上 下
587 / 775
26章 建国祭

574

しおりを挟む

「言われてみれば、そうなのだが……聖魔術を使える者は希少なので……魔道具の浄化もできるのだろうか」

 ツヴェークは突然全く違うことを話しだした。

「物によりますが?」

 シェリーはできるとは答えなかった。シェリーからすれば、浄化出来ないものはないだろうが、シェリーの何気ない一言でニールから色々な依頼を押し付けられてきた覚えがある。
 そのため、甥であるツヴェークもニールと似た仕事一筋の匂いを感じたシェリーは言葉を慎重に選んだ。

「いくつか使えない遺物があるのだが、ほとんどが呪いのようなけがれをまとっているので使えない。資料によると、200年ほど前までは稼働していたそうなのだが、浄化する者が居なくなったために今現在は水を生成する遺物しか稼働していない。浄化してくれるとありがたい。勿論、その依頼料金はこちらから出す」

「それはどのようなものですか?」

 シェリーはツヴェークが言う遺物というものはアーク族の遺産だと理解した。そして、どのような物か興味があると聞いてみたのだが。

「それが、肝心な部分が読み解けなくてな。何故、放置されているのかは別の者の手で書かれていたので普通に読めたが、本体の説明部分が私には読めず、別の者が書いた内容から、恐らく結界などの防御関係の遺物だとは読み解けたのだが……」

 それはアーク族の言葉であるから読み解け無いということではないだろう。なぜなら、この世界の言葉は白き神の元で統一されているのだ。ならば、読めない文字を書いて、この国に残したという人物は一人しかいない。

「その資料は閲覧可能ですか?」

「統括師団長閣下の許可が無ければ、閲覧出来ない」

 となれば、部外者であるシェリーがその資料を見ることができることは皆無だろう。シェリーはこの際なので、聞きたいことは聞いてしまおうと、空いているソファに向かって手を向けた。

「『亡者招来死者の召喚』」

「ちっ!今度はなんだ」

 舌打ちの音と共にシェリーを睨みつけるように赤い瞳を向けて現れたのは、勿論黒狼クロードである。そのクロードにシェリーは立ち上がって、鞄から次々とお菓子を出してきて、彼が座る目の前のローテーブルにドンとお菓子の山を作った。

「第3師団が管理している使えない古代魔道具の説明をしてください」

「シェリー・カークス。すまないが、以前もこの方がいらしたが、これは転移を使ったわけではないよな。どうやって、結界が張ってあるこの部屋に現れた?」

 シェリーがクロードにアーク族の魔道具に関して聞いていると、ツヴェークが聞いてきた。どうやら、ツヴェークはこの話し合いに邪魔が入らないように結界を部屋に張っていたようだ。

「気にされなくても大丈夫です」

 シェリーはいつも通り、シレッと答えるが、気になるものは気になるとツヴェークはどことなく第6師団長であるクストに似た人物に視線を向けた。
 クロードはというと、お菓子の山から旨塩ポテチを探り当て、袋を開けて抱え込むようにバリバリと食べている。

「あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?自分は……」

 ツヴェークがクロードの名を知るために、自ら名乗ろうとしたところで、クロードに手を上げられ、言葉を止められた。

「俺の名など意味がない。だから、名乗る必要もない。使えない古代装置のことだったな」

 クロードは今の己がただの記憶でしか無い存在であるため、本来であればこのようにツヴェークの前に存在する者ではないと、名の名乗ることを拒否した。ただ、言わなくてもわかっているだろう?という意味にも捉えられる。
 一度、ナヴァル公爵家で会い、クストと話をしている姿を目にしているのだ。普通であれば、クロードのことをナヴァル公爵家の縁者ととらえるところだろう。

「建国時代から稼働していたものは、第一層内の結界だ。それと浄化装置。最後に自動迎撃システムというものの一部か」

 クロードから思ってもみない言葉が出てきた。まるで、この王都の元であった空島が要塞であるかのような言い方だ。

「第一層内の結界とはどういうものですか?」

 シェリーはもしその結界というものが現在も稼働していれば、ナヴァル公爵家への襲撃は防げたのではないのかと考えたのだが。

「結界といっても大部分にガタがきていたらしい。俺は実際に目にはしていないが、初代ナヴァル家の当主であったグロスの手記では、今の第1層壁の高さまでの結界で、大通りの4箇所に結界の穴があったためにそこに門を設置したとあった」

 それは結界と言っていいのだろうか。いや、見えない壁という障害物にはなっていたのかもしれない。

「俺が調べたらどうも、第二層の辺りを覆う結界もあったが、強い衝撃によって第二層の結界は壊れ、第一層の結界のみを維持していたようだ。ただ、その稼働するエネルギーと言えばいいのだろうか……魔道具を動かすエネルギーが人の心らしい。俺にはさっぱり理解できなかったがな」

 クロードは肩をすくめているものの、人の心がエネルギーとはそのようなモノで動くのかという疑問の方が大きいと思われた。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。 「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。 命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの? そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

処理中です...