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25章-4 冬期休暇-悪魔という存在

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「おお!すまぬ。すまぬ。ここ何年も人前に出ることがなかったのでな」

 獣王神フォルテが鬣のような金髪をガシガシと掻きながら、悪びれた様子で力を押さえてくれた。
 それによりカイルは大きくため息を吐きながら、力を抜いていく。そして、近くにいたオルクスも立ち上がって身を起こした。やはり、神という存在は地に住まうものに与える影響は大きいようだ。

「では、獣王神フォルテ様。グレイさんを戻してさっさと帰ってください」

 シェリーは呼んでもいないのに、この場に顕れた獣王神をさっさと追い返そうとした。しかし、酒目当てでこの場に顕れた獣王神は戻るはずもなく。

「酒だ。まず酒がないと話にならん!」

 先程名が上がったお酒を飲むまで戻る気がないようだ。仕方がなく、シェリーはため息を吐きながら立ち上がり、ダイニングの方に向かっていった。
 そのシェリーについていくようにカイルもダイニングの方に向かっていく。シェリーのことだから、口が悪いがつまみでも作って出すつもりだろうと、手伝いをするために出ていったのだ。

 そして、リビングに残るは獣人と呼ばれる者たちだけになった。なんとも言えない雰囲気が漂っている。

「なぁ、フォルテ。あれは少しおかしくないか?」

 黒狼クロードが大型犬と言っていい大きさの赤い狼を指して言った。おかしい。それはどういうことなのだろうか。

「俺もあいつも獣化すれば、力を押えるが困る程の溢れんばかりの力に満ちていた。だが、あれば子犬と言っていい力しかない」

 クロードの言うあいつとは赤猿フラゴルのことだ。最近ではその力を大いに奮い、山を一つ消滅させたという噂が流れている。その者と比べるとグレイは子犬と言っていいかもしれない。

「む。それはそうだろう。我は加護を与えてはおらぬゆえ、そうなるであろう」

「加護を与えていないのか?」

 獣王神の加護がないという事実にを知ったグレイは狼の顔ではあるが、唖然としている様子が伺える。

「これはナディアの仕業だ」

 獣王神フォルテはグレイのこの状況を女神ナディアが行ったことだと言った。そのようなことはありえるのだろうか。
 その時、先程までシェリーが……カイルが座りシェリーを抱えていたソファに魅惑的な真っ赤ドレスを纏い、赤い髪の女性が優雅に腰を下ろして笑みを浮かべた姿で忽然と顕れた。

「フォルテ。久しぶりね。何千年ぶりかしら?」

「さて、そのようなことは忘れたなぁ」

 全ての者を慈しむような微笑みを目の前の偉丈夫に向ける女神ナディア。
 ニヤニヤと目の前の赤き貴婦人を小馬鹿にするような笑みを浮かべている獣王神フォルテ。

 この場にいる3人は……いや、一人は記憶から構築された存在でしかないが、誰もが気配を押し殺すように二柱の様子を伺っている。
 二柱の静かなる攻防に水を差すことなど出来やしない。

「何をしているのですか?」

 いや、機嫌が悪そうな声で声をかける者がいた。それは、トレイを持ってリビングに入ってきたシェリーだった。

 シェリーは笑顔でいるが目が笑っていない二柱に近寄り、ローテーブルに持っていたトレイを置く。そのトレイの上には、つまみになりそうな枝豆や塩辛、からあげにチーズなどを人数分の小皿に分けられてあった。

「それでナディア様はどのようなご用件で来られたのですか?」

 シェリーはそう聞きながらも、シェリーの後ろで箱のような大きな物を抱えたカイルからグラスと瓶を受け取り、女神ナディアの前にワイングラスを置き、瓶から赤い液体を注いでいく。
 どうやら、女神ナディアが来ていたこと知り、女神には赤ワインを用意していたようだ。

「あら?決まっているわ。そこのフォルテに用があるのよ」

 獣王神に用があるということを、女神ナディアは注がれたワインを見て、機嫌よく答える。

「では獣王神フォルテ様。お酒を出したので、さっさとグレイさんを元に戻していただけませんか?」

 シェリーはさっさと帰れという雰囲気を隠しもせずに言った。次いで、大きな徳利のような物から液体を注いだグラスを差し出しす。

「む!」

 お酒を出された獣王神は、お酒を出された瞬間、目の前にいる女神ナディアの事などよりも、お酒に釘付けになっている。差し出された透明な液体が入っているグラスに手を伸ばしたところで、シェリーにその手を叩かれ獣王神の手はグラスから遠ざかってしまった。

「酒が無ければ話にならないとおっしゃったので、そのお酒を出しましたので、先に戻してください」

 その獣王神にシェリーの冷たい声が更に追い打ちをかける。
 確かに獣王神は酒が無ければ話にならないとは言っていた。だが、それは獣王神的に飲まないと話にならないということだったのだろう。
 お酒を目の前にして飲めないという現状に、ショックを隠しきれないようだ。異界のお酒を目の前におあずけを食らった飼い犬の様に、シェリーの言葉に固まってしまってはいるものの視線は一点に固定されていたのだった。


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