605 / 780
26章 建国祭
592
しおりを挟む
帝国の意図は何か。英雄と称される二人の獣人が首を捻っている横で、シェリーはふととても重要なことを思い出した。
「もしかして、騎士養成学園の武闘大会も中止ですか?」
この混乱を極めている中で、シェリーが口にしたことは、ルークが出場する武闘大会が開催されるかどうかの問題だった。普通ならば、何を言っているのだというべき言葉だが、シェリーにとっては一大事のことだった。
ルークの活躍を見るために第2師団長の依頼を嫌々ながら受けて、騎士団が押さえているいい席を確保し、ユーフィアと交渉して4Kカメラ並みの画質のビデオカメラを作ってもらったのだ。
そこまでして楽しみにしてた騎士養成学園の大会が帝国の攻撃によって中止になるなど、シェリーとしては納得がいかないことだった。
「それはそうだろうな。祭りをこのまま続けるかどうかも怪しい」
リベラはこの混乱の中で建国祭を行い続けるのも難しいと言葉にした。確かにそうだ。けが人も多数存在し、建物の被害も出ている。
祭りを続けるには些か事が大きすぎた。
「そんな……せめて、学生の保護者だけでも観戦できる機会が欲しいです」
シェリーは諦めきれないでいた。ここ数日の……いや、ルークが騎士養成学園に入学してからの楽しみが一瞬にして瓦解したのだ。
しかし、軍部のトップであるリベラに言っても仕方がないこと。彼女は学園には関わりがないのだ。
「そうだな。シェリー、何故君が今日この日にこの場に来た理由を教えてくれたら、学年最後にある騎士団と軍部のものだけが観ることができるトーナメント戦に招待し……」
「女神ナディア様からの神託です」
リベラが『招待しよう』と言い切る前にシェリーは食い気味で答えた。そのトーナメント戦とは全学年入り混じった正に個人の戦力を測る行事であり、騎士団と軍部の上官が己の師団に引き込むための人材を探す場でもあるのだ。
「そうか君たちはラースだからか。それで女神ナディア様からなんと神託されたのだ?」
「『雨が降るのよ。そこに末の子がいるの』と言われました」
もう少し女神ナディアの言葉はあったが、シェリーとしてはその部分しか聞いてはいなかった。
それを聞いたリベラとクストは困惑の表情を浮かべる。なぜ、その言葉だけで、ここまでの事が起こると判断できたのかという疑問だ。
「ナディア様のお言葉は些細なことでも、神言される自体が大事ですので、ラース公国では何事があっても万全に対処できるようにするのが習わしです」
シェリーの言葉を補足するように、シェリーを抱えたままのグレイが言う。
そもそも神は人々の前に姿を顕すことは滅多いない。そして、言葉を発することもほとんどない。グレイの言葉は一般的に当たり前だと言っていい。
ただ、女神ナディアの言葉は雨乞いをした結果を言われ、そこに末子がいると言ったようなもの。その神言に重要度があると思えない。
「あ、いや。どこをどうしたら雨が降ることが帝国の攻撃と捉えたのかわからなくてな」
「リベラ大佐。神の言葉など普通に捉えては駄目です。これは何かが起こるから気をつけなさいという意味です。真剣に考えるだけ無駄です」
シェリーは女神ナディアの言葉に惑わされているリベラの言葉をズバッと断ち切った。
シェリーが自分の部屋に戻って何かをバタバタしていたのは、女神ナディアの言葉に神威を探るよりも、何が起こっても対処できるように準備をしていただけだった。
「ルーちゃんの勇姿を見られる機会を与えてくださった。リベラ大佐に帝国の意図の一つを教えて差し上げます」
機嫌が良くなったシェリーが珍しくニコニコと笑いながら、今回の帝国の攻撃の理由を言葉にした。
「普通であれば、敵対行動として宣戦布告の狼煙代わりと言っていい攻撃ですが、帝国も馬鹿ではないと第6師団長さんもわかっていますよね」
シェリーは先ほどの帝国の攻撃の報告に関してクストは帝国は姑息だと言っていた。何が姑息か。
「ああ、魔武器は一般的に帝国で売られているものだ。誰でも購入することができる。武器商人が俺たちに売りつけて来るほどだ。そして、その魔武器を使用していたのが、この国でも帝国の者でもない奴隷だ。背景を調べてもどこの誰の指示で動いたとは出てこないだろう。結局、帝国からの攻撃だという証拠は何もないのだ」
今回の攻撃は帝国の何かしらの意図があったものだとわかっていても、帝国が関わっている証拠が何もないということだ。
これで、帝国に攻撃を仕掛ければ、悪いのは帝国ではなく、いきなり帝国の領土に押し入り攻撃をした側が悪ということになる。
今回のことはシェリーが帝国の行いを何度か国に突きつけたため、これは帝国からの攻撃だとクストもリベラも認識しているが、もしこれが、事前に情報がもたらされていなければ、どうだっただろう。
魔武器を扱っていた奴隷たちが登録された国からの攻撃と認識し、シーラン王国は何も関係がない国に対して戦争を仕掛けていた可能性があった。
帝国の意図はいったいどこにあるのだろうか。
「もしかして、騎士養成学園の武闘大会も中止ですか?」
この混乱を極めている中で、シェリーが口にしたことは、ルークが出場する武闘大会が開催されるかどうかの問題だった。普通ならば、何を言っているのだというべき言葉だが、シェリーにとっては一大事のことだった。
ルークの活躍を見るために第2師団長の依頼を嫌々ながら受けて、騎士団が押さえているいい席を確保し、ユーフィアと交渉して4Kカメラ並みの画質のビデオカメラを作ってもらったのだ。
