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26章 建国祭
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「今回は来てくれて助かった」
先に戻っていたミゲルロディアが、ヴァンジェオ城に来たシェリーたちを出迎えた。外ではフードを被って姿を隠していたが、出迎えたミゲルロディアの姿は国主らしく、洋装を整えた黒髪の青年がその場にはいた。
「私と竜人だけでは対処が遅れ、公都に甚大な被害が出ていたことだろう」
ミゲルロディアはそう言って、目の前のシェリーたちに言ったが、いざとなればミゲルロディアは魔眼を使って次元の悪魔を殲滅していたことだろう。女神ナディアが愛するこの国を汚したモノを始末するのはラースの者としての責務だ。
「食事をしながらでいいから聞いてくれ」
ミゲルロディアが言うように、シェリーたちが通された場所は以前勇者ナオフミたちと共に食事をした広いダイニングである。
外は既に日が落ち、雲の隙間から光を落とす月によって、白くなった街並みを照らしていた。
今まで時間がかかったのは、別にシェリーの浄化に時間がかかったわけではなく、オーウィルディアに情けないと言わんばかりにグレイがしごかれていたのだ。やはり、大型犬が一族の中にいるのは許せなかったのだろう。
ということで冬時間により日の入りが早くなったとはいえ、数時間の間グレイはオーウィルディアに訓練をつけられていたのだった。
テーブルいっぱいに並べられた食事を目の前に、皆が席についたが、以前と違いそのテーブルの半分の席しか埋まっていない。
そんな者たちに視線を向け、ミゲルロディアが続きを話しだした。
「結論から言えば、シェリーミディア。君にラフテリア様とロビン様に数人の魔人をこの国に来てもらえないだろうかと交渉して欲しい」
ミゲルロディアはシェリーと歩きながら話したことを実行に移す決意をしたようだ。
その言葉にオーウィルディアは大きく目を見開き、驚きを顕にしている。これはオーウィルディアに相談無くミゲルロディアが決めたことなのだろう。
「先程も言いましたが、ラフテリア様が興味をお持ちになる可能性があります」
「わかっている。しかし、状況は危機的だと私は判断した」
危機的な状況。確かに一度に次元の悪魔が襲撃してくることは危機的だ。だが、ただ一度だけで危機的と判断するのは早急だと思わざる得ない。
「危機的ですか」
ミゲルロディアの大げさな言葉をシェリーは淡々と繰り返す。
「私は魔王が立ったと考えている」
「兄上!」
ミゲルロディアの言葉にオーウィルディアが立ち上がり、そのような言葉を口にすることではないと言わんばかりに強い口調で、ミゲルロディアを呼んだ。
「オーウィルディア、席につきなさい」
20歳程の外見の兄に40歳程の男が諌められるとは、おかしな風景だが、どうみても人外の兄ではそれもまた、仕方がない。
ミゲルロディアに言われ、渋々席につくオーウィルディア。
「閣下がその様な考えに至ったのは何故でしょうか?」
シェリーはミゲルロディアに尋ねる。
「30年前の始まりは、当時一番勢力を誇っていたグローリアの王都の襲撃だった。たった一体の次元の悪魔に苦戦し、王族が力を奮うことで事を収めた」
勿論、次元の悪魔を倒したのは当時魔導師長であったオリバーだ。ミゲルロディアは王族として認められていないオリバーを王族と認識しているということは、グローリア国の闇の部分も知っていたということだ。
「当時は、敵はグローリア国を抑えておけば、世界を取れると思ったからだろうと考えていた。しかし、魔王の正体は誰であったかと知れば、その見方も変わってくる」
魔王が誰であったか。それは一番初めに襲撃されたグローリア国の第二王子だった。これが意味するところは……。
「グローリア国を潰したかったのだろう」
「え?王位を狙ったんじゃなくて?」
ミゲルロディアに疑問を投げかけたのは、黙々と食事をしていたグレイだった。ミゲルロディアが食事をしていいとは言ったものの、弟であるオーウィルディアは兄であるミゲルロディアの言葉の全てを聞き逃しはしないという姿勢が見られ、シェリーは何ひとつ食事に手をつけてはいない。
カイルは飲み物に手を付けたが、ミゲルロディアの話を聞く姿勢だ。それはスーウェンとリオンにも見られる。
一族の長というべき者が発言しているのだ。それは話を聞くという態度を取るべきだと彼らは認識している。
ただ、グレイとオルクスだけはミゲルロディアの言葉をそのまま受け止め、食事をしていたのだった。そのことに対して、誰も言う事ではないが、誰もが口にはしない常識というモノがあることに、気がついていないということだ。
