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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

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「う·····」

 あまりにもの圧迫感にシェリーはうめき声を上げ、カイルから距離を取ろうと身を捩るが、人族のシェリーが竜人のカイルに力で敵うはずもなく。抵抗も虚しくされるがまま、カイルの魔力の塊を受けるしかない。

 しかし、その中でシェリーは世界が動いたと感じた。感じてしまった。シェリーは、世界の聖女である。世界はシェリーをこの世界の楔としてツガイを与えた。その世界が動いたということは·····答えに行き着いたシェリーは憤っていた。目の前のカイルにではない。
 ここにはおらず恐らくニヤニヤと笑みを浮かべながら、この状況をこの様に成るようになしたモノにだ。

 唇が離れていったシェリーの口から舌打ちが漏れる。そして、カイルを睨みつけた。

「カイルさん、騙し討ちのようなことをしないで、もらえますか?」

「ごめんね。でも、シェリーは自分の命を軽く見ているところがあるから、少しでも重しになればいいと思って」

 確かにシェリーは自分自身のことはどうでもいいと考えているふしがある。だが、シェリーはカイルの言葉を否定する。

「私は私のやるべきことをしているだけです。そして、聖女としの役目を成し遂げるだけです。それで、カイルさんの本音はなんですか?」

 カイルの本音。それは勿論。

「こうでもしないと『番』として側に居られない。シェリーが存在しない世界なんて価値なんてない。だから···」

「だからといって、『番の儀式』を強引にするのはどうかと思います。それに、何故、司祭が行う『番の儀式』がカイルさんだけで成立するのですか?おかしいですよね」

 そうカイルは先程シェリーに対して『番の儀式』を行ったのだ。だが、『番の儀式』には白き神に声を届けることができると言われているエルフ族が取り仕切るということが一般常識だ。それを行うには多額の金銭を要求されることにるのだが。

 一般的な『番の儀式』とは、『生命の果実』と言われる果実に互いの魔力を込め、互いに半分ずつ体内に取り込み、司祭が神への祝詞を捧げたあと、口づけを交わすというものだ。
 しかし、カイルはシェリーにそうとは悟らせず、『番の儀式』を成立させてしまったのだ。

 カイルの言う通り、シェリーはツガイというものを否定しており、『番の儀式』など以ての外だという考えを持っている。この様に騙し討ちでもしない限り、シェリーと共に同じ時を生きるという選択肢が無いことに等しいのだ。

「竜人族は番を見つけたら己のモノとするように、教育されているから、別におかしなことではないよ」

 己のモノ。それは竜人族の番に対する執着が現れた言葉だ。そして、教育されているという言葉。長命の竜人族であるが故に、時間的感覚が緩やかだ。それ故に、躊躇していると番を失ってしまうという教訓でもある。

「それに以前も言ったけど、俺たちの神はシエロ様だからね。シエロ様の加護が行き届くところなら、魔力を対価にして『番の儀式』を行えるよ」

 そう竜人族は元々白き神を崇めてはいない。自分たちの神は神竜シエロ神のみだと思っている。それはシェリーによって天空神シエロだと訂正はされたが、竜人族がシエロ神から加護を得ているのには変わりはない。
 カイルは『生命の果実』の代わりに一つのモノが半分になるキット○ットを代用品として使い、お互い食べさせ合い、カイルがシエロ神に願い、シェリーに誓いの口づけをする。これにより番同士の生命の繋がりができるのだ。

 『生命の果実』なんてその辺りに転がっていないので、竜人族は代用品で補っているのだ。いや、そもそも『生命の果実』はエルフ族が独占しているため、分けられて食べれるものであれば、何でもよかったのだ。

「シェリー。ごめんね。でも、同じ時を生きれないということに、我慢ができなかったんだ」

 我慢。竜人族としては····いや、一度つがいという者を見失ったカイルとしては、我慢していた方なのではないのだろうか。そして、己の国に連れて帰らなかったことも竜人族としては珍しいことだった。何故なら彼らは彼らの国から出ることはめったにない。

 カイルの言葉をシェリーはため息を吐いて、感情を押し流した。今回、カイルはカイル自身が行ったと思い込んでいるが、世界からの干渉を受けたのだ。
 きっかけは、カイルの想いからだったのかもしれない。『ユーフィアとクストが羨ましい』と。
 そこに白き神が付け入れた。シェリーが油断している今がチャンスだと。結果としてシェリーはカイルと共に生きる存在になってしまったのだ。

 そう、普通であれば人様の屋敷で軽々しく行うような儀式でなない。カイルにも常識というモノは存在する。そして、もしこのような事をカイルの独断で行ったとすれば、これは些か問題になってくるのだ。

 そう何かを感じ、慌てて応接室に戻ってきたグレイが低く唸り声を上げながら、近づいてきたように。



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