上 下
540 / 780
25章-4 冬期休暇-悪魔という存在

527

しおりを挟む
「ルーちゃん。エンさんはもう帰ったのよ」

 炎王からもらった剣を大事そうに抱え込んだルークにシェリーは炎王が帰ったことを伝える。
 そのことにルークは残念そうな顔をしながら入って来た。そして、シェリーとカイルしか居なくなっている現状に首を傾げている。

 そして、カイルに抱えられているシェリーの前の席にルークは腰を下ろした。

「ルーク。魔剣はそんなに簡単には扱えない。冒険者でもBランクぐらいの実力がないと難しいだろう」

 剣を渡した炎王にアドバイスをもらえず残念がるルークに、カイルが微笑ましげな視線を向けている。きっとカイルにも経験したことなのかもしれない。

「魔剣。これって魔剣なんだ」

 初めて見る魔剣をルークは椅子の横に立て掛けて、ニコニコと微笑ましげにルークを見つめるシェリーに視線を合わせた。

「姉さん。神様が管理するダンジョンって何処にあるの?」

 先程、炎王が言っていたダンジョンの話だ。そのルークの質問にシェリーはニコニコとした笑顔のまま答える。

「ルーちゃん、それはナディア様のダンジョンよ」

 そう、幾度と無く女神ナディアから来るように言われているドルロール遺跡のダンジョンだ。

「でも」

 そこで、シェリーの否定の『でも』という言葉が出てきた。その言葉にルークはまた否定の言葉が出てくるのかとシェリーを睨みつける。

「そのダンジョンは魔眼を使えることが最低条件のダンジョンなの。使えないのであれば、最低レベルは100は必要」

「レベル100」

 ルークはシェリーの言葉を繰り返す。そう、ロビンという人物から言われた最低ラインのレベルが100だったのだ。

「そこはね、歴代のラースの大公になる者たちの最終試験場なの。魔眼をラース全土まで影響を及ぼすほどの能力を開眼させるための訓練場で、大公になる者の最終試験場。ルーちゃんがラースの大公になるというのなら、お姉ちゃんは止めないけれど、ルーちゃんは大公になりたいの?」

 その昔、シェリーとルークは大公になるための継承の権利を放棄をしたが、実はミゲルロディアの元で止められており、シェリーもルークも女神ナディアからディアの名を与えられているため、大公になれる立場にあるのだ。

 シェリーはルークにその意志があるのであれば、シェリーは止める立場にはない。なぜなら、恐らく女神ナディアは残り一人の魔眼持ちにもディアの名を与えるつもりはないと見受けられる。ならば、ミゲルロディアがその座を退いたとき、次の大公として名が上がるのはシェリーかルークしかいないのが、今の現状だ。

 ただ、聞かれたルークは戸惑っていた。神が管理しているダンジョンのことを聞いただけなのに、それが大公に成るか否かの選択肢に繋がったのだ。突然そのようなことを問われてもルークの中には大公という言葉なんてありはしないので、首を横に振る。

「そうね。ルーちゃんがダンジョンに行きたいというなら、王都の南にある『愚者の常闇』がいいと思うの」

 シェリーから出てきたおすすめのダンジョンとは陽子のダンジョンの名前だった。

「ルーちゃんは頭がいいから、攻略方法が指示されて、それを解きながら進むダンジョンが合っていると思う。それにそのダンジョンは魔物を倒して経験値を得るんじゃなくて、指示通りに攻略することで経験値を得ることができるの。それに、スキルも与えてくれることがあるからお勧めよ」

 ルークはそのようなダンジョンであれば、攻略できそうだとシェリーの話に耳を傾ける。

「それから、その魔剣は名工が作った一品物だから大切にね。そのような物を人に気軽に与えるのはエンさんだからできることなのよ」

 シェリーの言葉に目を見開いて椅子に立て掛けていた一振りの剣を見るルーク。普通であれば、手にれることができない剣神と火の神から加護を得ているファブロの剣だ。何も対価を求めずに人に渡すなど、炎王だからできるのだ。

「わかった。この魔剣が使えるように頑張る」

 ルークは嬉しそうに剣を持って、ダイニングから出ていった。その姿を微笑ましげに見つめるシェリー。

「でも、あの魔剣は叩き起こさないと使えないね」

 同じく出ていくルークの背中を見ていたカイルが一言こぼす。そう、カイルは言っていた魔剣はそんなに簡単には扱えないと。叩き起こさければいけないとはどういうことだろうか。

「いいのではないのですか?炎王は敢えて使えない魔剣をルーちゃんに渡したのでしょうから」

 これは不良品を炎王はルークに渡したということか。

「魔剣に主と認めさすにはルーちゃんは何もかも足りませんから、足りない物を補ったときには魔剣を解放する力も得ているでしょう」

 いや、炎王はルークに一つの目標として魔剣を与えたのだろう。力を得たいのであれば、神という不確定要素を頼るのではなく、この魔剣が火を吹くぐらいの実力をつけろという炎王の言葉では伝わらない優しさだったのだ。

しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

放蕩公爵と、いたいけ令嬢

たつみ
恋愛
公爵令嬢のシェルニティは、両親からも夫からも、ほとんど「いない者」扱い。 彼女は、右頬に大きな痣があり、外見重視の貴族には受け入れてもらえずにいた。 夫が側室を迎えた日、自分が「不要な存在」だと気づき、彼女は滝に身を投げる。 が、気づけば、見知らぬ男性に抱きかかえられ、死にきれないまま彼の家に。 その後、屋敷に戻るも、彼と会う日が続く中、突然、夫に婚姻解消を申し立てられる。 審議の場で「不義」の汚名を着せられかけた時、現れたのは、彼だった! 「いけないねえ。当事者を、1人、忘れて審議を開いてしまうなんて」 ◇◇◇◇◇ 設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。 R-Kingdom_8 他サイトでも掲載しています。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。 そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。 しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。 ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。 そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。 「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」 別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。 そして離婚について動くマリアンに何故かフェリクスの弟のラウルが接近してきた。 

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

処理中です...