上 下
552 / 775
25章-4 冬期休暇-悪魔という存在

539

しおりを挟む

「それにさぁ。今回は南の第3層の地区が一番酷かったんだよ。いくら修復したと思う?100箇所以上だよ」

 南地区限定というのは恐らく王都の南方にダンジョンがあるためだと思われるが、第3層という意味がわからない。第2層もと言われば、王都全体に何かが起こっているのか、若しくは炎王が全面的に悪いのかということになる。

「その修復に時間をかけていたら、ダンジョンの近くに穴なんて空くし、そこから出ていった大魔導師様の作成物は決して陽子さんが廃棄したいために、外に出したんじゃないからね!」

 本音が微妙に漏れてはいるが、修復していたら穴が空いたと言っていることは、これは炎王の影響によって空いたわけではないことがうかがえる。
 この流れだと、何かが故意にダンジョンに穴を開けるという行為に及んだという話になってくる。いったいどの様な者がダンジョンマスターである陽子の管理下にあるダンジョンに穴を開けるというのか。
 いや、例外の存在はいる。超越者と呼ばれる存在であれば、可能だろう。クロードとフラゴルのようにダンジョンに縦坑を作ることもできる。

「陽子さん。言い訳はしなくていいので、ルーちゃんは無事なのでしょうね」

 シェリーは陽子の『私悪くない』アピールをどうでもいいと言わんばかりにバッサリと切って、ルークの所在を確認した。

「ルーク君は無事だよ。普通のダンジョンには影響は与えていないから、今は10階層を攻略中でこれが終わったら地上に戻ろうって相談していたよ」

 陽子の言葉を聞いてシェリーはほっと溜息を吐いた。思ったより速いペースで進んでいたようだ。10階層を攻略したあと一晩休んでから地上に戻って王都に戻る算段なのだろう。

「それならよかったです」

「で、ササッち。大魔導師様、激おこだったよね?」

 陽子は己の管理不足をオリバーに叱咤されるのかと、ビクビクとして聞いていた。これは恐らくシェリーが屋敷の中で陽子に声を掛けて答えなかったのは、ワザとだったのだろう。あの屋敷内の会話はオリバーによって把握されている。もし、あの時陽子がシェリーの呼びかけに応えていたら、その話の内容もオリバーの耳に入っていたことだろう。

「あれは、寝起きが悪かっただけです」

 オリバーの機嫌の悪さは、寝ているところを起こしたシェリーに悪態をついていただけだったので、陽子に怒っていたわけではなかった。

「え?でもさぁ、あの黒いのを送り込んできたってことは、相当怒っているよね」

 陽子は黒い鎧武者のことを言っているようだが、なぜ、それを送り込んだイコール怒っているということになるのだろう。

「さぁ、ただ実戦で使って使えるかどうか知りたかっただけでは?」

「だって、あの作成物をちぎっては投げちぎっては投げってしているよー。普通なら致命傷になる高温のビームも弾き返しているし、鎧武者の開いた口から黒い火なんて吐いているし、怖ろしすぎるんだけど」

 鎧武者には面頬という仮面が付いているのだが、その開いた口元から火を吹いているらしい。

「元々はブラックドラゴンの素材で作られて、名工が魂を吹き込んだものですから、それぐらいできるでしょうね」

 シェリーは淡々と鎧武者の逸脱した行動を理解できると言う。すると陽子はシェリーの肩を掴んで揺すりだした。

「なんて怖ろしいものを大魔導師様に与えたのよー。陽子さんにそれも管理しろって言ってくるよね。絶対に!」

「オリバーには処分するように言っているので大丈夫では?」

「それって陽子さんに処分したって言われない?」

 泣きついてきた陽子の言葉にシェリーはそれもありえるかも知れないと思うのだった。


 大方倒し終わったのか、鎧武者の動きが止まったと感じたシェリーは陽子にその場所に連れて行ってもらったのだが、地上部分はダンジョンではないということで、穴が空いてしまったという場所に陽子のダンジョンマスターの特権で移動してきたのだ。
 そして、目の前にあるものに、愕然とする。

 つい今日の午前中に見たものと同じものが目の前にあったのだ。

「何?この黒い球体。陽子さんこんなモノ知らないよ?」

 陽子は気がついていなかった。ダンジョン内に異物が入っているというのに、それを異物として認識していなかった。ただ、ダンジョンに穴が空いて、中にいたものが外に出てしまったとしか認識していなかった。

 それはそれでおかしい。これはまるで共存する寄生虫のように異物として認識せずに排除対象から外れるモノ。

 そして、今日見たものも、その前見たものもダンジョン内にいた。それはダンジョンであることに意味があるようだ。

「陽子さん。何かおかしなことはないですか?」

「およ?おかしなこと?」

「例えば、ダンジョンポイントが異常に消費されているとか」

 ダンジョンポイント。それはダンジョンの力と言い換えていいものだ。そのダンジョンポイントを稼ぐ為にユールクスも陽子も大都市と言っていい街をダンジョン化しているのだから。


しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。 「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。 命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの? そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

処理中です...