上 下
557 / 780
25章-4 冬期休暇-悪魔という存在

544

しおりを挟む
 シェリーとカイルは閑散としている冒険者ギルドの中を歩いていた。人の姿は殆ど見られず、職員も暇そうに受付けのカウンターの席に座っている。

 ここがどこかと言えば、ギラン共和国の首都ミレーテの冒険者ギルドだ。別に今の時間帯が夜中というわけではなく、いつもであれば、朝の受付で人がごった返している時間帯である。何があったのかと周りを見渡して、シェリーは納得した。
 
 窓の外が真っ白で吹雪いているのだった。シーラン王国より北側にあるギラン共和国では厳しい真冬に突入していた。だから、冒険者ギルドに出入りしている人もまばらなのだ。普通はこの様に吹雪いているときに外に出るものではない。

 シェリーとカイルは閑散としたギルドの1階を横切り、二階へ続く階段を上って行く。その二階専用の受付にて、ギルドマスターとの面会を申し込んだのだ。
 そもそもなぜ、シェリーとカイルがこの首都ミレーテに来たのかと言えば、勿論完全体の悪魔の件である。

「あの~申し訳ございません。マスターは冬期休暇中です」

 受付けの女性は申し訳無さそうに言っているものの、若干何故この時期に来たのかという雰囲気を醸し出している。外は吹雪いているので、そんな日に外出しなくてもということだろう。

「冬期休暇ですか。ということは、春までここには来ないと?」

 シェリーはというと職務怠慢なのでは?という雰囲気を出しながら、ギルドマスターの来る予定をを確認する。

「そこまでとは言いませんが2ヶ月程は外もこの様な日が続きますので、来ません」

 受付け女性はきっぱりと言い切った。ギルドマスターが来ないとなると、ダンジョンへ続く扉を開けてもらえないことになる。
 仕方がないので、シェリーはいつも利用している二階の休憩スペースを指しながら言った。

「ギルドマスターが居られないのはわかりました。では、少しだけそこの休憩スペースを利用してもいいですか?」

 受付けの女性はホッと溜息を吐いて、同意するように首を縦に振る。恐らく、Sランクのカイルと揉め事を起こさなくて良かったということなのだろう。

 シェリーは二階の端にある休憩スペースまで行き、受付けに背を向けるようにしてソファに腰を降ろした。そして、空間に話しかけるように呼びかける。

「ユールクスさん、お話があるのですが」

 そのシェリーの言葉に応じるように、緑色の髪に金色の目の男性が床から出てきた。と、同時に受付けの方からガタリという音と悲鳴のような声が聞こえて来たがシェリーは無視をする。

「ラースか。ここ最近はよく来るな」

 確かにシェリーは先日ルークと共に訪れたばかりだった。

「今回は別件です。悪魔の件でわかったことがあるので報告です」

 そのまま話を進めようとするシェリーをユールクスは片手を上げて止める。

「少し待て」

 そうユールクスが言葉にした瞬間、どこかよくわからない応接室の風景に周りが変化した。いや、違う。ユールクスがダンジョン内を移動しただけだ。
 実は応接室のソファに座っていたままだったと脳が勘違いしそうなほど、全く違和感が感じられなかった。流石、神へと至る者だと言えばいいのだろうか。

 そして、元々シェリーと面会の予定があったかのように、シェリーとカイルの前に用意されているお茶と茶菓子。目の前には優雅にソファに腰を下ろして、ティーカップを傾けているナーガのユールクス。その背後には同じ色をまとったナーガの女性であるスイが控えていた。

「さて話を聞こうか」

 ティーカップを置いて言葉を発したユールクスの姿はこの地を統べる王のように、威厳を放っていた。

「実はシーラン王国のダンジョンがおかしな状況に陥っていましたので、調査依頼が出されたのです。ユールクスさんのダンジョンはかなり広いですが、問題が起こっていないか確認に来たのです」

 そのシェリーの言葉にユールクスは何を言っているのだという表情を浮かべた。その辺りにある若いダンジョンと比べないで欲しいということなのだろう。

「昨日、親友がダンジョンマスターをしている『愚者の常闇』に突如として穴が空いたのです。そこからダンジョンで管理されている魔物が出ていったのですが、その穴を開けた原因に陽子さんは気がついていませんでした」

「ちょっと待って。それは余りにもおかしな話だろう」

 そう、ダンジョンマスターとは己のテリトリーを息をするように全てを把握できる存在だ。それにも関わらず原因がわからないとは、有り得ないと言い切っていいほどことだ。

「ラースは我らを愚弄しているのか?」

 陽子の言葉を代弁したはずのシェリーに対し、ユールクスは絶対に有り得ないことを口にしたシェリーを脅すように、殺気をぶつけたのだった。


____________

 いつも読んでいただいてありがとうございます。
 そして、昨日実装されたばかりのエールを送ってくださいました読者様。ありがとうございます!Twitter等の♥ほど気楽な物ではありませんが、『良かった・面白かった』等で押していただけると嬉しく思います。
 楽しんで読んでいただけているのかの指標がアルファポリス様に無いので不安なところも若干ありました。ちょいちょい投稿をサボっている所為か読んでいただいている人が減って行くのを見てテンション下がりっぱなしだったのです(T_T)


あと、宣伝を少々。

第16回恋愛小説大賞に参加する作品を今日の20時ぐらいに投稿します。明日にはサクッと終わりますので、興味とお時間があれば読んでいただけたらなぁと思います。

『婚約者候補が同僚の師団長だった件~女嫌いの氷の騎士と貴族嫌いの公爵令嬢』

です。まぁ、題名そのままな話です。
よろしくお願いいたします!!

『上官に恋人役を頼んだら婚約届を渡された件』も投稿します。迷ったのですが、2本でいきます。
上の話のスピンオフになります。ご興味とお時間があればよろしくお願いいたします!!
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

処理中です...