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26章 建国祭

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 帝国の意図は何か。英雄と称される二人の獣人が首を捻っている横で、シェリーはふととても重要なことを思い出した。

「もしかして、騎士養成学園の武闘大会も中止ですか?」

 この混乱を極めている中で、シェリーが口にしたことは、ルークが出場する武闘大会が開催されるかどうかの問題だった。普通ならば、何を言っているのだというべき言葉だが、シェリーにとっては一大事のことだった。

 ルークの活躍を見るために第2師団長の依頼を嫌々ながら受けて、騎士団が押さえているいい席を確保し、ユーフィアと交渉して4Kカメラ並みの画質のビデオカメラを作ってもらったのだ。
 そこまでして楽しみにしてた騎士養成学園の大会が帝国の攻撃によって中止になるなど、シェリーとしては納得がいかないことだった。

「それはそうだろうな。祭りをこのまま続けるかどうかも怪しい」

 リベラはこの混乱の中で建国祭を行い続けるのも難しいと言葉にした。確かにそうだ。けが人も多数存在し、建物の被害も出ている。
 祭りを続けるには些か事が大きすぎた。

「そんな……せめて、学生の保護者だけでも観戦できる機会が欲しいです」

 シェリーは諦めきれないでいた。ここ数日の……いや、ルークが騎士養成学園に入学してからの楽しみが一瞬にして瓦解したのだ。
 しかし、軍部のトップであるリベラに言っても仕方がないこと。彼女は学園には関わりがないのだ。

「そうだな。シェリー、何故君が今日この日にこの場に来た理由を教えてくれたら、学年最後にある騎士団と軍部のものだけが観ることができるトーナメント戦に招待し……」
「女神ナディア様からの神託です」

 リベラが『招待しよう』と言い切る前にシェリーは食い気味で答えた。そのトーナメント戦とは全学年入り混じった正に個人の戦力を測る行事であり、騎士団と軍部の上官が己の師団に引き込むための人材を探す場でもあるのだ。

「そうか君たちはラースだからか。それで女神ナディア様からなんと神託されたのだ?」

「『雨が降るのよ。そこに末の子がいるの』と言われました」

 もう少し女神ナディアの言葉はあったが、シェリーとしてはその部分しか聞いてはいなかった。
 それを聞いたリベラとクストは困惑の表情を浮かべる。なぜ、その言葉だけで、ここまでの事が起こると判断できたのかという疑問だ。

「ナディア様のお言葉は些細なことでも、神言される自体が大事おおごとですので、ラース公国では何事があっても万全に対処できるようにするのが習わしです」

 シェリーの言葉を補足するように、シェリーを抱えたままのグレイが言う。
 そもそも神は人々の前に姿を顕すことは滅多いない。そして、言葉を発することもほとんどない。グレイの言葉は一般的に当たり前だと言っていい。
 ただ、女神ナディアの言葉は雨乞いをした結果を言われ、そこに末子がいると言ったようなもの。その神言に重要度があると思えない。

「あ、いや。どこをどうしたら雨が降ることが帝国の攻撃と捉えたのかわからなくてな」

「リベラ大佐。神の言葉など普通に捉えては駄目です。これは何かが起こるから気をつけなさいという意味です。真剣に考えるだけ無駄です」

 シェリーは女神ナディアの言葉に惑わされているリベラの言葉をズバッと断ち切った。
 シェリーが自分の部屋に戻って何かをバタバタしていたのは、女神ナディアの言葉に神威を探るよりも、何が起こっても対処できるように準備をしていただけだった。

「ルーちゃんの勇姿を見られる機会を与えてくださった。リベラ大佐に帝国の意図の一つを教えて差し上げます」

 機嫌が良くなったシェリーが珍しくニコニコと笑いながら、今回の帝国の攻撃の理由を言葉にした。

「普通であれば、敵対行動として宣戦布告の狼煙代わりと言っていい攻撃ですが、帝国も馬鹿ではないと第6師団長さんもわかっていますよね」

 シェリーは先ほどの帝国の攻撃の報告に関してクストは帝国は姑息だと言っていた。何が姑息か。

「ああ、魔武器は一般的に帝国で売られているものだ。誰でも購入することができる。武器商人が俺たちに売りつけて来るほどだ。そして、その魔武器を使用していたのが、この国でも帝国の者でもない奴隷だ。背景を調べてもどこの誰の指示で動いたとは出てこないだろう。結局、帝国からの攻撃だという証拠は何もないのだ」

 今回の攻撃は帝国の何かしらの意図があったものだとわかっていても、帝国が関わっている証拠が何もないということだ。
 これで、帝国に攻撃を仕掛ければ、悪いのは帝国ではなく、いきなり帝国の領土に押し入り攻撃をした側が悪ということになる。

 今回のことはシェリーが帝国の行いを何度か国に突きつけたため、これは帝国からの攻撃だとクストもリベラも認識しているが、もしこれが、事前に情報がもたらされていなければ、どうだっただろう。
 魔武器を扱っていた奴隷たちが登録された国からの攻撃と認識し、シーラン王国は何も関係がない国に対して戦争を仕掛けていた可能性があった。

 帝国の意図はいったいどこにあるのだろうか。
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