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26章 建国祭
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「シェリー。良かった」
そう言ってカイルが寝ていたシェリーを抱きしめる。今日はカイルがシェリーの側で寝ていたようだ。
「最近ちょっかい掛けてきていないから油断していた。またしてもシェリーに干渉してくるなんて」
カイルは小声でブツブツと言いながら、シェリーをギュウギュウに抱きしめている。
「カイルさん苦しいです」
寝起きに強烈な圧迫感を感じれば、流石のシェリーも抵抗する気力もおきず、言葉のみの抵抗となっていた。
すると力は緩んだものの、カイルがシェリーを抱きしめていることには変わらず、まだ夜が明けていない暗闇の室内でシェリーはため息を吐く。
「はぁ、カイルさん何もなかったので、心配することは何もありません」
シェリーはそう言うものの、番である者が他の者の手の内にあるという状態はカイルにとって我慢のならないことだった。例えそれが、神と呼ばれる存在であったとしても。
「シェリー。何を言ってきたのかな?俺の番にちょっかいを掛けてきた神は」
カイルからトゲトゲしい言葉が出てきた。
「別にお茶を一杯いただいて、スキルの文句を言えば、そもそもの構築自体に問題があると言われただけです」
いや、問題があるのはシュピンネ族であって、シェリーの創造したスキルではない。
そして、シェリーとしては白き神から気負わなくていいと言われた言葉よりも、スキル云々のことが大事だったようだ。
あの白き神から与えられた祝福に関しても総無視だ。
「もうどうすれば、あの神の手から逃れられるのだ?こうも何度もシェリーにちょっかい掛けてくるなんて、絶対に許せない」
シェリーが大して問題が無いと言ったにも関わらず、カイルの白き神に対する愚痴は止まることはないらしい。
それにこの世界で創造主と言っていい尊き存在から逃れるすべなどありはしない。それは異界に逃れようとも、異界にシェリーを連れて行った白き神には無駄なことだと理解できる。
いや、普通の神であるのであれば、カイルはここまで嫉妬心をいだきはしなかっただろう。カイルの中ではずっと燻っていたのだ。
シェリーと白き神が同じ空間で黒を纏いしシェリーと対を成すように白を纏う存在が酒を飲み交わす姿を見せつけられ、その場に己が立ち入れなかった。
そもそもの一番最初の邂逅からカイルの癪に障っていたのだ。
誰も立ち入れぬ幻想的な空間。手をのばす事も適わず、ただ地に伏してその存在に敬意を示すしか無い不甲斐ない己の身。
「あの存在に正面から文句を言っても無駄なことです。言っても苛つくだけなので、気にしないほうが一番いいのです」
この世界に生まれ落ちて18年。白き神と関わってきたシェリーの言葉だ。文句を言っても仕方がないと言いつつも、いつも文句を言っているシェリーの言葉だ。実感が込められた言葉だった。
「シェリー。どこにも行かないで欲しい。あの存在に連れ攫われて行ってしまえば、俺では神界というところまでは行けない」
ただのこの世界の住人でしかない存在では神々の住まう地に足を踏み入れることは適わない。これは口に出さなくてもわかり切っていること。神を前にして膝を折るしかない己では絶対にムリなことだと。
「人の身でも神界にいけますよ」
シェリーがポソリと答えた。人の身でも神界に行けるとはこれは如何に?
「一番はラース様です。神から力を与えられれば人でも神の地に行けます」
ラースという存在を人として数えて良いのかという問題はあるが、元人族としては数えていいのかもしれない。
「後はオリバーから聞いただけですが、勇者と聖女と魔導師は神の地での休息が許されたと」
「神の地での休息?」
カイルは聞いたことがない言葉が出てきて思わずシェリーの言葉を繰り返した。
『神の地での休息』それは言葉のとおり神から選ばれた存在に対して、神界での休息が許されたのだろう。
「戦いの痕はその身を酷使するものですが、魂も傷ついていたためだと聞きました。ですが真偽のほどは私にはわかりません」
過酷な戦いに神に選ばれた者であっても、魂が傷ついたということだろう。しかし、シェリーは自身が体験したことではないので、言葉を濁した。
「このことから神から招き入れられれば、神界に人の身でも立ち入る事が出来るということです」
かなり厳しい条件と言えるかもしれないが、ここに白き神にという条件ではなく、神がという条件であれば、どの神でも良いように聞こえてくる。
「ですので、そろそろ離してくれませんか?」
シェリーは何もカイルが不安がることなどないと結論付けたのは、ただ単に解放してほしいからだったようだ。それに対しカイルは更にシェリーを抱え込むように抱きしめて一言を言った。
「嫌だ」
その一言にシェリーは再びため息を吐き出して、目を瞑る。まだ朝まで時間があるので眠るためだ。
シェリーから規則的な寝息が聞こえてきたことでカイルは様子を伺うような視線で見たものの何も変化がないとわかると、何者にも触れられないように抱きしめて眠りにつくのだった。