そこまでして楽しみにしてた騎士養成学園の大会が帝国の攻撃によって中止になるなど、シェリーとしては納得がいかないことだった。
「それはそうだろうな。祭りをこのまま続けるかどうかも怪しい」
リベラはこの混乱の中で建国祭を行い続けるのも難しいと言葉にした。確かにそうだ。けが人も多数存在し、建物の被害も出ている。
祭りを続けるには些か事が大きすぎた。
「そんな……せめて、学生の保護者だけでも観戦できる機会が欲しいです」
シェリーは諦めきれないでいた。ここ数日の……いや、ルークが騎士養成学園に入学してからの楽しみが一瞬にして瓦解したのだ。
しかし、軍部のトップであるリベラに言っても仕方がないこと。彼女は学園には関わりがないのだ。
「そうだな。シェリー、何故君が今日この日にこの場に来た理由を教えてくれたら、学年最後にある騎士団と軍部のものだけが観ることができるトーナメント戦に招待し……」
「女神ナディア様からの神託です」
リベラが『招待しよう』と言い切る前にシェリーは食い気味で答えた。そのトーナメント戦とは全学年入り混じった正に個人の戦力を測る行事であり、騎士団と軍部の上官が己の師団に引き込むための人材を探す場でもあるのだ。
「そうか君たちはラースだからか。それで女神ナディア様からなんと神託されたのだ?」
「『雨が降るのよ。そこに末の子がいるの』と言われました」
もう少し女神ナディアの言葉はあったが、シェリーとしてはその部分しか聞いてはいなかった。
それを聞いたリベラとクストは困惑の表情を浮かべる。なぜ、その言葉だけで、ここまでの事が起こると判断できたのかという疑問だ。
「ナディア様のお言葉は些細なことでも、神言される自体が大事ですので、ラース公国では何事があっても万全に対処できるようにするのが習わしです」
シェリーの言葉を補足するように、シェリーを抱えたままのグレイが言う。
そもそも神は人々の前に姿を顕すことは滅多いない。そして、言葉を発することもほとんどない。グレイの言葉は一般的に当たり前だと言っていい。
ただ、女神ナディアの言葉は雨乞いをした結果を言われ、そこに末子がいると言ったようなもの。その神言に重要度があると思えない。
「あ、いや。どこをどうしたら雨が降ることが帝国の攻撃と捉えたのかわからなくてな」
「リベラ大佐。神の言葉など普通に捉えては駄目です。これは何かが起こるから気をつけなさいという意味です。真剣に考えるだけ無駄です」
シェリーは女神ナディアの言葉に惑わされているリベラの言葉をズバッと断ち切った。
シェリーが自分の部屋に戻って何かをバタバタしていたのは、女神ナディアの言葉に神威を探るよりも、何が起こっても対処できるように準備をしていただけだった。
「ルーちゃんの勇姿を見られる機会を与えてくださった。リベラ大佐に帝国の意図の一つを教えて差し上げます」
機嫌が良くなったシェリーが珍しくニコニコと笑いながら、今回の帝国の攻撃の理由を言葉にした。
「普通であれば、敵対行動として宣戦布告の狼煙代わりと言っていい攻撃ですが、帝国も馬鹿ではないと第6師団長さんもわかっていますよね」
シェリーは先ほどの帝国の攻撃の報告に関してクストは帝国は姑息だと言っていた。何が姑息か。
「ああ、魔武器は一般的に帝国で売られているものだ。誰でも購入することができる。武器商人が俺たちに売りつけて来るほどだ。そして、その魔武器を使用していたのが、この国でも帝国の者でもない奴隷だ。背景を調べてもどこの誰の指示で動いたとは出てこないだろう。結局、帝国からの攻撃だという証拠は何もないのだ」
今回の攻撃は帝国の何かしらの意図があったものだとわかっていても、帝国が関わっている証拠が何もないということだ。
これで、帝国に攻撃を仕掛ければ、悪いのは帝国ではなく、いきなり帝国の領土に押し入り攻撃をした側が悪ということになる。
今回のことはシェリーが帝国の行いを何度か国に突きつけたため、これは帝国からの攻撃だとクストもリベラも認識しているが、もしこれが、事前に情報がもたらされていなければ、どうだっただろう。
魔武器を扱っていた奴隷たちが登録された国からの攻撃と認識し、シーラン王国は何も関係がない国に対して戦争を仕掛けていた可能性があった。
帝国の意図はいったいどこにあるのだろうか。
10
お気に入りに追加
1,014
あなたにおすすめの小説
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
放蕩公爵と、いたいけ令嬢
たつみ
恋愛
公爵令嬢のシェルニティは、両親からも夫からも、ほとんど「いない者」扱い。
彼女は、右頬に大きな痣があり、外見重視の貴族には受け入れてもらえずにいた。
夫が側室を迎えた日、自分が「不要な存在」だと気づき、彼女は滝に身を投げる。
が、気づけば、見知らぬ男性に抱きかかえられ、死にきれないまま彼の家に。
その後、屋敷に戻るも、彼と会う日が続く中、突然、夫に婚姻解消を申し立てられる。
審議の場で「不義」の汚名を着せられかけた時、現れたのは、彼だった!
「いけないねえ。当事者を、1人、忘れて審議を開いてしまうなんて」
◇◇◇◇◇
設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。
R-Kingdom_8
他サイトでも掲載しています。
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる