上 下
541 / 780
25章-4 冬期休暇-悪魔という存在

528

しおりを挟む
カイル Side

 日に日に寒さが増していく朝、日がまだ昇らない空がしらじんできた時間にふと目が覚めた。
 そして、己の腕の中で眠るシェリーを見る。それだけでも己の心は満足できる。未だに不安感は払拭できないが、番の絆が結ばれていない以前の状態よりも、今のシェリーが己の番であると確固たる絆がある現状とでは、己の心の有りようが全く違っていた。

 いつ消えてしまうかわからない不安感が、番が側にいる安堵感に変わっていた。

 だが、変わらないものもある。シェリーを国に連れて帰りたいという独占欲だ。ここでは己の番に近づく者が多すぎるという苛立ち。

 はっきり言って、弟であるルークも目障りだ。シェリーが心を砕いてルークのためにしている行動が、ルークには全く伝わっていない。伝わっていないどころか、シェリーを邪険に見ているところがあるのも気に食わない。

 オリバーにも思うところもある。己にはわからないところでシェリーに共感していることだ。世界から解放されたからなのだろうか。だが、世界からシェリーの守護者の役目を与えられたオリバーはシェリーから離れることが無いように、シェリーも頼っているオリバーから離れることはないだろう。その信頼が己に向けられないことに憤りを感じる。

 だが、一番は炎王だ。昨日の朝の姿には憤りを通り越して殺意が芽生えた。
 同じ黒髪であり、いつもと違いシェリーと同じような服装をまとい『エンさん』と呼ばれる、どう見ても人族にしか見えない炎王をどう殺してやろうかと考えを巡らせた。

 炎王がシェリーと戦っている姿を見たことがあるが、刀という片刃の剣を使っているのと、尋常でない程の魔力を持っていることはわかったが、その全貌はようとして知れなかった。
 いや、一番上の兄と同様に得体のしれなさを感じたのは事実だ。伊達に千年という時は生きていないということだ。
 恐らく、本気で戦えばお互い無事では済まないだろうという感覚があるため、剣は抜かなかったが、これが炎王でなければ、確実に首を斬っていただろう。

 誰の番と手を繋いでいるのだと。


 しかし、ヨーコからあのような言葉が出てくるとは思わなかった。彼女の目は王都中枢まで行き渡っているだろうとは思っていたが、王都とダンジョンを監視出来る彼女の能力はいったいどのようなものなのだろうと気になるところではある。いや、ダンジョンマスターという者だからだろうか。

 まさか、高貴なる御方の威というモノが己に褒美をあたえるという考え。その言葉を聞いて否定する己がいたが、認められたという嬉しさがあったことも事実だ。
 内心、焦っているのは己だけで、空回りをしているだけなのではと思っていたからだ。だが、間違いではなかったという証。
 あの高貴なる御方だということに釈然としないが、この世で全てのモノを統べる存在であることに変わりはない。

 実際問題、シェリーと番の絆を繋ぐことは難しいと思っていた。シェリーの番に対する否定は尋常でないほどだ。ただ、幼少期の話を聞くと納得はできた。
 だから、シェリーと絆を結ぶには慎重にしなければならないとは考えていたのだ。しかし、神の威というものの介入であれほどすんなりと絆を結べたことに驚いたが、一番驚いたことがシェリーがそれほど怒っていなかったことだ。普通であれば、殺されないまでも、殺意は向けられると覚悟していた。だが、現実はシェリーは逆らうことの出来ない神の威の介入に対して憤っていたが、己に対してそこまで怒っていなかったのだ。

 恐らく、これが正解だったのだろう。もし、己の意志で行動していたとすれば、シェリーはルークとオリバーを連れて己の前から消えていたかもしれない。今まで築いてきた人々の関係など簡単に捨て去って、一人で聖女の役目を成そうと行動していたに違いない。


 そんなことを考えていると腕の中のシェリーが身動ぎして目を開けた。

 なんて愛おしい存在なのだろう。今だけは俺だけの番だ。
 このまま、国に連れて帰ってしまいたい。そして、誰の目に触れないよに閉じ込めてしまいたい。

 この独占欲に蓋をして、寝起きのシェリーに口づけをする。

「おはよう。シェリー」

 俺の愛しい番。

「おはようございます」

 今だけは俺だけのシェリーつがい

「今日は何か予定はあるのかな?」

 きっと、何もないだろう。黒髪になったシェリーは極力外に出ないようになった。冒険者ギルドの依頼も受けなくなったのだ。

「何もありません」

 そう何もない。このことには星の女神に感謝している。不用意に人の目にさらされることが無くなったのだ。

「じゃ、もう少し寝る?」

「起きますよ。朝ごはん作らないといけないので」

 いつも朝早くに起きて朝食を作っている。だけど、今日はそんなに早く起きなくてもいいのではないのか。

「4人分を作るだけだから、そこまで早く準備しなくてもいいと思うよ。ルークが起きてくるまであと1刻2時間はあるのだから」

 俺がそう言うと、シェリーは素直に目を閉じた。そんな愛しいシェリーを抱きしめる。

 あいつら、本当に帰ってこなければいいのに。

しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

処理中です...