そう言ってカイルが寝ていたシェリーを抱きしめる。今日はカイルがシェリーの側で寝ていたようだ。
「最近ちょっかい掛けてきていないから油断していた。またしてもシェリーに干渉してくるなんて」
カイルは小声でブツブツと言いながら、シェリーをギュウギュウに抱きしめている。
「カイルさん苦しいです」
寝起きに強烈な圧迫感を感じれば、流石のシェリーも抵抗する気力もおきず、言葉のみの抵抗となっていた。
すると力は緩んだものの、カイルがシェリーを抱きしめていることには変わらず、まだ夜が明けていない暗闇の室内でシェリーはため息を吐く。
「はぁ、カイルさん何もなかったので、心配することは何もありません」
シェリーはそう言うものの、番である者が他の者の手の内にあるという状態はカイルにとって我慢のならないことだった。例えそれが、神と呼ばれる存在であったとしても。
「シェリー。何を言ってきたのかな?俺の番にちょっかいを掛けてきた神は」
カイルからトゲトゲしい言葉が出てきた。
「別にお茶を一杯いただいて、スキルの文句を言えば、そもそもの構築自体に問題があると言われただけです」
いや、問題があるのはシュピンネ族であって、シェリーの創造したスキルではない。
そして、シェリーとしては白き神から気負わなくていいと言われた言葉よりも、スキル云々のことが大事だったようだ。
あの白き神から与えられた祝福に関しても総無視だ。
「もうどうすれば、あの神の手から逃れられるのだ?こうも何度もシェリーにちょっかい掛けてくるなんて、絶対に許せない」
シェリーが大して問題が無いと言ったにも関わらず、カイルの白き神に対する愚痴は止まることはないらしい。
それにこの世界で創造主と言っていい尊き存在から逃れるすべなどありはしない。それは異界に逃れようとも、異界にシェリーを連れて行った白き神には無駄なことだと理解できる。
いや、普通の神であるのであれば、カイルはここまで嫉妬心をいだきはしなかっただろう。カイルの中ではずっと燻っていたのだ。
シェリーと白き神が同じ空間で黒を纏いしシェリーと対を成すように白を纏う存在が酒を飲み交わす姿を見せつけられ、その場に己が立ち入れなかった。
そもそもの一番最初の邂逅からカイルの癪に障っていたのだ。
誰も立ち入れぬ幻想的な空間。手をのばす事も適わず、ただ地に伏してその存在に敬意を示すしか無い不甲斐ない己の身。
「あの存在に正面から文句を言っても無駄なことです。言っても苛つくだけなので、気にしないほうが一番いいのです」
この世界に生まれ落ちて18年。白き神と関わってきたシェリーの言葉だ。文句を言っても仕方がないと言いつつも、いつも文句を言っているシェリーの言葉だ。実感が込められた言葉だった。
「シェリー。どこにも行かないで欲しい。あの存在に連れ攫われて行ってしまえば、俺では神界というところまでは行けない」
ただのこの世界の住人でしかない存在では神々の住まう地に足を踏み入れることは適わない。これは口に出さなくてもわかり切っていること。神を前にして膝を折るしかない己では絶対にムリなことだと。
「人の身でも神界にいけますよ」
シェリーがポソリと答えた。人の身でも神界に行けるとはこれは如何に?
「一番はラース様です。神から力を与えられれば人でも神の地に行けます」
ラースという存在を人として数えて良いのかという問題はあるが、元人族としては数えていいのかもしれない。
「後はオリバーから聞いただけですが、勇者と聖女と魔導師は神の地での休息が許されたと」
「神の地での休息?」
カイルは聞いたことがない言葉が出てきて思わずシェリーの言葉を繰り返した。
『神の地での休息』それは言葉のとおり神から選ばれた存在に対して、神界での休息が許されたのだろう。
「戦いの痕はその身を酷使するものですが、魂も傷ついていたためだと聞きました。ですが真偽のほどは私にはわかりません」
過酷な戦いに神に選ばれた者であっても、魂が傷ついたということだろう。しかし、シェリーは自身が体験したことではないので、言葉を濁した。
「このことから神から招き入れられれば、神界に人の身でも立ち入る事が出来るということです」
かなり厳しい条件と言えるかもしれないが、ここに白き神にという条件ではなく、神がという条件であれば、どの神でも良いように聞こえてくる。
「ですので、そろそろ離してくれませんか?」
シェリーは何もカイルが不安がることなどないと結論付けたのは、ただ単に解放してほしいからだったようだ。それに対しカイルは更にシェリーを抱え込むように抱きしめて一言を言った。
「嫌だ」
その一言にシェリーは再びため息を吐き出して、目を瞑る。まだ朝まで時間があるので眠るためだ。
シェリーから規則的な寝息が聞こえてきたことでカイルは様子を伺うような視線で見たものの何も変化がないとわかると、何者にも触れられないように抱きしめて眠りにつくのだった。
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