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26章 建国祭
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「ルーちゃん。忘れ物ない?何かあれば、絶対に連絡をしてくるのよ」
シェリーは玄関先でルークの手を握って、見送っているのか引き止めているのかわからない状況になっている。
今日は年が明けてルークが騎士養成学園に戻る日だ。明日には新学期が始まるのだが、シェリーが引き止めに引き止め、ギリギリの前日になってしまった。
「ないよ。姉さん、行ってくるよ」
シェリーの手をそっとのけ、ルークは踵を返して背を向けて行ってしまう。シェリーはその姿を涙目で見送っていた。まるで恋人に別れを切り出され、置いていかれているかのような雰囲気をシェリーはまとってはいるが、ただの見送りにすぎない。
そして、ルークの姿が無くなるまで玄関先で見送ったシェリーは、1つため息を吐くとスッといつも通りの無表情に戻り、踵を返して屋敷の中に入っていく。
玄関ホールにはシェリーが戻ってくるのを待ち構えていたように、5人の姿があった。
「シェリー、今日はどうするの?」
カイルがニコニコと笑顔で聞いてきた。それに対し、シェリーは無表情のまま淡々と答える。
「ニールさんからいい加減にギルドに顔を出すように言われ続けているので、冒険者ギルドに寄ってから、第3師団に行きます」
「第3師団?何をしにいくんだ?」
第3師団との取引を何も知らないオルクスが聞いてきた。
「第0師団の再編ですよ」
そう言ってシェリーは足を進める。第0師団の再編。これは対マルス帝国の布石だ。時間はかかってしまったが、あれからユーフィアが永久駆動の魔力発生装置を完成させ、第3師団の人員を半分引き抜ける状態になったのだ。
「使える人員は最大限に使わないといけません」
一国を相手にするのであれば、使える人員はどれほどあっても足りないぐらいだ。しかし、これはただのシーラン王国ができる対マルス帝国対策であって、元々は黒狼クロードが采配していたことの真似事にすぎない。
それにこの根底にあるのが、ルークが平和に幸せに暮らせることのみが主幹におかれているため、国土防衛のことは何も触れていない。王都を守る。ただそれだけだ。
そのルークと言えば、シェリーの想いも理解することもなく、拗ねらせたまま学園に戻っていったのだ。
送り出すシェリーの態度と、そっけないルークの態度から、それは見て取れたと思うが、ルークがシェリーの真意に気がつくのには時間がかかりそうであった。
そして、朝の時間帯には珍しく、がらんどうとした冒険者ギルドにシェリーは来ていた。
「なぜ、年明け早々に来るんだ?」
眉間にシワを寄せ、紫煙を吐き出しながら、ニールはシェリーに文句を言う。冒険者ギルドに顔を出すように催促していたのはニールのはずだったのにだ。
「年明け早々に仕事をしているニールさんに言われたくありませんが?」
文句を言われたシェリーはニールにいつも通り淡々言葉を返す。そもそもこの時期は年が明けたばかりで、人々は家で過ごすのが当たり前なのだ。だから、冒険者といえども、依頼を受けに来る者たちなど皆無に等しい。
そして、年が明ければ、数日に渡って建国祭が催される。そのため、人々の心は浮足立ち、気もそぞろ。まだ建国祭ではないが、国民の心は祭り一色だ。
クソ真面目に仕事などしているのは、この騒ぎに乗じて事件が起こるかもしれないと気を張っている、門兵の第5師団と警邏を担う第6師団だけだろう。あとは人々の生活の根底を担う第3師団だ。
だから、ニールが職員が誰も居ない冒険者ギルドで働いている事自体がおかしい。はっきり言って、冒険者ギルドを年明けから祭りが終わるまで閉めていても問題がないと言っても過言ではないだろう。
だが、敢えてシェリーはこの時期を選んて冒険者ギルドを尋ねた。ニールなら必ず仕事をしているだろうと。
「で、いったい何の用ですか?」
何度も催促するように冒険者ギルドに来るように言っていたニールだ。それなりに用があるのだろう。
「一つは年末に起こった『愚者の常闇』ダンジョンで見慣れない魔物が大量発生の件だ。あれ、いったい何をしたんだ?」
まるでシェリーが何かをしたと確信を持ってニールは言っている。それに対しシェリーは普通に答えた。
「何もしていませんが?」
そう、シェリーは何もしていない。あれは面倒だとオリバーが黒い鎧を繰り出しただけで、シェリー的にはオリバーに動くように言ったにすぎない。
「そんなわけないだろう?見たことのない鎧を着た者が魔物を駆逐していたと報告をうけたが、あれは人としての動きではなかったと言われた。何をした?」
