上 下
618 / 780
26章 建国祭

605

しおりを挟む
「さて、どう答えるべきか」

 ミゲルロディアはシェリーの質問に考える素振りを見せた。タールを流し込んだような目を雪が生み出される厚い雲に向けている。

「30年前に現れた魔王が元は誰であったかは聞いている。しかし、その者は20年前に多くの者を犠牲にして、勇者ナオフミが倒した」

 名を言うことは無かったが、ミゲルロディアは魔王と呼ばれた者が、元はグローリア王国の第二王子だったことは知っていたようだ。

「次元の悪魔と完全体の悪魔については一度ナディア様に伺ったことがあった。まだ対抗策が見いだせず、防戦一方のころにだ」
「ナディア様はなんとおっしゃったのですか?」
「愚者の考えは理解が出来ないと。闇をその身に取り込んだ者の末路だ。力を使い果たすまで殺し続け、闇を払えばいいと」

 女神ナディアの言葉には何の対抗策も見いだせない。これはただ戦い続けろと言っているだけだ。

「私はこの言葉に、事を画策した存在がいるということを理解したが、闇の力は制御しきれていない部分があるのではないのかとも考えた。しかし、結果として白き神の神託により、北側の各国がまとまり戦い抜くことができた」

 これはミゲルロディア自身は次元の悪魔と完全体の悪魔の正体には気がついていなかったという意味だろう。しかし、薄々とこの世界の存在が変化したものとは理解していたと。

「ただ、私自身がこのような身になって思ったことがある。闇に身を落とし世界の闇の力を喰らったこの身であるなら、全てを混沌に落とせるのではないのかと。ならば、悪魔という存在は魔人の出来損ないではないのかと、今は結論付けている」

 曲がりながらもミゲルロディアは正解にたどり着いていた。悪魔という存在は魔人という逸脱した力を得た存在の模倣に過ぎないと。

「そうです。悪魔と呼ばれるモノは作られた存在です」

 シェリーはミゲルロディアの言葉に同意を示した。

「しかし、そこに魔王が関係するかといえば、そうとも言えないことがわかりました。その魔王ですら作られた存在だということです」
「そうであろうな」

 ミゲルロディアもシェリーの言葉に同意を示す。これはミゲルロディア自身の中にすでに答えを持っていて、それをシェリーに確認しているのだろうか。

「これはまだ閣下に報告していなかったことですが、以前オーウィルディア様に伝えた帝国の動きの件です」
「確か神の降臨を目的としているだったか?」

 これはモルテ国の姿を再現しようとした思惑であり、隣国グローリア国が作り上げた神々の信仰を集め、人ならざる力を得ようとしたことだ。

「はい、帝国は次元の悪魔を生み出す方法を手に入れたようです。それをギラン共和国の国境に送り付け、シーラン王国にも送り付けてきました」

 シェリーの言葉からは神の降臨の話と次元の悪魔の話は全く関係がないように思える。それは人ならざる力を得るために、人ならざるモノの力を使って他国を侵略すると言っているに等しい。この話は全く別物だ。

「帝国が?しかし、そうとは言いきれないのではないのか?完全体の悪魔ならまだしも、次元の悪魔と意思の疎通はできぬはずだ」
「勿論、帝国もそれは理解していたのでしょう。奴隷に付ける制御石を改良したものを施していました」
「ふむ。制御石で思考のないモノの行動を制御するか。理には適っているが、それを成し遂げたというのであれば、帝国は世界を敵に回してはおらぬか?」

 世界を敵に回している。そう言うことだ。神の力を借りたいというのであれば、白き神が敵と認めた次元の悪魔を利用することは悪手である。今まで帝国の陰を支配しているサウザール公爵の手口にしては杜撰ずさん過ぎる。

「恐らく帝国内での権力が二分化している弊害ではないのでしょうか?」
「皇帝と公爵か。公爵の目を盗んで皇帝が動いているということか」

 現在の帝国の権力は表向きには皇帝が立ち、国を治めているように見せてはいるものの、軍部を掌握し帝国の貴族を抑えつけているのは実質、サウザール公爵である。

「サウザール公爵の動きは巧妙で普通では表に出てきませんが、ここ最近のおかしな動きには首を傾げていました。皇帝が関わっているとすれば、この愚かしい行為にも納得できます」

 シェリーは内心疑問を感じてはいた。実際、皇帝と公爵の動きがどのようなものかは、闇に包まれ計り知れないが、権力が二分化していれば、理由付けすることができる。

「確か今の皇帝は討伐戦後に首をすげ替えられた先代皇帝の孫だったな。ふむ。皇帝の後ろには別の勢力が付いていると考えた方がよいな」

 先代の皇帝はその座を追われたとミゲルロディアは言葉にした。それは勿論サウザール公爵に役目は終わったと言わんばかりに、新たな皇帝に取って代わられたのだ。

 しかし、新たな皇帝は討伐戦後に皇帝の座に付いており、先代の孫ということはまだ若いと推測される。ならば、その皇帝に背後から囁く者がいてもおかしくはないだろう。

しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

処理中です...