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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

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 広がる荒野の先には赤いドーム状のモノがいくつも連なって存在していた。その更に向こうから黒い巨人が向かって来ている。動きは怠慢ではあるが、まるで何か目的があるかように足取りはしっかりとまっすぐに向かってきている。

「『次元の悪魔』」

 クストが唸り声混じりで声をあげた。その声にシェリーは慌てて声をかける。

「師団長さん、これはただの過去の映像····記憶なのでユーフィアさんのように鑑賞するように座ってください」

 シェリーに言われ、己の番のユーフィアを見ると、次元の悪魔に対して敵意もなく獲物を見るようでもない。ただキラキラした目をしながら、この場を楽しむように次元の悪魔に視線を向けていた。その姿を見てクストも大人しく腰をおろし、相変わらず非常識なシェリーを一睨みしてから、再び次元の悪魔に視線を向けたのだ。だが、ふと何か違和感を感じたのかクストは首を傾げている。

 次元の悪魔が結果に触れた瞬間その違和感の正体に気がついたクストは、思わずと言う感じで声を上げる。

「は?」

 そう気がついたのだ。悪魔の特有の黒い皮膚に這うようにある血管のような紋様の色が変化したことに。

「ユーフィアさんの作った結界には奴隷を解放する機能がついています。正確には確認していませんが、恐らく次元の悪魔に灰色の制御石が使われていたのでは考えています。ですからこのような状態になっています」

 シェリーは結界の中で木偶の坊のように突っ立っている次元の悪魔を指し示し、スキルを解除した。この後には自ら身体を破壊しながらも次元の悪魔を倒すリオンの姿が存在するためだ。
 スキルを解除したことにより、荒野の風景から今まで居た応接室に戻って来たような感覚に陥る。時間にしてみれば5分にも満たなかっただろう。

「待て待て待て!今、もっとおかしな事が起きていたよな。どうみてもクラスチェンジしていたぞ!」

 クラスチェンジ。クストは何かを知ってるようだ。

「クラスチェンジとはどういう意味ですか?」

「いや、おかしな矛盾だ。『次元の悪魔』はザコというのは常識だ。あの魔導師長の言葉だが、赤は思考の劣化を示し、ただの力を振るうだけの能力しかない。だが、青は上位ランクになった証だと、世界を侵略する意志の現れだと言っていたぞ」

 どうやら、オリバー言葉らしい。

「その逆転が起こるなんてありえるのか?」

「知りませんよ。悪魔がクラスチェンジすること自体有り得るのですか?」

「は?ザコから完全体の悪魔に成るのは常識だ」

 その知識はシェリーの中には無かった。討伐戦の知識は全てオリバーから与えられた物だ。敢えてオリバーから情報抑制されていればシェリーの知識として存在しない。わざとなのか、その時はまだ必要ないと判断されたのかは知らないが、これは一度オリバーに聞くべきだとシェリーは心に決めた。

「師団長さん。面白い情報ありがとうございます。ということで、グローリア国内で発生したであろう次元の悪魔の制御をマルス帝国が行っていることがわかりました。第0師団をすぐに動かして情報収集すべきでしょうが、はっきり言って危険度が未知数過ぎて、動かせません」

 今の第3師団では次元の悪魔に対抗するまでの力はない。そして、捕まって制御石をつけられてしまえば、終わってしまう。

「恐らく灰色の制御石はまだ実験段階で本格的にはまだ使用していません。ということは何か目的のモノを完璧に帝国の意志にそうように制御してくると思われます。ですから、今の内にユーフィアさんには灰色の制御石を完璧に解除出来る方法と制御石を阻害出来る物を作って欲しいのです」

 シェリーは今回ユーフィアを訪ねた目的を口にした。流石に次元の悪魔を帝国の意志に準じるように制御されるとやっかいであるためだ。彼の者はユーフィアが残していった魔道具を元にして作っているならば、ユーフィアに根本的に解除できるものを作ってもらえると一番手っ取り早いのだ。
 そう、彼の者がオリジナルで創り上げたものは、最終工程で欠陥品を呈しているのだ。マルス帝国に各箇所に置かれいた盗聴器しかり、海上を飛行する特攻物しかり、ユーフィア曰く文字数の制限に引っ掛かっており、発動しないのだ。このことに彼の者が気がつくかどうかわからないが、ユーフィアの模倣品しか作れない現状では難しいだろう。

「わかりましたわ」

 ユーフィアは了承し頷いたが、その隣にいるクストは不満そうだ。

「なぜ、帝国はギラン共和国を標的にしたのだ?」

 不満ではなく、そもそもの疑問を感じていたのだ。いくら国境に面しているとはいえ、次元の悪魔が出現したという報告を受けたのはラース公国とギラン共和国のみ。しかし、ラース公国は自国で次元の悪魔が発生したと思われている。平地で陸続きであるのなら、ラース公国に向かわせてもいいという話をクストは言っているのだった。

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