人として有り得ない行動をとった鎧のモノ。人としては膨大な力を持ったシェリーならその鎧のモノと同一人物だとしてもありえるだろうというニールの考えだった。
シェリーは玄関先でルークの手を握って、見送っているのか引き止めているのかわからない状況になっている。
今日は年が明けてルークが騎士養成学園に戻る日だ。明日には新学期が始まるのだが、シェリーが引き止めに引き止め、ギリギリの前日になってしまった。
「ないよ。姉さん、行ってくるよ」
シェリーの手をそっとのけ、ルークは踵を返して背を向けて行ってしまう。シェリーはその姿を涙目で見送っていた。まるで恋人に別れを切り出され、置いていかれているかのような雰囲気をシェリーはまとってはいるが、ただの見送りにすぎない。
そして、ルークの姿が無くなるまで玄関先で見送ったシェリーは、1つため息を吐くとスッといつも通りの無表情に戻り、踵を返して屋敷の中に入っていく。
玄関ホールにはシェリーが戻ってくるのを待ち構えていたように、5人の姿があった。
「シェリー、今日はどうするの?」
カイルがニコニコと笑顔で聞いてきた。それに対し、シェリーは無表情のまま淡々と答える。
「ニールさんからいい加減にギルドに顔を出すように言われ続けているので、冒険者ギルドに寄ってから、第3師団に行きます」
「第3師団?何をしにいくんだ?」
第3師団との取引を何も知らないオルクスが聞いてきた。
「第0師団の再編ですよ」
そう言ってシェリーは足を進める。第0師団の再編。これは対マルス帝国の布石だ。時間はかかってしまったが、あれからユーフィアが永久駆動の魔力発生装置を完成させ、第3師団の人員を半分引き抜ける状態になったのだ。
「使える人員は最大限に使わないといけません」
一国を相手にするのであれば、使える人員はどれほどあっても足りないぐらいだ。しかし、これはただのシーラン王国ができる対マルス帝国対策であって、元々は黒狼クロードが采配していたことの真似事にすぎない。
それにこの根底にあるのが、ルークが平和に幸せに暮らせることのみが主幹におかれているため、国土防衛のことは何も触れていない。王都を守る。ただそれだけだ。
そのルークと言えば、シェリーの想いも理解することもなく、拗ねらせたまま学園に戻っていったのだ。
送り出すシェリーの態度と、そっけないルークの態度から、それは見て取れたと思うが、ルークがシェリーの真意に気がつくのには時間がかかりそうであった。
そして、朝の時間帯には珍しく、がらんどうとした冒険者ギルドにシェリーは来ていた。
「なぜ、年明け早々に来るんだ?」
眉間にシワを寄せ、紫煙を吐き出しながら、ニールはシェリーに文句を言う。冒険者ギルドに顔を出すように催促していたのはニールのはずだったのにだ。
「年明け早々に仕事をしているニールさんに言われたくありませんが?」
文句を言われたシェリーはニールにいつも通り淡々言葉を返す。そもそもこの時期は年が明けたばかりで、人々は家で過ごすのが当たり前なのだ。だから、冒険者といえども、依頼を受けに来る者たちなど皆無に等しい。
そして、年が明ければ、数日に渡って建国祭が催される。そのため、人々の心は浮足立ち、気もそぞろ。まだ建国祭ではないが、国民の心は祭り一色だ。
クソ真面目に仕事などしているのは、この騒ぎに乗じて事件が起こるかもしれないと気を張っている、門兵の第5師団と警邏を担う第6師団だけだろう。あとは人々の生活の根底を担う第3師団だ。
だから、ニールが職員が誰も居ない冒険者ギルドで働いている事自体がおかしい。はっきり言って、冒険者ギルドを年明けから祭りが終わるまで閉めていても問題がないと言っても過言ではないだろう。
だが、敢えてシェリーはこの時期を選んて冒険者ギルドを尋ねた。ニールなら必ず仕事をしているだろうと。
「で、いったい何の用ですか?」
何度も催促するように冒険者ギルドに来るように言っていたニールだ。それなりに用があるのだろう。
「一つは年末に起こった『愚者の常闇』ダンジョンで見慣れない魔物が大量発生の件だ。あれ、いったい何をしたんだ?」
まるでシェリーが何かをしたと確信を持ってニールは言っている。それに対しシェリーは普通に答えた。
「何もしていませんが?」
そう、シェリーは何もしていない。あれは面倒だとオリバーが黒い鎧を繰り出しただけで、シェリー的にはオリバーに動くように言ったにすぎない。
「そんなわけないだろう?見たことのない鎧を着た者が魔物を駆逐していたと報告をうけたが、あれは人としての動きではなかったと言われた。何をした?」
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