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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた
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しおりを挟む「いや、軍部のことは僕の一存でどうこうなることじゃないよ」
「そうやって、一線を引いているから、このようになっているのではないのですか?第5師団長のこと。第4師団のこと。第3師団のこと。それから統括師団長を王都にとどめておくのではなく。現地に向かわせる。それは敵にとって脅威になるのではないのですか?別にトーセイのギルトマスターでもいいかもしれませんが」
「フラゴルは勘弁してほしいよ」
イーリスクロムはとても疲れたように言った。一国の国王とて口を出せる範囲は決まっていると。
「そこはクロードさんの名前でもだして、ゴリ押しでもしてください。ユーフィアさんの魔道具が完成すれば、第3師団長を第0師団長に引き抜いても問題ないですよね」
そう言いながらシェリーは足を進め、第3師団長のツヴェークの前で立ち止まる。そして、一枚の白い封筒を差し出した。
「ここまで足を運んでもらった約束のものです」
怪しいブツを取り引きしているかのように、何も宛名が書かれていない封筒を差し出している。そして、それを受け取っているツヴェークも突如として挙動不審な行動をしだす。オロオロと視線を迷わせ、震える手で封筒を受け取っているのだ。
「それでは、第3師団の半分の引き抜きをお願いしますね」
シェリーは第3師団長と第3副師団長がもめていた団員の半分を引き抜きを決定事項のように言った。問題が解決したのであれば、人数が減っても問題ないだろうと。
そして、シェリーは更に足を進め、出入り口の扉のところで、振り返りユーフィアに声をかける。
「ユーフィアさん。今日話に上がっていた魔道具の作成をお願いします。まぁ、これは国から依頼するべきことですが、ルーちゃんを連れ去った帝国の奴らをいつまでも王都内に居座られるのは腸が煮えくり返りそうですから」
そう言って、シェリーは扉を閉めて、立ち去っていった。シェリーが王都内の帝国の者達を排除しようとした理由は思いっきり私怨だった。
クロードに他の街がを捨てるのかと問われて、王都が優先だという意志を示したのはこういうことだったのだ。
シェリーが去っていった扉を見ていた亜麻色の髪の男が大きくため息を吐く。第3師団長の隣に立つ第3副師団長の地位にいる男だ。
「師団長。本気で第0師団の話を受ける気なのですか?」
第3副師団長はコソコソとツヴェークに耳打ちをして尋ねる。いくらなんでも無理な話だと。
「そうだな」
そう言いながらツヴェークはそそくさと懐に白い封筒をしまい込んでいる。何が入っているのかわからない封筒を誰にも取られないように。
「あの人物は誰ですか?何を取り引きをしたのですか?」
偉そうにした年下の女性の言うことを否定することもなく、怪しい封筒を受け取ったことに対し、副師団長は納得できないでいるようだ。当たり前だ。どう見ても外部の者にしか見えない人物の言うことを師団長が聞くということは問題視すべきことだ。
「お前、気がついていないのか?以前の姿ならまだしも、あの姿だぞ?」
ツヴェークは信じられないという表情をしながら副師団長に確認する。しかし、いつまでもナヴァル公爵家に居座るわけにもいかないと、クストとイーリスクロムの近くに寄って敬礼をする。
「我々も御前を失礼させていただきます」
ツヴェークの退出の許可を願う言葉に、疲れたようすのイーリスクロムは手を振るだけで、許可を出す。そしてクストはと言うと立ち上がり敬礼の姿をとっている。わざわざ第3師団長にここまで足を運んでもらったのだ。それなりの敬意を払っているのだろう。
第3師団の二人も立ち去り、残ったのはイーリスクロムとその護衛である近衛騎士団長のレイモンドとこのナヴァル家の当主であるクストとその妻であるユーフィアと使用人であるマリアとセーラだけとなった。
「流石にこの国を長年支えてきた人物は違うってことかなぁ」
イーリスクロムはソファの背もたれに疲れたと言わんばかりに背を預ける。いつも側にいるレイモンドと戦友のクストの前では取り繕わなくてもいいということなのだろう。いや、シェリーの前ではいつも王としての威厳なんてあった物ではない。
「痛いところを全部つつかれてしまったよ」
イーリスクロムとしてはわかっていたことだ。いくら軍部で国の護りを強化しようとも情報戦で遅れを取ってしまえば意味をなさない。もう一度『百獣』というものを再編すればいいということなのだろうが、獣人というものは本能というものが強く出てしまうときがある。そこを抑え情報収集ができる者達を集めるのは、些か困難であった。
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