分が居なかったときに大公代理であった、オーウィルディアに視線を向けるも、首を横に振られるしまつ。

「くそ狐。他人任せにしているツケが回ってきていますよ。炎国もラース公国も話は聞いてないそうです」

『え?それは困る』

 困るというのは勿論、聖女自身であるシェリーとそれなりに関係がある国であるからだ。今回はシェリーの我儘で聖女としてはギルドを通さなければ動かないと言っている。ただこれが聖女の我儘というのであれば、各国は受け入れられない。しかし、その後ろにラース公国や炎国がついているのであれば、話は別だ。

 聖女の後ろには鬼の国と言われる炎国。5千年間もの長きに渡って国を維持してきたラース公国。

 その国が聖女であるシェリーの言葉に準じているということが各国に多大なる好意的な印象を与えるのだ。そう、口が少々……かなり悪いシェリーをだ。

「困るのであれば、さっさと動いてください。確か転移門を使えるのでしたよね。イーリスクロム国王陛下」

 シェリーは貶している呼び方から、とても丁寧な名の呼び方に変えたが、聞き間違いようもなく一国の王をパシリにしようとしている。

『転移門を使えるのは否定しないけどね。一国の国王自ら動くのはありえないからね』

 一国の国王をパシリにすること自体がおかしいといわれたシェリーは、すぐさまイーリスクロムに言葉を返す。

「炎王は色々動いていますよ」

『そこは違うと思う』
「いつも言っているが俺は暇ではないからな。佐々木さん」

 二人から否定的な言葉を投げつけられたシェリーは大きくため息を吐く。

「はあぁ。事態は深刻だとミゲルロディア大公閣下が結論付けました。くそ狐の脳みそは腐っているのですか?今日のことをただ単に次元の悪魔が現れただけと捉えているのですか?」

『ただ単にとは思ってはいない。とは言っても現状ではどうしようもないだろう?』

 流石に一度に十体の次元の悪魔が襲撃してくれば、何かあると思って当然のこと。しかし、現状では何ができるのかといえば、何もできることはないとイーリスクロムは口にしたのだった。


しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。 「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。 命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの? そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり
恋愛
異世界転生した記憶をもつリアリム伯爵令嬢は、自他ともに認めるイザベラ公爵令嬢の腰ぎんちゃく。  今日もイザベラ嬢をよいしょするつもりが、うっかりして「王子様は理想的な結婚相手だ」と言ってしまった。それを偶然に聞いた王子は、早速リアリムを婚約者候補に入れてしまう。  王子様狙いのイザベラ嬢に睨まれたらたまらない。何とかして婚約者になることから逃れたいリアリムと、そんなリアリムにロックオンして何とかして婚約者にしたい王子。  婚約者候補から逃れるために、偽りの恋人役を知り合いの騎士にお願いすることにしたのだけど…なんとこの騎士も一筋縄ではいかなかった!  おとぼけ転生娘と、麗しい王子様の恋愛ラブコメディー…のはず。  イラストはベアしゅう様に描いていただきました。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

処理中です...