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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

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「では、私は帰っていいですか?」

 シェリーは炎王から言われたことは終わったとばかりに、いつものように返りたい宣言をする。

「だから、佐々木さん。リオンを置いて帰らないでくれ」

 そして、炎王も同じ返事をする。

「ならば、あの者をシェリー・カークスがそのまま転移で連れて帰ればいい。そうすれば、我が無意味にここにいる必要がなくなる」

 ユールクスは不機嫌な表情を炎王に向けて言っている。転移で連れて帰るのはシェリーであるはずなのだが。

「ユールクス。そんなに俺がダンジョン内にいるのが嫌なのか?」

「我が今どれだけの不具合の修正をしていると思っている」

 炎王の言葉に対してユールクスは炎王に対してクレームを言った。そう、龍人の特性と言っていい世界への干渉する力のことだ。小さな世界だと認識されてしまうダンジョンでは炎王が引き起こす世界への干渉の力がより顕著に現れてしまうのだった。

「それは悪かったが、俺自身ではどうにもならないことだ。だったら、有意義な時間にすればいいってことだろう?あの悪魔の事はどう考える?行動制限だけではなく、何かしらの性質まで変えている大我の意志のことだ。」

 炎王の鑑定では【大我の石】という物であるらしい。しかし、以前シェリーが灰色の液体を視たときには別の名で見えたのだ。


【意思なき隷属の触媒】
 主の指示を忠実に行動する。意思をなくし生きる屍とする。ただ、指示が無ければ生きることの最低限の行動を取ることができる。


 そして、ユーフィアが用いた鑑定でも別の表記になっていた可能性がある。恐らく用いる媒体により誤差が生じているのだろう。

「炎王。その大我の石というものの詳細は視えたのでしょうか?」

 シェリーとユーフィアが視た内容に齟齬はなかったが、念の為炎王にも確認を取ってみる。

「ん?ああ、『己を無くし、ただ一つの根幹に沿い行動を起こさせる物』だ」

 ざっくりとはしているが、意味的観点からいけば、相違はないようだ。名称の違いは炎王はオリジナルで魔術を作っているから、起こってしまったことだろうか?いや、そもそも作り出された制御石に名など与えられていないのではないのだろうか。だから、真理の目を使うシェリーと創作された鑑定魔術を使う炎王に誤差が生じたのだろう。だが、根本的な違いはないので、これはきっと些細なことなのだ。

「そうですか。性質のことまではわかりませんが、意志を侵食するモノが存在することはユーフィアさんが確認しています。そして、ユーフィアさんの解除権限ではその侵食体までは除去できなかったと聞いています」

 ユーフィア曰くカマキリのハリガネムシのような存在だと。意志を乗っ取り、行動を制御する存在。

「んー?それじゃ、次元の悪魔の紋様の色が変化したのはなんだ?何かしらの命令が解除されたから起こった変化なのか?」

「そもそも、悪魔の紋様の色に意味があるのかわからないことなので、この話し合いは無意味なのでは?」

 シェリーはバッサリと炎王が出した議題を叩き切った。その事に炎王もわかっていたことなので『そうだよな』と言って項垂れる。

「そう言えば、もう一体の次元の悪魔が向かって来ていると言っていなかったか?」

 ふとカイルが思い出したように、ユールクスに尋ねた。そう、出現頻度がおかしい程次元の悪魔がギラン共和国に向かってきているのだ。

「それはもう結界に捕まって、結界内に留まっている」

 ユールクスは既に他の一体も結界内で立ち止まっていると答えた。

「その個体も皮膚の紋様が変化したかわかるか?」

「今回のモノは先程のモノより小柄だが、青き紋様が赤に変化したことは同じだった」

 何の意味があるのかわからないが、今回も色の変化は起こったようだ。

「考えてもわからないモノは仕方がないのではないのか?それはそういうモノと捉えればいいだけのこと。それにあの結界は100メルメートル間隔に張れるものだから、街道には常時張っておく必要もないだろう?これで、次元の悪魔対策になっているはずだ」

 カイルの言葉にユールクスはうなずく。結界内で動かなくなった物体など、いつでも始末はつけられるというものだ。

「だったら、シェリー。俺がリオンを担ぐから、さっさと帰ろう」

 珍しくカイルの方から帰る意志を示した。番であるシェリーの意志を汲んでの行動なのだろう。いや、それもあるかもしれないが、話に参加していなかったカイルはシェリーと親しげに話す炎王をずっと睨みつけていたのだ。そう、ただ単に炎王に嫉妬していたのだ。隣には炎王の番であるリリーナが存在しているというのにだ。

 カイルのその言葉にシェリーはカイルの膝の上から降りて立ち上がった。

「まぁ、問題点が新たに発覚しましたが、現時点では解決するものではないので、帰らせてもらいます」

 ユールクスの要望には応えたと、シェリーは清々しい表情で言った。いや、やっと帰れることに安堵したのだった。

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