「あの者に野心というモノは無かった。あったのは国への絶望だったのだろう」
先に戻っていたミゲルロディアが、ヴァンジェオ城に来たシェリーたちを出迎えた。外ではフードを被って姿を隠していたが、出迎えたミゲルロディアの姿は国主らしく、洋装を整えた黒髪の青年がその場にはいた。
「私と竜人だけでは対処が遅れ、公都に甚大な被害が出ていたことだろう」
ミゲルロディアはそう言って、目の前のシェリーたちに言ったが、いざとなればミゲルロディアは魔眼を使って次元の悪魔を殲滅していたことだろう。女神ナディアが愛するこの国を汚したモノを始末するのはラースの者としての責務だ。
「食事をしながらでいいから聞いてくれ」
ミゲルロディアが言うように、シェリーたちが通された場所は以前勇者ナオフミたちと共に食事をした広いダイニングである。
外は既に日が落ち、雲の隙間から光を落とす月によって、白くなった街並みを照らしていた。
今まで時間がかかったのは、別にシェリーの浄化に時間がかかったわけではなく、オーウィルディアに情けないと言わんばかりにグレイがしごかれていたのだ。やはり、大型犬が一族の中にいるのは許せなかったのだろう。
ということで冬時間により日の入りが早くなったとはいえ、数時間の間グレイはオーウィルディアに訓練をつけられていたのだった。
テーブルいっぱいに並べられた食事を目の前に、皆が席についたが、以前と違いそのテーブルの半分の席しか埋まっていない。
そんな者たちに視線を向け、ミゲルロディアが続きを話しだした。
「結論から言えば、シェリーミディア。君にラフテリア様とロビン様に数人の魔人をこの国に来てもらえないだろうかと交渉して欲しい」
ミゲルロディアはシェリーと歩きながら話したことを実行に移す決意をしたようだ。
その言葉にオーウィルディアは大きく目を見開き、驚きを顕にしている。これはオーウィルディアに相談無くミゲルロディアが決めたことなのだろう。
「先程も言いましたが、ラフテリア様が興味をお持ちになる可能性があります」
「わかっている。しかし、状況は危機的だと私は判断した」
危機的な状況。確かに一度に次元の悪魔が襲撃してくることは危機的だ。だが、ただ一度だけで危機的と判断するのは早急だと思わざる得ない。
「危機的ですか」
ミゲルロディアの大げさな言葉をシェリーは淡々と繰り返す。
「私は魔王が立ったと考えている」
「兄上!」
ミゲルロディアの言葉にオーウィルディアが立ち上がり、そのような言葉を口にすることではないと言わんばかりに強い口調で、ミゲルロディアを呼んだ。
「オーウィルディア、席につきなさい」
20歳程の外見の兄に40歳程の男が諌められるとは、おかしな風景だが、どうみても人外の兄ではそれもまた、仕方がない。
ミゲルロディアに言われ、渋々席につくオーウィルディア。
「閣下がその様な考えに至ったのは何故でしょうか?」
シェリーはミゲルロディアに尋ねる。
「30年前の始まりは、当時一番勢力を誇っていたグローリアの王都の襲撃だった。たった一体の次元の悪魔に苦戦し、王族が力を奮うことで事を収めた」
勿論、次元の悪魔を倒したのは当時魔導師長であったオリバーだ。ミゲルロディアは王族として認められていないオリバーを王族と認識しているということは、グローリア国の闇の部分も知っていたということだ。
「当時は、敵はグローリア国を抑えておけば、世界を取れると思ったからだろうと考えていた。しかし、魔王の正体は誰であったかと知れば、その見方も変わってくる」
魔王が誰であったか。それは一番初めに襲撃されたグローリア国の第二王子だった。これが意味するところは……。
「グローリア国を潰したかったのだろう」
「え?王位を狙ったんじゃなくて?」
ミゲルロディアに疑問を投げかけたのは、黙々と食事をしていたグレイだった。ミゲルロディアが食事をしていいとは言ったものの、弟であるオーウィルディアは兄であるミゲルロディアの言葉の全てを聞き逃しはしないという姿勢が見られ、シェリーは何ひとつ食事に手をつけてはいない。
カイルは飲み物に手を付けたが、ミゲルロディアの話を聞く姿勢だ。それはスーウェンとリオンにも見られる。
一族の長というべき者が発言しているのだ。それは話を聞くという態度を取るべきだと彼らは認識している。
ただ、グレイとオルクスだけはミゲルロディアの言葉をそのまま受け止め、食事をしていたのだった。そのことに対して、誰も言う事ではないが、誰もが口にはしない常識というモノがあることに、気がついていないということだ。
「あの者に野心というモノは無かった。あったのは国への絶望だったのだろう」
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